ベリアル迷宮への突入
~前回のあらすじ~
ひとときの休憩を楽しんだ。
ルシルが立ち上がり、脱いでいた靴を履いたため、タタミをアイテムバッグにしまった。
そして、ルシルは小さな革袋に入っていた土を辺りにばら撒き、何か作業を始めた。
「コーマさん、あれ、何をしてるんですか?」
「あの土は、半年前にグーとタラ……グーってのはコメットちゃんの半身であるコボルトの名前な。とにかく、その二人を召喚したときに魔法陣を描いていた土なんだよ。ルシルはその土に残った魔力の残留物を解析して、逆方向に移動できる転移陣を作ってるんだ」
「そんなことできるんですか……!?」
クリスが信じられない、という感じで叫んだ。
驚くのは当たり前だ、この町にある10階層へと続く転移陣は、数百年前からこの町にあるものがそのまま使われている。
当時の魔術師が数百人がかりで作ったと言われている。
それを、ルシルは一人で、しかも彼女自身が行ったことのない場所に転移陣を作ろうとしているのだから。
「ルシルはクリスと違ってやればできる子だからな」
「はい、本当に凄いですね」
「あぁ、(俺の嫌味をここまで華麗にスルーできるとは)本当に凄いな」
時間がない状況だと、適当にその周辺に転移先を作る予定だったが、ユーリが去ったおかげで時間ができたため、確実にグーとタラがいた場所に転移陣を開く。そのために時間がかかっている。
「でも、本当にクリスも来るのか?」
「はい、乗り掛かった舟です」
乗り掛かった舟というよりは、毒を食らわば皿まで、という感じだと思うが。
「クリス、今から行くのはベリアルという奴が魔王の迷宮だ。そのベリアルっていうのがライオンみたいな髪型の男なんだが、正直、俺より強いと思う。あいつに見つかったら、下手したら全滅する事態になるかもしれない。それでも来るのか?」
「つまり、ベリアルさんに見つからなければいいんですね。大丈夫です、子供の頃はグレンズ広場かくれんぼ大会でチャンピオンになったこともあるんですよ」
「この世界にもそんな平和な大会があったんだな。そして、それを自慢にできるお前も平和だな」
参加したいとは思わないが。
観戦したいとも思わないし、スポンサーになりたいとも思わない。
そもそも、かくれんぼって、テレビ番組とかだとそれなりに盛り上がるような気がするが、あれは複数の場所に設置されたカメラから面白そうな場所だけを編集しているから面白そうに見えるだけで、実際、一ヶ所から見ているだけなら面白くないと思う。ドロケイでずっと牢屋の中にいるのと同じだからな。
「コーマ、勇者魔王の漫才をやってる間に、転移陣のセッティング終わったわよ」
とルシルは、呆れた様子で俺に告げた。
漫才をしているのはあいつだけだ。むしろクリスのソロ漫談だ。
「転移陣は一方通行よ。ベリアルがこの迷宮に入ってこないための措置だから。帰りは私が別の転移陣を作るか、もしくはコーマに渡した持ち運び転移陣と、コーマの転移石で帰ることになるから、コーマ、しっかり私を守りなさいよ」
あぁ、言われなくてもルシルだけは生きて帰すよ。絶対に。
「でも、持ち運び転移陣で帰ったほうが私は楽だし、コーマも絶対に死なないでね」
「俺が生きてた方が楽なのか。それは確かに重大責任だな」
と、俺が嘆息とともに告げた。俺の心を見透かすように告げたルシルの言葉を、気持ちとともにありがたく受け取っておくよ。
「じゃあ、俺が最初に行く。次にゴブ(仮)、クリス、コメットちゃん、ルシルの順番で、最後にタラが入ってきてくれ」
と入る順番を指示する。
「コーマ様が最初なんですか?」
「あぁ、何があるかわからないからな。アイテムとかもあるし、臨機応変に対応できるのは俺だけだろ。一応、ベリアルには……なんというか、嫌われてはいないはずだからな、いきなり鉢合わせても殺されることは……たぶんないと思う」
出くわしても豚汁食べさせたら見逃してくれるよな。でも、あいつ、戦闘狂っぽいし、いきなりバトルを申し込まれる可能性も高い。
……目が合ったらバトルって、どこのポケ○ントレーナーだよ、とか思ってしまう。
「コーマさんが行かないなら、私から行きますね」
クリスがそう言って……当たり前のように転移陣に入って行った。
「二番目は僕ですね」
とゴブ(仮)も普通に入って行き、俺は慌てて二人を追いかけた。
「グダグダね……」
転移陣に入る直前にルシルがそんなことを言ってきた。
うるせぇ、俺が一番よくわかってるよ。
転移陣に入ると、すぐに景色が変わった。
先に転移陣に入っていたクリスとゴブ(仮)が周囲を見ている。
……ここがベリアルの迷宮か。
索敵スキルでも、周囲に敵の気配は感じない。
俺が転移陣から離れるとコメットちゃん、ルシル、タラも続いてこちらにやってきた。
にしても……なんというか、普通だな。
あいつの迷宮だし、てっきりジャングルのような迷宮かと思ったんだけど。
通路は薄暗いし、なんというか心が不安で押しつぶされそうになるくらい静かで暗い。
壁には彫刻のような模様が入っていて、歴史を感じる造りになっている。
少なくとも、クリスと入った迷宮の中にはこんな場所はない。
想像していたベリアルの迷宮とは正反対の見た目だ。
「タラ、ここで合って……」
振り返ってタラを見ると、凄い汗を流していた。
コメットちゃんも少し震えている。
そうだ、この場所はちょうど傷だらけの二人が召喚される直前にいた場所になるんだ。
いい思い出の場所であるわけがない。
「申し訳ありません、主。もう昔の某とは違うことは理解しているのですが」
「いや、こっちももう少し気を遣うべきだった」
「……コーマ様、弱化の泉はあちらです……ここから歩いて3時間程の場所にありますが……途中に魔物の巣窟があります、覚悟してください」
「魔物の巣窟か。本気で戦う相手か? それともウォーミングアップで戦える相手か?」
「ウォーミングアップですね」
とタラは自信ありげに言った。
よし、ならウォーミングアップがてら、行ってみますか。




