勇者は下り、魔王は上がる
~前回のあらすじ~
勇者達が11階層を突破、コーマ達は上の階層に向かっている。
「クリスティーナさん、マナポーションをお願いします」
「はい!」
私はアイテムバッグからマナポーションを取り出して渡しました。
14階層で、魔法を使っていた人達の中に、疲労の色が見えてきました。
マナポーションの数には限度があります。
クルトくんをはじめ、錬金術師の人達が作り、さらに町中のマナポーションを買い占めたのですが、使っている広範囲魔法はMPの消費が激しいらしく、マナポーションの消費もそれに比例して多くなります。
ちなみに、マナポーションは私とユーリ様、スーさん等、アイテムバッグを持っている十人が預かっていますが、私の預かっているマナポーションは残り3本程度しかありません。
こんなときに、コーマさんがいたらアイテムバッグの中からいっぱい薬を出してくれるんでしょうが……。
と、その時、一匹のプラチナスライムが私の肩に当たりました。
油断しました。幸い、怪我らしい怪我はしていませんが、もしもこの攻撃が強力な一撃だったら、私の肩が使い物にならなくなっていたでしょう。
戦いに集中しないと。
コーマさんのことを考えるのも、コーマさんに対して愚痴を言うのも、全部終わってからにしましょう。
そして、ユーリ様が、剣を地面に突き下ろしました。
振動を感じ、ユーリ様の背中にいるルルちゃんが右の方向の壁を指差しました。
探知魔法――ルルちゃんが使う無詠唱、無発声の探知魔法です。
ユーリ様が放った剣による振動の跳ね返りから、敵の位置を見破ったそうです。
「その壁か!」
ユーリ様は前方のアイアンスライムやストーンスライムを薙ぎ払い、壁に剣を突きつけました。
すると、壁に扮していたらしいゴーレムは、魔石とゴーレム石を残して消え失せ、その奥には15階層へと続く階段がありました。
そして、15階層に降りた私達ですが……そこもスライムの群れが私達を出迎えます。
「皆、先ほどと同じだ! まずは回復魔法を使うスライムを探して倒すんだ!」
「「「「はい」」」」
ユーリ様の激励に、全員が肩で息をしながらも頷いた。
でも、ユーリ様は流石です、あれだけ派手に動き回っているのに、息一つきれていないなんて。
私もだいぶ強くなったと思っていますが、まだ彼には敵う気はしません。
「クリスティーナ、マナポーション!」
「はい!」
私はアイテムバッグからマナポーションを渡しながら、炎の剣でプラチナスライムを突きました。
プラチナスライムは魔法抵抗が強いため、私とユーリ様が率先して狩っています。
もう4時間戦いっぱなしです。
「魔法は節約しろ! 一気に16階層への階段に移動する!」
ユーリ様はそう言うと、剣を構え、
「秘剣・不死鳥!」
彼の剣に炎が纏われ、剣戟が、まるで火の鳥にように飛んでいき、スライムの群れを焼き尽くしました。
凄い大技です。
しかも、その大技を使っても、汗一つかいていないとは……恐るべし……七英雄。
お父さんと一緒に戦った剣士。
「行くぞ!」
先頭を走るユーリ様の背中を見て、私は彼の横を走る父の姿を垣間見た気がしました。
ここで、お父さんたちは戦ったんですよね。
――あれ?
「ユーリ様、ルルちゃんの顔色が……」
「ルルは大丈夫だ!」
そう言いきり、ユーリ様は先にいる壁ゴーレムを打ち砕き、16階層への階段に向かいました。
※※※
「15階層が突破されたか」
携帯映像受信器をアイテムバッグにしまい、嘆息を漏らした。
15階層と16階層の間で、勇者達は休憩をとっているようだ。
スライム達にも、ゴーレム達にも、階段には侵入しないように言ってある。
本来は勇者達が休憩して回復されたら迷宮の攻略が有利になってしまうが、こちらの目的は時間稼ぎだ。
ならばどんどん休憩してもらわないと困る。
俺達も160階層に移されたスライムの領地で休憩していた。
「いいか? もしもの時はマネットの迷宮に移動するんだぞ、カリーヌ」
「うん、みんなマグマスライムに進化したいって言ってる」
「9割のスライムは死ぬようだが、本当にそれでいいのか?」
俺は冷や汗を流しながら、そう呟いた。
スライムは環境により進化する種族であり、進化できなかったスライムは死ぬことになる。
マネットの迷宮はマグマだらけだから、そこにいけばマグマスライムに進化できるが、その確率は1割程度らしい。
マネットに迷宮を作り直させようと思ったが、マグマの環境で進化する道をスライム達は臨んだそうだ。
「うん、死んでも核が残れば、みんないつかマグマスライムになれるからって」
「そ、そうか」
相変わらずスライムの生死の価値観がわからない。
「コーマお兄ちゃんは死んだらダメだよ。核がないんだから」
「あぁ、わかってるよ、カリーヌ。ていうか、俺が死ぬわけないだろ。お前の兄ちゃんだぞ」
そう言って頭を撫で、
「マネット、カリーヌ達のことをよろしく頼む」
「幸い、僕の隠し部屋に、お前が持ち込んだ持ち運び転移陣が置きっぱなしだからな」
そして、その持ち運び転移陣に繋がっている転移陣は、魔王城の壁からはがしてマネットに渡してある。
これなら転移石がなくても全員移動できる。
「でも、できることなら死ぬんじゃないぞ。あのゴーレム工房には作りかけのゴーレムがまだあるんだから」
「あぁ、わかってるよ。ありがとうな」
俺はマネットにも礼を言い、笑顔で上の階層に向かった。




