女三人寄れば姦しいのはどこでも同じ
~前回のあらすじ~
ゴブリン王を誕生させない可能性が出てきた。
「繋がらない……」
ギルド前、宿屋下の食堂で私は通信イヤリングを強く握りました。
私はこのまま通信イヤリングを握りつぶしたくなる衝動にかられたけれど、物に当たるのはよくないことだし、何よりそんなことをしても意味ないことを知っているので、通信イヤリングを握る手の力を弱めた。
注文したハッカ茶はすっかり冷めています。
コーマさんは、ここでもハッカ茶ばかり注文していたから、この匂いに釣られて、パーカ人形の話題を言いながら入ってくるのではと思いましたが、彼が店に来ることはやはりありませんでした。
代わりに、二人の女性が私の前に座りました。
「クリス、コーマとは連絡が取れたのかい?」
同期の勇者、スーさんに尋ねられて、私は首を横に振りました。
「いいえ、不通です。まぁ、コーマさんはたまにこんなことあるんですけどね」
例えば、私がコーリーちゃんと一緒に草を取りに行っている時とか、コーマさんに通信しようとしても全然通じませんでしたし。
あと、コーマさんがめんどくさいと思ったら、一緒に旅をしている時、隣の部屋にいても通信に出てくれません。
通信イヤリングが通じなくなって3日。明日には、緊急任務が始まるというのに、何をしているんでしょうか。
「まぁ、緊急任務は勇者のみだから、コーマに対しては強制することはないんだけどね」
「……姉さん、寂しいの?」
「それはスーも同じだろ?」
「……うん」
ははは……コーマさんはモテるんですよね。
私は乾いた笑いを浮かべて、冷めたハッカ茶を飲みました。
すっとした気持ちになります。
「ふぅ……ところで、今度の迷宮の情報なんだけど、見ました?」
「あぁ、全て不明。ミノタウロスの目撃情報があるだけで、それ以外の魔物はわからないそうだね」
スーさんが言ったので、一応、ミノタウロスを見つけたのは私とコーマさんであることを告げると、スーさんは、「なら真実なんだね」とインクを取り出し、自分の持っている情報紙に、万年筆で何か書き加えた。
彼女の袖の中には何でも入っていますね……まるでコーマさんのアイテムバッグみたいです。
「……どんな敵が来ても倒すだけ」
「まぁ、そうなんだけどさ。幽霊とかがいるとしたら専用の道具が必要だしね」
幽霊は通常の物理攻撃が効きません。倒すには私が持っている炎の剣のような魔法の武器が必要になります。
「……そこは役割分担」
「だね。にしても、勇者50人、その中には七英雄のユーリとジューンもいるっていうんだから凄いね」
「遠距離過ぎて物理的に間に合わない人は呼ばれていませんけれど、従者を含めたら100人を超える大攻略ですね」
このまま、どこかの国を攻めにいくのではないかという編成です。
もちろん、人間との戦争ならば、私は強制任務だろうと、例え勇者の資格を剥奪させようと任務を破棄しますが。
「わかっているのは200階層まである大迷宮。かつて闇竜がいて、七英雄が闇竜を倒し、迷宮から魔物が消え失せた。そのはずなのに、魔物が現れた。もしかしたら、闇竜でも復活したのかね」
「闇竜の……復活」
私の鼓動が高鳴ります。
かつて、私のお父さんを殺した闇竜。
今の私に敵う相手ではないと思います。
もしかしたら、その力はあのエントをも超えるかもしれません。
だとすれば……やはりコーマさんの力が必要に……あ。
私はそう思ったことに恥じ、首を横に振りました。
弱くなった。
コーマさんがいないと不安なんて、私は弱く……。
再度、心臓が大きく音を立てた。鼓動が高鳴る。
恥ずかしい……弱くなったはずなのに、そんな自分が嫌じゃないと思ってる。
「クリス、どうしたんだい?」
「……顔が真っ赤」
「え? あ、いえ、なんでもないです」
私は慌てて手をパタパタとふり、その振動でティーカップが倒れ、飲みかけのハッカ茶がテーブルに零れました。
テーブルクロスにハッカ茶の染みが広がりました。
慌てて立ち上がると、今度は花瓶を倒してさらに花瓶の中の水をこぼしてしまい、さらなる水を生み出してしまいました。
「布巾布巾、クリス、大丈夫かい?」
急いで、ですが冷静にスーさんが布巾を持ってきて私に渡してくれた。
それを受け取り、急いでテーブルの上を拭きます。
「大丈夫です……ごめんなさい」
「……コーマ様のこと、考えてた」
「……え? ち、違います、そんなんじゃ」
「クリス、落ち着け」
「落ち着いてます」
「……じゃあ、布巾をそこで絞らないで」
え?
シーさんに言われて私は自分の手の中の布巾を視ました。
強く握られたため、吸いとったはずの水が布巾から染み出て床にさらなる染みを作っていました。
「うぅ……」
「まぁ、他に客はいないのが幸いだね。ハッカ茶おかわり、あと花瓶に水を入れて、テーブルクロス交換して……いや、席を移動していいかい?」
スーさんは貸し切り同然の店内で、雇われ店員さんにチップを渡して、さらに珈琲とクッキー、おかわりのハッカ茶を注文してくれた。
「しかし、閃光のクリスティーナ様も恋するお年頃とはね……」
「もう、その呼び名はやめてください」
「気にしない気にしない、同じ相手に恋をした者同士じゃないか。むしろ、コーマを従者にしている分、アドバンテージはクリスにあるんだから、もっと堂々としてていいんだよ」
「……一緒に冒険していながら手を出されないとするのなら、私達のほうが有利かも」
「私達も手は出されなかったんだけどね」
「……それは言わない約束」
シーさんはメニューを、目に穴が空くのではないかと思うくらい真剣に見つめ、結果、カフェオレとケーキのセットを注文した。
先に、珈琲とハッカ茶、クッキーが運ばれてくる。
スーさんはクッキーを一つ手にとり、口へと放り投げた。
「いっそのこと、コーマにはハーレム王にでもなってもらって、私達三人の共有財産にでもなってもらうかね」
「……コーマ様は物じゃない。それに、私は独占したい」
「それを言うのなら私もだよ。でもね、コーマは、なんていうのかな、私達美人三人と話していても、どこかで他の女の子を意識しているような気がするんだよね。なんていうか、あいつ、もしかしてかなり一途なんじゃないかな」
「……きっと、私に対して一途」
「……ねぇ、シー。あんた、その自信はどこからくるの?」
「……お姉ちゃんより胸が少し大きい」
それがきっかけとなって、姉妹喧嘩が始まった。
私にはどちらも同じ大きさに思えるんだけど。
少し小さめで、羨ましい。
大きな胸は戦うときに無駄でしかないのに。
そうして、情報交換の場は、コーマさんの好みのタイプに関する情報交換になった。
こうして、夜は更けていく。
明日は、闇竜の迷宮へと潜っていく。




