晩御飯は低反発枕の後で
~前回のあらすじ~
寮、完成!
少なくとも4日前までは空き地だったはずの場所に突如として現れた建物。
私はとても驚きました。
「……建物って4日でできあがるんだ」
最近の建築技術はとても凄いようです。
私の祖国では、普通の家でも作るのにも3ヶ月はかかっていた気がするけど、流石は迷宮の町、ラビスシティーです。
コーマさんはこの中に行くように言ってましたっけ。
知らない建物に入るのは緊張しますが……。
扉の入り口に呼び鈴があるのでそれを鳴らすと、
「ようこそおいでくださいました、クリスティーナ様」
扉が開かれ、見知ったショートヘアのエルフの女性が出てきました。
「フリーマーケットの店長さん」
「メイベルとお呼びください」
「あ、はい。メイベルさん、コーマさんがここに来ているんですよね」
「コーマ様は今はいらっしゃいません。ですが、コーマ様からクリスティーナ様を案内するように仰せつかっております」
どうやら、コーマさんが呼んだ先はここで間違いないようです。
一体、何を考えているのか、私はわかりませんが、とりあえず彼女に案内されることにしました。
建物の中に入ると、そこはレストランでした。
奥の方からお肉を焼くいい匂いがしてきます。
「ここは明日から開業予定のレストランです。クリスティーナ様、ではこちらへどうぞ」
横の目立たない位置にある階段……階段の前に、【STAFF ONLY】の看板がぶら下げられている。
「2階はリラクゼーションルームとお風呂になっております。後でご案内いたしますね」
「お風呂があるんですか?」
公共浴場はこの町にもあるが、個人所有のお風呂となるとそれこそ、貴族の家でしかお目にかかれない。
その公共浴場も、町に一つしかないため、一度入るのに3時間とか並ばないといけない。
お風呂の順番には勇者特権で割り込むこともできないと言われ、毎日入ることはできない。
さらに、10分の完全交代制と決まっている。着替える時間を含めるので、実質5分くらいしか湯船につかっていられない。
「あとでクリスティーナ様もお使いになりますか?」
「ぜひっ! いいんですか?」
「クリスティーナ様でしたらご自由にお使いください。では、次はこちらにご案内します」
久しぶりのお風呂に思いを馳せながら、私は三階へと案内された。
「こちらの部屋になります」
応接間だろうか?
そう思って入ったら、そこは宿屋の一室のような部屋だった。
ただし、普通の宿と違うのが一つ。
とても綺麗な部屋だということ。
服を何着も入れられるクローゼットに、清潔感溢れるベッド。
ピカピカのトイレに魔力照明まで。
高そうな花瓶がテーブルに置かれ、そこに赤い花が刺さっている。
「こちらがクリスティーナ様の部屋になります」
「私の部屋?」
「コーマ様からお聞きになっていないのですか?」
はい、何も聞いてません。
メイベルさんが言うには、ここはフリーマーケットの社員寮なのだが、コーマさんも出資に協力したらしい。
なんでも、コーマさんが白金の装備を卸しているのがこのフリーマーケットで、メイベルさんとも知り合いだったそうだ。
その代わり、私をここに住ませることを条件の一つにした。
フリーマーケットのオーナーも、それに賛成したそうだ。
「もちろん、お代はいただきませんし、朝食と夕食もこちらで用意させていただきます」
「え? 無料ですか? お風呂も入り放題で?」
「はい。早速、お風呂に入られますか? それとも夕食になさいますか?」
「いいんですか? じゃあ、お風呂から!」
「では、御案内します」
まぁ、過度な期待はしないけど。
聖都のスイートルームに昔泊まったことがあって、そこにお風呂がついていたけど、棺桶みたいな小さなお風呂だった。
それでも、並ばずに入れるお風呂というのはそれだけで価値がある。
私は2階に行き、よくわからない文字(?)が書かれた布の仕切りをくぐり、扉を開ける。
広い脱衣所があった。
大きな鏡に私は思わず息を飲んだ。
こんな大きな鏡、めったにお目にかかれない。
脱衣所に置かれているのは、あとは鏡と、水の入った小瓶。
鍵のついた貴重品入れは存在しない。
盗まれないか? とも思ったけど、考えてみればここは従業員専用。
従業員は、目の前のメイベルさんを含めて全員奴隷。奴隷は隷属の首輪をしているから物を盗むなどの行為は基本禁止されていると思っていいだろう。
そのオーナーさんが適当な人間なら、何も命令していないこともありうるが、これだけ立派な施設を作った人が何も命令していないとは思えない。
とりあえず、安心してよさそうだ。
私は腰に携えていた剣を立てかけ、鎧を脱ぐ。
軽い鎧とはいえ、この時の解放感はいつも気持ちいい。
最後に服を脱いだ。
っていうか、脱衣籠の数が多い。10個はある。
まさか、10人一度に入るようなことになるんじゃないだろうか?
さすがにそんな窮屈なお風呂には入りたくないなぁ。
「どうかなさいましたか?」
私と同じように生まれたままの姿になったメイベルさん。
エルフ特有のスレンダーな体つき、いくら食べても太らないというから羨ましい。
もっとも、それは人間からエルフへの偏見であり、いくら食べても太らない原因は野菜中心の食生活であることは私も知っている。
それでもやっぱり羨ましい。私なんて食べすぎちゃったらすぐにお肉になって、すぐに筋肉に変わっちゃうのに。
「あの、メイベルさんも入られるんですか?」
「はい、お背中を流させてもらいます」
「そうですか」
そして、洗い場への扉を開けて私が見たのは――湯の桃源郷だった。
「え? こんなに広いの?」
これだと10人どころか、30人一緒に入ってもおつりがくる広さ。
しかも、風呂が三つに分かれている。
「あちらが通常の大浴場、あちらがオーナー自慢の薬湯風呂、そして、一番小さいのが水風呂になります。かけ湯をしてお入りください」
「薬湯風呂ってなんなんですか?」
「複数の効能のある薬草を使ったお風呂です、肩こり、腰痛、冷え性、便秘等、全29の効能がございます」
「じゃ、ちょっと入らせてもらいます」
私はかけ湯をして、薬湯風呂に入った。
緑色の液体は、迷宮のスライムや、東の地で見た毒の沼地を彷彿させるが、悪い感触はない。
少し体にねばりついてくる感じはあるが、それ以上に身体の芯から熱くなってきた。
水温はそれほど高くないと思うのに、なんだろう、この感覚。
でも、とても気持ちいい。
「ふわぁぁぁ……」
思わず声に出てしまった。
「お気に召しましたか?」
「はい、とっても。ところであの部屋はなんですか?」
横目に、ガラス扉を見る。
中から淡い光が漏れているが、あれもお風呂なんだろうか?
「あれは蒸し風呂ですね。オーナーはサウナと呼んでいましたが」
「あ、北の国で聞いたことあります。私はあれ、少し苦手なんですよね」
「実は私もですよ。昨日、この寮がオープンしたとき、みんなで蒸し風呂に入って我慢大会をしたんですけど、私が真っ先にギブアップしました。でも、ものすごい汗がでるので、同僚がダイエットにはちょうどいいって喜んでました」
「そうなんですか、今度利用してみようかな」
「ぜひお使いください」
その後も私はお風呂を満喫した。
ここのお湯が常に出続けていることにも驚いた。
ライオンを模した石像の口から常にお湯が出続けている。温度は少し高めのため、いつまでたっても湯船のお湯がぬるくなることはない。
だけど、やっぱり一番驚いたのは――
「うわぁ、本当に髪がサラサラになりますね」
リンスという髪を洗う薬品だった。
これはぜひ毎日使いたいレベルだ。
これだけサラサラになったら、夜と朝の手入れもぐんと楽になる。
心なしか私自身がいい匂いになった気もした。
「ふぅぅ、気持ちよかった」
ふかふかのタオルで身体の水気を取って、服を着る。
鎧は――つけなくていいか。
「よかったら後で鎧はお部屋に運ばせましょうか?」
「いいですよ、これくらい自分でしますから」
こういう時のために、私はいつも風呂敷を持ち歩いている。
風呂敷の中に鎧と剣を入れた。
「そろそろ夕食の準備も出来上がると思います。今日はオーナーの手作り料理ですので、ぜひ召し上がっていってください」
「それは楽しみね。すぐに行くわ」
私はそう言い、3階の自室に戻った。
そして、鎧と剣の入った風呂敷をベッドに置き――その手ごたえの無さに驚いた。
まずは布団。なにこれ? まるで雲みたいな触り心地。雲なんて触ったことないけど。
それに、マットレス。こちらは押すとゆっくりと返ってくる素材。枕も同じようだ。
少しだけ、少しだけ横になってみようかしら?
大丈夫、感触を確認するだけだから。
あ、なに、この布団。
こんなに軽いのにとても暖かい。
それに、マットレスも、最初は少し硬いかと思ったけど、吸い込まれていくように私の身体に合わせて変形していく。
ダメだ、このままだと眠ってしまう。
夕ご飯があるのに……このまま眠っちゃうなんて……
その日、初めて私の中で、睡眠欲が食欲に勝利した。
~薬草~
ポーションと並ぶ回復アイテムの代名詞です。
テイルズでは、回復アイテムではなく、ステータス恒久UPアイテムとして登場しています。
さて、この薬草。
使用方法は食べるのか、それとも塗るのか。
一般的に、傷を治療する方法としたら、やはり塗るほうが正しいはずなんでしょうね。アロエみたいに。
でも、多くの作品では薬草は食べるもの、ポーションは飲むものとして扱われています。なんで草食って怪我治るんだよ、とかそういうツッコミはお約束です。まぁ、漢方薬のイメージなら食べるのが正解かもしれませんし、毒消し草ならまだ少しは納得できるんですが。
ちなみに、薬草を道具名ではなく、薬に使われる草全般と考えると、多くの種類があります。
治療目的のアイテム以外にも、ウルティマというゲームでは、魔法を使うときにMPと一緒に薬草を消費します。
ドラクエシリーズでは8Gとお安いアイテムで、ホイミを覚えるまで、もしくはホイミを覚えてもMPが少ない間は重宝するアイテムです。近年では、
上薬草、特薬草などの派生アイテムも出てきていますので、これからの活躍に期待しましょう。




