双方の出陣
~前回のあらすじ~
女三人がコイバナを咲かせた。
通信イヤリングが震える。
「……コーマ、出なくていいの?」
「あぁ、クリスからだ」
「出ないのなら外せばいいのに」
ルシルはそう呟きながら、おせんべいを食べた。
卓袱台に座って、緑茶を飲みながらおせんべいを食べるその姿を見て、まるでおばあちゃんだなと思った。
肌の艶を覗けば、「年齢」と「髪の色」は年寄り以上なんだけどな。
今は待つしかないとはいえ、なんでそこまでのんびりできるのか。
でも、待っているのも、どうやら限界のようだ。
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映像送信器【魔道具】 レア:★★★★
その空間を魔力波に変換、映像受信器へと送る。
拡大すれば、地を這う蟻の触角まで見ることができる。
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映像受信器【魔道具】 レア:★★★★
映像送信器から送られた魔力波を映像に変換して映し出す。
ダイヤルを回すことで受信する映像送信器を切り替える。
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かつて、ゴーリキがブラッドソードに操られたときに設置された映像送信器がまだ生きている。
ギルドに貸した映像受信器のレンタル料金が未だにフリマのギルド口座に振り込まれているとメイベルが言っていたから、ギルドでも使っているのだろう。
俺にとっては地上の様子が筒抜けで大助かりだ。
「そんなに地上の様子が気になるのなら、クリスから聞けばいいのに」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、そろそろ敵が来るからな。気を付けろよ」
「え?」
地上を映し出した画像では、勇者とその従者たちが迷宮に入って行く様子が見えた。
5時間もあれば地下10階層に到着することだろう。
「ジューンはいないのか」
入って行く勇者とその従者の姿を見る。
その中には、当然、ユーリ、ルル、クリス、スー、シーの姿もあった。
「先頭がギルドマスターなの? なんで小さい女の子と一緒なの?」
「俺も最近はずっと小さい女の子と一緒だけどな」
「私はあそこまで小さくないわよ!」
ちなみに、迷宮に入って行くクリスだったが、イライラしている様子で通信イヤリングを見ていた。
まるで、来るはずの連絡がなかなか来ないで携帯電話を握っている女子高生みたいだな。
俺が悪いんだけど。
全員迷宮に入ったのを確認し、映像を11階層に変更した。
「……コーマ、やりすぎたんじゃない?」
「だな……」
スライム5000匹。アイテムクリエイト5000回。
10時間かかりました。
しかも、ただのスライムじゃない。
鉄と一緒に作ったアイアンスライムや、白金と一緒に作ったプラチナスライムもいる。
他にも大天使スライムを各階層に3体配置して、回復もばっちり。
さらに、階段のある部屋には、壁そっくりの壁ゴーレムが道を塞いでいる。
時間稼ぎが目的だからな。
それが15階層まで続く。
万が一突破されたときのために、16階層はマネットが作った大量のゴーレムが徘徊している。
17階層は巨大迷路。ルシルが一晩で作り上げた。
で、18階層は死のゾーン。
ここで全員やっつける……むしろ、ここでやっつけられなければ、実は150階層まで何も準備できていない。
150階層より下はスライムやマユの配下の魔物、ゴブリン達、ミノタウロスの村がある。
どういう手段を使ったかは知らないが、ユーリはゴブリン王が生まれる場所を知っていた。
もしもゴブリン王の場所がわかるのなら、俺達が転移陣を破って逃げたらそれに気付くはず。
それで引き返してくれたらいいと思っている。
ベリアル迷宮に通じる転移陣はルシルが3日後に開く予定になっている。前にグーとタラを召喚したときの召喚魔法陣の形跡を辿って開くことができるらしい。
もしも勇者達の進軍が早ければそれ以前に開かなければいけない。そんなことになったら、ベリアルに気付かれる確率が高くなる。
ちなみに、ベリアルの迷宮に飛ぶメンバーは俺、コメットちゃん、タラ、ルシル、ゴブ(仮)の5人だ。
「さて、そろそろ151階層に移動するか」
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小型映像受信器【魔道具】 レア:★★★★
映像送信器から送られた魔力波を映像に変換して映し出す。
小型化したため見られるチャンネル数が減った。
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携帯型の映像受信器をアイテムバッグから取り出し、移動を始めた。
151階層は、一番危険のある場所……そこにはゴブリンの村がある。
ゴブリン族長が願い出た。一番危険な場所には我々の部隊を置いてほしいと。
「ねぇ、コーマ、それを見てるけどさ。コーマはもし、クリスが傷つく姿を見てもじっとしていられるの?」
部屋を出る前に、ルシルが立ち上がりながら、俺にそう尋ねた。
クリスが傷つく。
彼女がスライムやゴーレム相手に後れをとるとは思えない。
できることなら、17階層で迷子になって遭難でもしてほしいと思っている。
18階層のあいつら相手なら苦戦は必至だろうが死ぬとも思えない。
でも、もしもクリスが、いや、クリスだけじゃない、スーやシーが傷ついたら、俺はどうするか?
そうルシルは訊いている。
「…………もちろんだよ。俺はこの迷宮の魔王だからな」
「……そう……一つだけ言っておくわ」
「なんだ?」
「コーマが死にそうになったら、私はゴブカリを殺すかもしれないわよ」
え、と俺はルシルを見た。
彼女の目を見て、それが真実であるとわかる。
「人間の狙いがゴブカリなら、ゴブカリを人間に引き渡すわ。ゴブカリにももう言ってある」
「……それで終わるのか?」
「終わるわよ」
「……ルシル、頼む」
俺は前に向き直し、会議室を出て言った。
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。俺は死なないから」
「その言葉、絶対に忘れるんじゃないわよ」
こうして、俺達もまた、俺達の戦場へと向かった。
勇者は、10階層で休憩をとったのか、予想よりも2時間ほど遅い、迷宮侵入7時間後に11階層に入ってきた。




