プロローグ
最初の部分がはじまりの物語のコピペになります。ご了承ください。
~前回のあらすじ~
琵琶湖で溺れて、気が付けば異世界にいた。
……あれ、何か忘れてない?
俺は物心ついたときから何かを集めるが好きだった。
おそらく、父親がプロベースボールチップスカードを集めていたからだろう。
仮装ライダーカードやエクスクラメーションマンチョコの世代なら絶対にはまっただろうなぁと思う。
俺が集める対象となるのは決まっている。
・コレクトアイテムが有限であること。
これは当然だ。
例えば、プロベースボールチップスの場合、2015第一弾のみを集める。というのなら俺は全て集めたい。
だが、2015年第一弾、第二弾、第三弾と集めて、2016年第一弾、第二弾と永遠に続けるつもりはない。
実際、2012年第一弾と、2011年第二弾はラッキーカードも含めてコンプリートしたが、それ以外には手を出していない。
・お金がかかりすぎないこと。
これは、学生が学生たるゆえん。
バイトをしているが、それでも金は有限である。
まぁ、時間が無限であれば、とは思ったこともないが。
でも、有限であればこその楽しみ方もある。
たとえば、今、湖の上に小舟を浮かべ、
「ふふふふふ、来た!」
手に伝わる僅かな振動に俺は歓喜した。
これぞ、まさに待ったあの魚の手ごたえに違いない。
リールを回す。
魚影が姿を現したのでタモを用意した。
慌てるな、慌てるな、俺。
釣りは魚との駆け引き。いわば勝負。
「来たっ!」
俺が釣り上げた魚は、ニゴロフナ!
これで、琵琶湖で釣れる魚全種類GET!
釣りあげた証拠に魚拓をとる。
ミッションコンプリートだ!
というか、最後に残ったのが琵琶湖名物のフナだとは思わなかった。
ただ、近年はニゴロフナの収穫量が減っているからなぁ。
キャッチ&リリースの精神で、ニゴロフナを湖に戻してあげる。
去年、名物ということでフナ寿司を食べに行ったら、そのフナ、四国から取り寄せたって話してたもんな。頑張って繁殖してくれよ。
一年越しになる琵琶湖で釣れる魚コレクションはこれにて終了。
ただ、こいつらは元に戻せないがな。
クーラーボックスの中のブラックバスやブルーギル等の外来種の魚を見て俺は嘆息をもらした。
それともう一匹、こいつは万が一にも逃がすわけにはいかないので、すでにとどめはさしている。
ていうか、なんで琵琶湖にカンディル(アマゾンに生息する人食いナマズ)がいるんだよ。
尿道から入ってきたり、肉を食い破って体の中に入ってきて襲ってくる。
ピラニア? え? なにそれ、可愛いね。と言いたくなるほど凶暴な魚だ。
一体誰が放流したんだよ、もしも万が一繁殖してしまったらどうするんだよ。
「どうやって食べたらいいのかなー、軽くフライにするか」
とはいえ、ブラックバスもブルーギルも生臭いからなぁ、下ごしらえが大変だ。小麦粉はあったような気がするが、他に何持ってたかなぁ。
小舟の上で鞄の中身を確かめる。治療用の救急道具と栄養補助食品もしっかりある。
小麦粉と油、鉄鍋にカセットコンロ。あと油をしみこませるための大量の新聞紙もあるな。
よし、今から作ってみるか。
――そう思った直後、強い風が吹いた。
船が大きく傾く。
「うお、あぶね……」
慌てて船の両端を掴み、バランスを取る。
まぁ、さすがに転覆は――
『困った。まだ転覆しないのか』
「……え?」
空中に、銀髪ツインテール、黒いドレスの美少女が浮いていた。
半透明で、センスで扇いでいる。
「……幽霊!?」
思わぬ幽霊の登場に俺は立ち上がり、
『幽霊とは失礼ね! 私はルシル! 大魔王ルシファーの娘、ルシルよ!』
「どっちにせよ人外かよってうわっ!」
バランスを崩して倒れてしまった。
あれ? 身体が浮かばない……俺、死んだんじゃないか?
などと思っていたら、さっきの幽霊少女が俺の横に現れた。
『このままだと死ぬわね』
「ぼばべぼべびばぼぼ(お前のせいだろぉ)!」
なんで水の中なのに普通に話してるんだ。
って、幽霊に対してのつっこみじゃないな。
てか、今のせいで水が大量に身体の中に――
『助けてほしければ私の手を取りなさい。私の世界に連れて行ってあげるわ』
なんだ、これ。幽霊の世界って、やっぱり俺、死ぬのか?
『幽霊の世界じゃないわよ。もちろん、こっちの世界に戻る方法も教えてあげる』
この時、俺は溺れる者は藁をも掴むならぬ、幽霊をも掴むということわざを作り出した。
『大丈夫、あなたには集めてもらうだけよ』
集める? 大丈夫だ、それなら得意分野だ。
で、何を集めればいいんだ?
俺の心を読んだのか、それとも偶然か、幽霊の彼女は俺が集めるべきものを言った。
『72財宝。私を大魔王にするために集めなさい!』
薄れゆく意識の中、最後に見たのは――クーラーボックスから逃げていくブラックバスとブルーギルの姿だった。
あぁ、カンディルのとどめをさしておいてよかった。と心から思った。
※※※
そして、気が付いたら、俺は森の中にいた。
突然、森の中にいる理由もそうだが、他にも違和感があるような気がする。
森といってもジャングルのような鬱蒼と茂り空も見えないような場所ではなく、整備されている山道という感じだ。ただ、アスファルトの道ではない。
空をみあげると、太陽が左斜め上方に浮かんでいたが、今の時間がわからない以上、あっちが東か西かもわからない。もう少ししたらわかるんだろうが、そもそもここがどこだかわからない以上、方角がわかったからといって意味はない。
時間――そうだ、スマホ! あれがあればGPSで現在の位置がわかるかもしれない。時計代わりに使っているスマホを探そうと、自分の身体を調べ――違和感の正体に気付いた。
自分の服装を確認すると、琵琶湖で溺れた時に着ていた服じゃなかった。
黒い服だ。動きやすいが、何故か左袖から先がない。左右不対称にも限度がある。まるで中二病に罹患した者のファッションのようだ。
そもそも、琵琶湖で溺れた直後、なんで山の中にいるんだ?
フラッシュバックするのは、可愛い女の子の幻想。
『助けてほしければ私の手を取りなさい。私の世界に連れて行ってあげるわ』
俺はそう言われて、彼女の手を取った。
ということは、ここはあの少女の世界なのか?
異世界?
「はは、異世界って、そんなもんあるわけないだろ」
独りごち、平静を装おうとする。
そうだ、これはドッキリだ。
海外のドッキリは一般人の一人を騙すために数百人、数千人単位で凄いドッキリが行われたこともあるという。日本でドッキリといえば小ネタや芸能人を対象にするものばかりだが、日本もここまで来たのか、はは。
ということは、そろそろ出てくるんじゃないか?
魔物とか。
俺がそう思うと、森の茂みから、それが盛り上がった。
鬼――そう思った。角が生えていたから。
茶褐色の肌で一本の角が生えた巨人。毛のないゴリラといったほうが近い気がする。これは、日本のドッキリかと思ったが、もしかしたら日本の文化を間違えて認識している外国人のドッキリかもな。
そうか、鬼か。
【HP:250/250】
なんだ? 何か、変なものが見える……え? 何、これ。
HPって、まさか、ヒットポイント?
はは、んなわけないよな。
俺が半笑いでいると、鬼が真横の木に拳を振るった。
それで木が折れて倒れる。若木じゃない、しっかりとした木だった。
それが、一瞬で倒れる。
(ドッキリ? 本当にドッキリなのか?)
殺気を感じるんだが。
「ぐうおぉぉぉぉぉっ!」
鬼が吠え、俺に拳を振るってきた。
おいおい、ドッキリだからって、いやドッキリだからこそ、一般人を傷つける攻撃があるわけない。
だとすれば、これは――現実?
俺、死んで生き返って、また死んだの?
死を覚悟した、その瞬間。
俺の身体は自然と動いていた。
「え?」
自分でも信じられない動きで、俺はその鬼の拳を躱していた。
いくら攻撃されようが、身体が自然に反応している。
なんで?
――あぁ、これはもしや。
俺はある確信にも似た考えがあった。
そして、それを実験するために、俺は拳を握りしめ、鬼に向かって拳を振るった。
直後――ある意味予想通り、ある意味予想外の展開が起こる。
吹っ飛んだのだ。あの巨大な鬼が。
俺の拳に接触したら、その衝撃で吹っ飛んだ。
鬼は二十メートルほど吹っ飛んで消えた。
何があったのかと思って鬼が消えたところに近付いたら、鬼の角が残っていた。
店とかがあれば、こういうアイテムを買い取ってくれる気がするんだが、どうなんだろう? そもそもこの世界に人間はいるのか?
拾い上げて、何かに使えるのかなぁと見る。
……………………………………………………
オーガの角【素材】 レア:★★
食肉鬼、オーガの角。薬の材料になる。
オーガは角が長いほど立派だと言われる。
……………………………………………………
……!?
脳内にメッセージが流れ、このアイテムについて日本語で説明してくれた。
あぁ、やっぱりか。
俺は気付いた。気付いてしまった。
まず、第一に、ここは間違いなく異世界だ。
じゃなければ、脳内にこんな情報が流れ込んでくるはずがない。
あれは、鬼は鬼でもオーガだったのか。まるでファンタジー世界だな。
そして、俺には、異世界チートの力がある。
今確認できただけでも四つ。
・反応速度が半端ない。
・筋力が半端ない。
・対象のHPを確認できる。
・アイテムを鑑定できる。
この様子だと、他にもチートな力があるかもしれない。
例えば、魔法とか、超能力とか、召喚魔法とか。
魔法か……。やってみるか。
思うがままに魔法を唱えてみよう。
「古に滅びし闇の炎よ今こそ我の前に現れ、その力を顕現せよ! エンシェントノヴァ!」
前に手を突き出したまま静止する。
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。
てか死んだのは俺だ。恥ずかしすぎた。
中二病に罹患していると思われる。この服装のせいで余計に変な漢だ。
よし、魔法の問題は後回しだ。
せっかく鑑定スキルがあるんだし、とりあえず俺が持っている見慣れない服などを見てみるか。
……………………………………………………
吸魔ジャケット【服】 レア:★×7
使われた魔法を吸収してMPを回復するジャケット。
鉄以上の強靭さを併せ持つ最高級の防具。
……………………………………………………
……なにこのチート。
えっと、靴は?
……………………………………………………
皮の靴【靴】 レア:★★
ただの皮の靴。皮で作られた靴。
履き心地抜群、丈夫で長持ちの一品。
……………………………………………………
あぁ、こっちは普通だ。確かに履き心地はいいんだけどさ。なんだろ、このチグハグさ。
あとは鞄か。ウエストポーチのように腰に付けられたバッグを確認する。
……………………………………………………
アイテムバッグ改【魔道具】 レア:★×5
多くアイテムを入れることのできる。アイテムバッグを入れることはできない。
アイテム以外を入れることもできない。容量は無限大。
……………………………………………………
四○元ポケット来たぁぁぁっ!
これがあれば、置き場に困るコレクションアイテムとかがあっても簡単に入れて置ける。
異世界物で定番とはいえ、ここまで至れり尽くせりで、本当にいいのか?
という気持ちになる。
ルシルという魔王の娘は、そこまで俺に72財宝を集めてほしいのか。
こんなアイテムやこんな力を俺に授けることができるのなら自分で探せばいいのに。
でも、やっぱり異世界といえばアイテムBOXだよな。
とりあえず、四次……じゃない、アイテムバッグにオーガの角を入れて、俺は近くの町を探して歩き出した。
見るもの全て新鮮、とまではいかないが、驚きは多い。
さっき、遠くにとても大きな鳥がいた。ドラゴンではないが、始祖鳥のような鳥だ。
さらに、歩いているとチート能力を二つ見つけた。
なんと、俺には遠くにいる敵の位置がわかるのだ。
心眼と名付けたこの能力、「あれ、あっちに敵がいる気がする!」と思ったら、本当にそっちに魔物がいた。
ここまで至れり尽くせりなら地図でも用意してくれたらよかったのにと思ったが、地図の能力はなかった。
あと、力が強くなったためか、体力も増している。
1時間歩いているのに全然疲れている感じがない。
ただ、さっき太陽が傾いていたのはどうやら沈んでいる途中だったらしく、もうすぐ日の入りという感じだ。
今日は野宿をするしかないか。
ほら穴を見つけてそこに入ることにした。
にしても、本当に暗いな。
こういうとき、魔法使いならこういうのに。
「ライト!」
……なんてな。あぁ、恥ずかしい。と思ったら……え?
目の前に光の球が現れた。
これ、俺が出したの?
うそ、俺、魔法を使えてる?
めっちゃ地味な魔法だけど、使えてるよな?
「光の球、前に行け!」
俺が命令すると、光の球は俺の思っているように前にふわふわと進んでいった。
今度は口に出さずに、スピードを上げるように命令してみると、速度は明らかに早くなった。
どうやら、俺の意志に反映して動いているらしい。
それにしても、結構広い洞穴だな。しかも深くまで続いている。
鉱山だろうか? よく見ると、壁の一部とか明らかに補強されている後がある。
「ここは――」
広い場所に出た。
さっきまでむき出しだった地面は石畳に代わり、壁も天井も石造りになっている。
そして、鋼鉄の扉と大量のオーガ。魔物の気配はこいつらか。
オーガが光る球に反応し、こちらを一斉に睨み付けた。
「やぁ、久しぶり。さっきのオーガは君たちのお兄さんか弟さん?」
そう尋ねたら、オーガが「ぐおぉぉぉっ!」と叫んだ。
あぁ、怒ってる、これ、絶対。
殴り掛かってくるオーガ相手に、俺は拳を振るった。
その巨体が飛び、奥にいるオーガたちに命中。結果、四体同時に倒すという偉業を成し遂げた。
パンチが単体攻撃だというのはデマなようだ。
仲間が殺されたことでさらに怒り狂ったオーガ達だったが、チート能力を得ている俺の敵ではなかった。まぁ、労せずして手に入れた力なんで、自慢するのはよくないが。
結果1分でオーガ20体殲滅終了。
オーガの角やらオーガの肉やらが落ちたので、それを集めてアイテムバッグに入れた。
「レベルは上がらないのかな……」
強くなる必要はあまり感じられないが、異世界といったらやっぱりレベルアップだろ。ステータスとか見れないのかな? ステータスオープン!
……無理か。
結局、
【HP:9031/9031 MP:888/890】
という現在HPと現在MPを、魔物と同じように確認することしかできなかった。
そして、俺は部屋の奥にある鋼鉄の扉を見る。
「開けられるのかな……」
まさか宝物庫?
能力チート、アイテムチートの次は財産チート?
いや、待て。
こういう時、宝物庫の前には守護者がいて、戦闘になる。
いくら俺がチートを持っているとはいえ、苦戦は必至だ。
なら、今日はひとまずアイテムの確認とかするべきじゃないか?
アイテムバッグの中に何か入っていないか?
例えば――武器とか。
「剣、一番強い剣出て来い! きんきら輝く剣!」
そう祈り叫び、俺は手をアイテムバッグの中に入れた。
“けん”は“けん”でも、くじびき券が出てくるとか、そういうギャグはいらないぞ。
そう思いながら出てきたのは、くじびき券ではなく、銀色に輝く剣だった。
……………………………………………………
プラチナソード(神)【剣】 レア:★×7
神匠によって鍛えられたプラチナの剣。
魔法を斬って、弾き返す力もある。
……………………………………………………
すげぇぇっ!
え、これ刀身部分全部プラチナ!? 売ればいくらになるんだよ、これ。
しかも、魔法を斬るだけでなく、弾き返すの?
俺の着ているジャケットは魔法を受けても平気なんだけど。
あ、でもジャケット以外の部分も魔法を受けることがあるから、この剣はあったほうがいいか。左手が何故か無防備だし。
剣以外の武器を見ようかな槍とか弓矢とか……斧とか。
いや、剣でいいや。武器はいい武器でも、俺自身は素人だからな。
にしても、一体、このアイテムバッグの中には何が入ってるんだ?
なんでも出てくるんだろうか?
「元の世界に戻るアイテム!」
俺はそう言って、アイテムバッグの中に手を入れた。だが、何も出てこない。
やっぱりなんでも、というわけにはいかないか。
なら、
「薬! 一番効果の低い薬は?」
そう言って出てきたのは、小さな薬瓶だった。
……………………………………………………
ミニポーション【薬品】 レア:★
小さいポーション。飲むとHPが僅かに回復する。
飲みきりサイズで戦闘中も楽々補給。
……………………………………………………
やっぱりポーションなのか。一体、どれだけポーションがあるんだろうか?
ミニポーションの数を調べてみるためにアイテムバッグから全部出してみると、8個だった。
少なくはないと思うが、正直、これからのことを考えると心もとない。
一番効果の低いミニポーションが8個となると、効果の高いポーションはもっと少なくなってくると思う。
とりあえず、薬を全部出してみるか。
まずは種類から。HPを回復するアイテムを全種出してみた。
ポーション。
グリーンポーション。
チェリーポーション。
エースポーション。
アルティメットポーション。
エリクシール。
特に、アルティメットポーションとエリクシールの効果は凄い。
なんでも治療できるとか、チートだ。
……………………………………………………
アルティメットポーション【薬】 レア:★×6
状態異常、HP、MPを全て回復することができる。
ポーションもいよいよここまで来た。でもやっぱり不味い。
……………………………………………………
エリクシール【薬品】 レア:★×8
伝説の薬。一滴かけるだけで全てが回復する。
死者だけは生き返らせることができない。
……………………………………………………
という説明文だ。
次に、数を調べてみた。
ポーションは20本もあった。逆に、チェリーポーション、グリーンポーション、エースポーションは3本ずつしかなかった。
「アルティメットポーションは……お、2本目あったか」
もう一度手を入れると、3本目が出てきた。
3本あったら助かるな。4本目は、お、4本目もあった。
………………………………………………あれ?
100本目、200本目、300本目と数を数えていくうちに、部屋の中はアルティメットポーションで満たされていく。
なぜか容器が異なるが、それよりもその数は異常だ。
1012本目……もあった。1013本目、1014本目……もういい! これ以上置けない。
「アルティメットポーションはたくさんある……と」
全てをアイテムバッグの中に入れるのも苦労した。
次にエリクシールを取り出した。
エリクシールは目薬みたいな薬瓶に入っていて、その数は20本あった。
一滴で回復できるというのだから、それでも多いくらいだ。
これなら、守護者がいても倒せるだろう。
と思ったけど、なんだか腹が減ってきたな。
何か食べ物でも入ってないかな。
……………………………………………………
牛丼【食品】 レア:★★
ごはんの上に肉と玉ねぎを乗せて特製だれをかけた一品。
紅ショウガが無性に欲しくなる。早い、安い、うまい!
……………………………………………………
うん、いや、まぁ、異世界料理とかいわれてゲテモノ料理が出てくるよりはマシか。本当は異世界ならではの料理を食べたかったんだけど。
あと、割り箸もダース単位どころか、グロス単位で入っているようだ。
そして、牛丼のいい香りが狭い空間に充満する。涎が出てきた。
俺は割り箸を持ったまま合唱した後、牛丼を一口。
「うまっ!」
なんだこれ、今までで食べたことがないくらいうまい。これが牛丼なんだとしたら、俺が食べていた牛丼はなんなんだ?
濃厚な肉汁、玉ねぎの甘み、そして極上のタレが御飯と相まって、最高のハーモニーを奏でている。
これが料理アニメの中だったら、口から光を放ってリアクションしているだろう。
僅か3分で牛丼を平らげた俺は、アイテムバッグをくれたであろうルシルという魔王の娘に感謝した。
これをルシルが作ったのだとしたら、彼女は料理の天才だな。
と思ったが、思わぬ副作用が俺を襲った。
飯を食べたら眠くなってきた。
肉体は強化されていても眠気はあるらしい。
「寝るための道具とかあるかな」
アイテムバッグの中を探ると、敷布団と掛布団、そして枕が出てきた。
何このアイテムバッグ。もう最強じゃないか?
布団は気持ちいいし、枕も頭によく馴染む。最高だ。
もしも日本に戻れるのなら、このアイテムバッグはぜひとも持って帰りたい。
そう思ったのだが――そういえばなぜだろう。
俺はこうもすんなり異世界を受け入れられている。その理由がわからない。
それに、何かとても大切なことを忘れている気がするんだが――
そして、俺は思い出した。とても大切なことを。
「あ! ボートの延滞料……はいいか。日本に戻ってる頃にはもう時効だろう」
琵琶湖で釣り船を借りたままだったことを思い出し、どうしたものかと悩んだが、異世界まで来てそんな悩みを持ちだすのもどうかと思う。それに、この奥に財宝があるんだとしたらそれこそ考える必要はない。
いや、それどころか、財宝もすでにこのアイテムバッグの中にあるんじゃないだろうか? なんて考えながら、とりあえず、日本に戻ることを目標にして、俺は寝ることにした。
お気楽コーマ。




