破壊の権化の復活
~前回のあらすじ~
ベリアルが空間の壁を打ち破って現れた。
「ルシルちゃん!」
私が見た者は――何もない場所から金色の毛を持つ黒色の腕が伸び、ゴブカリ君とルシルちゃんを貫いた瞬間だった。
そして、何もない場所から、腕に続き、体が出てきます。
赤い目――金色の毛、二本の角。オークジェネラルよりも大きな、全長5メートルはあろうかという巨体の持ち主。
それの放つプレッシャーだけで私は気を失いそうになります。
そして、それは、貫いたゴブカリ君とルシルちゃんを横に大きく投げました。
私とコメットちゃん、タラ君は急いで二人の飛ばされた方向に走り、壁に激突した二人の容体を確認します。
「……さ……きに、る……しるさまを……」
「ゴブカリ殿は某が治療をします! 二人はルシル様を」
タラくんの指示で私は、先にコメットちゃんが向かっていたルシルちゃんの様子を見て――驚いた。
これは一体……私が見たのは、いつものルシルちゃんではありませんでした。
5歳くらい年下だったはずのその姿は、私とそう変わらないくらいまで成長していました。
そして、お腹に大きな穴が空いています。
私はアイテムバッグから清潔な布を取り出して、急いでその穴の血を止めようとしますが、こんなことでは止まる気配がありません。
「……ルシル様、もう少し待ってください!」
コメットちゃんが、コーマさんから貰っていたアイテムバッグから、エリクシールと呼ばれる薬を取り出し、彼女に垂らしました。すると、みるみるうちに傷が塞がって行き、穴の開いた、血まみれの服の下には綺麗な肌が復元されました。
ですが――。
私はルシルちゃんの胸に耳を押しつけました。
「心臓が動いていない!」
私はそれを確認すると、彼女の心臓の位置を確認し、両手を組んで肘を曲げないように垂直に力を下へと加えます。
肋骨が折れても構いません。それでも心臓さえ動けば、アルティメットポーションで回復できます!
コメットちゃんには人工呼吸をするように指示をし、力を一定のリズムで加え続けました。
「お願い、ルシルちゃん! 戻ってきて!」
心臓マッサージを続けても、ルシルちゃんが息を吹き返す気配がありません……このままじゃ……そう思った時。
「……コーマ様っ!」
コメットちゃんが叫んだのと呼応するように、ルシルちゃんの身体が光を放ち――気が付けば彼女の身体が大きく――20歳くらいの女性へと姿を変えていた。と同時に、口から息が漏れた。心臓が――心臓が動き出した。
よかった、これで……そう思った時だった。
大きな地響きが鳴り響いた。
何が起こったのか、そう思ったら――コーマさんが……いえ、コーマさんだったはずのそれが――巨大な獣と戦っていました。
「……だめ、コーマ……だめ」
薄っすらと瞼を開けたルシルちゃんが、そう呟きました。
※※※
気が付けば、俺は闇の中にいた。
闇――どこまでも続く闇。その中に俺は囚われていた。
そして、闇が集まり、人をかたどる。
【お前に会うのは二度目だな、コーマ】
その声は……あぁ、今まで散々人の頭の中で煩かった声じゃないか。
てか、普通に話せたのなら普通に話せよ。
あと、二度目って、一度目に会った記憶がないんだが。
【一度目は、お前が私の魂を飲み込んだ時だ。もっとも、あの時はお前には私を見るだけの力はなかっただろうがな。それからも封印されてこうして会話をすることもできなかったが、封印が解かれた今、こうして話すことができる】
封印が解けた?
そうだ! ルシル! あいつを助けないと!
早く俺を元の場所に戻してくれ!
【元の場所もなにも、ここはコーマ、お前の精神世界だ。そして、お前は闇に――私の力に取り込まれた。お前は破壊を選んだ。彼女を殺した怪物を破壊し、そして自分すらも破壊する諸刃の道を。もう、お前の身体はお前のものではない。見てみろ】
――その時、俺の目に映ったのは……殴られている化け物――ベリアルの姿だった。
あいつ、殴られているのに、かなりうれしそうにしてやがる。
だが、その光景は俺の見ている光景らしいのだが、自分がしているという実感はまるでない。
まるで、バーチャルリアリティーゴーグルをつけて他人がつけたカメラの映像を見ているような、そんな感覚だ。
ベリアルを殴る感触も、戦いの空気も、痛みでさえも感じることはできるが、それは情報として入ってくるだけで自分のものだという実感がまるでわかない。
俺の身体は、ベリアルの角を握り、その巨体を大きく投げた。
ベリアルは投げ飛ばされながらも己の口から咆哮による衝撃波を飛ばしてくる。だが、俺の身体はその衝撃波を浴び、痛みを感じても一気に前に跳び、ベリアルの角に拳を下した。
ベリアルの角が折れ、そこから魔力が抜け出していく。
そうか、ベリアルの弱点が角だったのか。
そして、俺の身体はベリアルの角を握り――その角をベリアルの胸へと突き刺した。
――ウソだろ、あのベリアルを――変身してパワーアップしたベリアルを圧倒してやがる。
この力、ルシルに封印される前よりもはるかに上回っているんじゃないか?
【当たり前だ。私の力は前のままでも、依代であるお前の肉体は大幅にパワーアップしている。それより――いいのか?】
何がだ?
【今のお前の身体は破壊の権化――破壊の対象はあの怪物だけではない。このままだと、この迷宮を――いや、この世界を破壊しくす化け物になり果てる】
なっ!
それはマズイ!
俺の身体はベリアルに再度角を突き刺し、とどめを刺そうとした。
だが、ベリアルの身体が動かないのを確認すると、その身体を掴み上げて運んでいく。
「がはっ…………コーマよ、俺様は今、最高に幸せだ。お前みたいな奴と戦えて。グリューエルの反対を押し切ってきた甲斐があった」
ベリアルがそう言う。俺の身体は止まらない。
ベリアルの身体を迷宮の壁に押し付け――決して壊れないはずの――だが、ベリアルの攻撃により壊れることが証明されてしまった壁に角を突きつけ――両腕を大きく前に出した。
直後――俺の両手から赤い魔力の球が溢れ出し、その魔力の球が前にいるベリアルと、迷宮の壁を一瞬のうちに消し去った。
「……こんなのが地上に出たら」
ゴブリン王の誕生どころの話じゃない。
世界が――壊れるぞ。
7章もあと2話か3話かな。
7月から約半年、なんとか毎日更新できました。
来年もまた毎日、よろしくお願いします。




