はじまりの話7
~はじまりの話6のあらすじ~
ルシルが召喚した魔物は、二匹の瀕死状態のコボルトだった。
ルシルが召喚した二匹の犬の魔物――コボルトは瀕死の状態だった。コボルトで合ってるよな?
切り傷やすり傷だらけで、動くこともできないようだ。
一体、何があったんだ?
「失敗ね。ただでさえ弱いコボルトなのに、さらに瀕死状態なんて」
やっぱりコボルトだったか。
「……そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早く治療しないと」
「治療ってどうやって? 私はコーマの封印で魔力をほとんど失っているし、召喚魔法で僅かに残ってた魔力も全部使っちゃったから。魔石がないと回復魔法も使えないわよ」
ルシルが言う。
「ルシル、俺が持っていた荷物はないか? あそこに、救急セットが入っていたはずだ」
「コーマの荷物なら、そこの倉庫に入れておいたわ。生きてる魚が三匹いたけど、あれはため池に入れておいたわよ」
生きてる魚?
ブラックバスとブルーギルか……流石に異世界でも殺したはずのカンディルが生き返った、なんてオチはないよな?
俺はそう思いながら、小屋の中を見た。
椅子と水瓶程度しかない小さな部屋だった。
他にあるとしたら、麦の種と、よくわからない雑貨類。そんな部屋の隅に、俺の荷物が置かれていた。
クーラーボックスの中は何もない。
リュックサックの中は栄養補助食品と、水の入ったペットボトル、そして……うん、包帯、ガーゼ、テープなどがある。
俺はそれを取り出すと急いでコボルトたちの元へ向かった。
「すぐに治療するから、ちょっと待ってろ!」
俺は二匹のコボルトのうち、より怪我の酷い一匹に駆け寄り、
「少し染みるけど我慢しろよ」
俺は蒸留水で傷を洗い流し、ガーゼを押し当てた。
「ぐるうぅぉぉぉぉっ!」
コボルトが痛みに叫び声をあげ、俺の肩に噛みついて来た。
「コーマ!」
「大丈夫だ……いいか? 俺はお前を治療したいだけだ。それだけなんだ」
「コーマ、どうしてそこまでするの?」
「あぁ、なんでだろうな。だが、この二匹を見たとき、助けたいと思ったんだ」
俺はそう言い、コボルトの頭を撫でた。
すると――俺の誠意が通じたのか――コボルトの噛む力が弱くなった。
違う、誠意が通じたんじゃない、気を失っている。
さっきのが本当に最後の力だったんだろう。
「よし、待ってろ、今治療するからよ」
俺はガーゼと包帯、テープを使い、治療していく。
もう一匹のコボルトはじっと俺を見ていた。
そして、応急処置を終え、今度はもう一匹の治療をしていく。
こっちのコボルトは鋭い目をしているがとても大人しい。
静かな闘気を持った武士みたいだ。
「お前のほうは大丈夫みたいだな」
怪我は多いが深い傷はない。
問題は最初のコボルトだ。
問題は傷口だけじゃない。
熱も酷い。ばい菌が入ったのか。
「くそっ、こんなことなら怪我の治療法についてきっちり学んでおくんだった」
アイテムクリエイトでは、まずは薬を作ろう。
最終目標は、どんな怪我でも一瞬で治せる薬の作成だな。
何年かかるかわからないが絶対に作ってやる。
頼む――死なないでくれ。
応急処置の知識がほとんどない自分が悔やまれる。
「コーマ、一人分、回復魔法が使えるMPが回復したわ。この子を治療してあげる」
ルシルは俺の横に座り、そう呟いた。
「本当か! 頼む!」
「コーマの怪我は後でいいの?」
「こんなのかすり傷だ。いいから頼む」
「わかったわ。『癒しの力よ、かの者を治療したまえ、ヒール!』」
ルシルの魔法により、コボルトの怪我が回復した。
ふぅ、助かった。
「凄いな、ルシルの魔法は」
「このくらいなんてことはないわよ」
「……悪い、ルシル、ちょっと頼む」
肩の痛みが激痛へと変わり、熱を持ってきた。
そして――俺はその場に倒れ――
顔を何かが湿らせた。
なんだ?
何かが舐めてる?
俺は目を開けると――犬がいた。
いや、犬じゃない、コボルトだ。
「そうか、お前、元気になったのか」
俺はコボルトの頭を撫でてやると、コボルトは「わう」と吠えた。
お前は、そうか、重症だったほうだな。
俺の肩は――怪我がすっかり治っている。ルシルが治療してくれたようだ。
「コーマ、目を覚ましたのね」
「おう、ルシル、ありがとうな。そっちのコボルトも元気そうだな」
ルシルと一緒にいたコボルトは、武士のようなコボルトだな。
今は刀ではなくクワを持っている。
「グーとタラには畑を耕してもらうことにしたわ。コーマって人間だから食事をしないと死んじゃうでしょ?」
畑って、造りはじめてすぐに食べ物ができるわけじゃないんだけどな。
それより、
「グーとタラ? もしかして、それがコボルトの名前か?」
「そうよ。昨日一日、ぐーたらして働かなかったから、ちょうどいい名前よ」
「……ひどいな、それ」
でも、名前がないと不便だし、俺も名前のセンスはないから、まぁいいか。
「じゃあ、この子がグーだな。よろしくな」
俺がグーの頭を撫でてやると、とても気持ちよさそうにしていた。
「にしても、ルシルの召喚魔法は凄いな。魔物がこんなに懐いてくれるなんて」
「私の召喚魔法の強制服従は私相手にしか効果はないわよ」
「え、それって……」
「この子たちに、コーマの言うことを絶対に守るように、って命令する予定だったんだけどその様子だと必要なさそうね」
そうか、俺のことを認めてくれたんだな。
ありがとうな、グー。
俺は再度、グーの頭を撫で、部屋の中にあった竹の籠を背負い、ルシルに言った。
「なぁ、ルシル、この迷宮にはグーとタラ以外の魔物はいないんだな?」
「ええ、いないわ。例外で、ため池の中には、お父様がどこからか持ってきた蟹の魔物がいるけど、魔物と呼べるほどの力はないわよ」
「そうか。なら、ちょっと材料を探してくるわ」
俺はそう言って、倉庫を出た。
「あ、そうだ、ルシル、この倉庫だけど――」
「倉庫じゃないわ、魔王城よ」
「……魔王城……って……いや、いいんだけど、魔王城……ね」
俺は倉庫――もとい魔王城を見て、小さく微笑んだ。
確かに、新米魔王の俺にはちょうどこのくらいがいいかもしれないな。
よし、じゃあアイテムを探しに行かしてもらうか。
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Episode01 勇者試験
薬草からの物語に続く。
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とりあえず、はじまりの物語がここで完結です。




