クリスの決意
~前回のあらすじ~
コーマが人と決別する決意をした。
迷宮を進むこと2日。
148階層を突破し階段を下って行きました。
ユーリ様が言った通り、17階層を降りてから、迷宮には魔物は一匹もいません。
好調と思えたのですが……ルルちゃんの顔色が日に日に悪くなっていきます。
休憩を進言しても、ユーリ様は取り合ってくれません。
こんな時にコーマさんがいたら、何かいい薬を用意してくれるんでしょうが。
「クリスティーナさん、ゴブリン王の素体は150階層です……がその前に少し厄介な相手が来たようです」
「わかりました」
私は剣を鞘から抜き、臨戦態勢で、その敵がいるという場所に走りました。
そこで、私が見たのは――
「って、なんでコーマさんがここにいるんですか!」
思わぬところにいるコーマさんに、私は思わずそう叫んでいました。
まぁ、コーマさんが急にいなくなったり急に現れたりするのもいつものことなのですが、今回は酷いです。
「よぉ、クリス。流石だな、ここまで来たのか」
「私はみんなで来たわけですから。コーマさんの方が凄いですよ、一人でここまで――」
その続きを私は言えませんでした。
コーマさんが冷たい瞳で、私に斧を向けました。
「なぁ、クリスに、ユーリさん、悪いがここから先は通せないんだ。このまま大人しく帰ってくれないか?」
「どういうことですか!?」
「他の勇者達は既に撤退は完了している、全員無事だ。後はお前たちだけだ」
え?
他の勇者の撤退は完了している?
「スライムとゴーレム達には、二人が帰るときには襲わないように言っておく。だから、このまま帰ってくれ」
それって、まるで……まるでコーマさんが……、
「やはり、君がここの主だったわけか」
「やはりって、お前、最初からわかってたんだろ、全部。だから、俺にゴブリン王について教えたんだろ」
コーマさんの言葉に、私はさらに混乱します。
目の前のコーマさんが偽物?
通信イヤリング! これさえあれば目の前のコーマさんが偽物かどうかも。
私は自分の耳につけていた通信イヤリングをとり、通話できるか試しました。
ですが、目の前のコーマさんが……耳に付けていた通信イヤリングを手に取り、握りつぶしました。
突如、私の通信イヤリングが呼び出し中から不通の状態に変わります。
「悪いな、クリス。お前との生活、そこそこ面白かったけど、これで終わりだ。借金はチャラにしてやるよ」
「どういうことですか、なんでコーマさんが魔物達の味方をするんですか!」
「ユーリが言っただろ、俺はこの迷宮の主だって。ゴブリン王だろうと、俺の配下の魔物には違いない。配下のことは守ってやる。それが上に立つものの役目だ」
「クリスさん、よく聞いて下さい。コーマさんは人の姿をしていますが、ただの人間ではありません。彼こそこの迷宮の魔王であり、そして、私達が殺した――君のお父さんを殺した闇竜の力を宿しています」
――――っ!?
「コーマさん、ウソ……ウソですよね?」
お願いです、嘘と言ってください。
そう思いました。
ですが、その願いは虚しく終わります。
「クリス、お前、俺が竜化している姿を見ているのに今の話をウソと思えるって、どんな思考回路してるんだよ」
コーマさんは、いつものように私をバカにして続けます。
「事実だ。俺の中には、この迷宮の主、ルシファーの力が眠っている。その力を利用して、俺はこの迷宮の主をやっている。わかっただろ、俺とお前とじゃ、いるべき世界が違うんだ。いいか――」
コーマさんは小さく息を漏らして、息を再度吸い込んで言い切りました。
「俺は魔王だ」
魔王――魔物の王。
数多くの作り物語において、勇者が倒すべき存在。
コーマさんは、自分こそがその存在だと明かしました。
「コーマくん、君が魔王だろうと私はどうでもいい。ゴブリン王となる素体をこちらに引き渡すつもりはないのかね? 本当は君自身に彼を殺してほしかったのだが」
「そんなつもりはない。言っただろ、俺はあいつを守ることにしたって」
「じゃあ、地上のことはどうなってもいいんですか! ゴブリン王が誕生したら、ラビスシティーが……町のみんなが、メイベルが、リーが、ファンシーが、シュシュが、レモネが、クルトくんが、アンちゃんが魔物達の侵攻に巻き込まれるかもしれないんですよ!」
「それは俺がなんとかする! ゴブリン王を誕生させないための秘策も考えてある! きっと、成功する」
コーマさんが言いきります。
「それは何パーセントで成功するんですか? 50%ですか? 99%ですか? もしも失敗したとき、君はゴブリン王となる素体を斬ることはできますか? いいえ、君はできません、そこで合理的に動けるようなら、最初からゴブリン王の素体を生かしたまま放置しません。いいんですか? 君が守るべきは彼なんですか?」
「確かに、俺はあいつよりも守るべき大切な人がいる。ただな、50%? 99%? そんな確率なんてわからないよ、まだ試していないんだからな。そんな確率なんて知るか。部下のことは100%守る、これが俺の魔王道だ!」
この人は……なんて馬鹿なんですか。
私のことをバカバカ言っていて、自分の方がよっぽどバカじゃないですか。
「……はぁ」
私は笑顔で息を漏らし、剣を鞘から抜きました。
コーマさんの方に歩いていき、そこで踵を返しました。
「ユーリ様、コーマさんのことを信じてみませんか? コーマさんはいじわるでお金にうるさくて、私のことをバカバカ言って、秘密主義で突然いなくなって連絡もとれなくなって、それに対して文句を言っても謝りもしない人ですけど――」
「おい」
私の後ろでコーマさんがうめき声を出しますが、私はそれを無視して続けます。
「コーマさんがやると言ったらやってくれます。だから、私はそれを信じたいです」
「いやいや、クリス、俺の中にはお前の親父さんを殺した闇竜の力が宿ってるんだぞ!」
「私バカなんでよくわからないんですけど、闇竜の力が宿ってるだけで、コーマさんが闇竜じゃないんですよね? なら別にいいです! ゴブリン憎めど棍棒憎まずです!」
「そんな諺があるのかどうかは知らないが、俺は魔王だぞ!」
「コーマさんが魔王であろうとなかろうと、私の従者であることに違いありません。コーマさんが部下を守るために戦うのと同じように、私も従者のことくらい信じさせてください!」
そして、私はユーリさんに言います。
「ユーリ様、安心してください。私が必ずコーマさんと一緒にゴブリン王誕生を阻止します! ですからユーリ様は地上へ――」
「ふざけるなっ!」
ユーリ様が怒りをあらわに怒鳴りつけてきました。
「何のために君を連れて来たと思っている! 君はコーマ相手の人質として連れてきたんだ! 彼は君相手に本気で戦えるはずがない、君に彼を足止めさせている間に私はゴブリン王の素体を倒す予定だった。なのに、安心してくださいだと!」
そこまで怒鳴り、ユーリ様は笑い出し、
「もう茶番はうんざりです。クリスティーナ、コーマ、君たち二人にはここで死んでもらいましょう。そして、ゴブリン王の素体は私が処理する。死んで、あの世で後悔しなさい」
彼はそう言うと、ユーリ様はこの行軍で初めてルルちゃんを下ろし、私に剣を向けました。




