ゴブリン王の誕生を阻止せよ
~前回のあらすじ~
200階層まで戻った。
「ところで、ルシル。あの滑り台はなんなんだ?」
本題に入る前に、まずは気になったことを質問した。
「あれは……えっと」
「それは僕から説明するよ」
マネットは、やれやれといった感じで説明を始めた。
「そもそも、お前等魔王の力使わなさすぎ。マユの水槽だって、お前、ダンジョンメイクを使わずに手作りで作ったんだろ?」
「え? ダンジョンメイク?」
「ダンジョンを作り替える力だよ。魔王なら全員持ってる。僕がマグマの迷宮を作ったり、マユが海の迷宮を作ったように、迷宮を作り替える力だ。一定の瘴気を使用するけどね。なんでかは知らないけど、コーマの魔王の力はルシルと共有されているみたいだったから、ルシルにやり方を教えて作り替えた……でも、こいつ、大雑把だから穴を空けるしかできなくて、仕方なくゴーレムを作って滑り台にしたんだ」
「そうか……穴は塞いだのか?」
「あぁ、コーマが通ったら塞ぐように言ってある」
マネットがそう言った、直後だった。
ルシルが「あっ」と驚いた顔になった。
こいつ……忘れてたな。
ここで「テヘペロ」とかしてくれたら可愛いんだけどな、ルシルはそういうキャラじゃないのは知ってる。
「わ、忘れてないわよ。今しようって思ってたの。ほら、マネットのゴーレムも邪魔だし」
「あれは魔石も使ってない簡易ゴーレムだからそのまま埋めてくれていいって言っただろ」
「……埋めるわよ! 埋めたらいいんでしょ!」
逆切れすると、何やら呪文のようなものを唱える。
「終わったわよ。別にいいじゃない、ちょっと遅れたって」
「ダンジョンメイクは侵入者がいるときは使えないから、さっき誰かに入られたら危なかったんだぞ」
そうなのか。
「ルシル、お前は今からダンジョンの内装を変更してくれ。階段の位置とかを。マユさんの迷宮を199階層に、ゴブリンの村を198階層に、スライム達のいる階層をその上にうつすことはできるか?」
「うん、入れ替えるだけなら簡単だけど」
「じゃあ、スライムのいる階層より上は全部入れ替えてくれ。ユーリが向こう側にいる以上、前までの地形は把握されている可能性があるからな」
「わかったわ」
「マネットはゴーレムを作ってくれ、俺もアイテムクリエイトでスライムを量産する」
「ちょっと待ってください、コーマ様! 人間と戦うつもりなのですか?」
「……それは……」
俺はゴブリン族長の息子を見る。
まだ子供だな。
「僕ならどうなってもかまいません。父には、魔王様の命令に従うと言ってきました。僕の力を利用するも、僕の力を疎み殺すも、全ては魔王様の御心のままにお願いいたします」
「……はぁ……なぁ、お前、今から極悪キャラにジョブチェンジしてくれないか? そうすれば簡単に切り捨てられるんだが」
「……極悪キャラとはどのような職業なのでしょう?」
「冗談だ、真に受けるな」
「申し訳ありません」
ったく、やり辛い。
「名前はないんだよな。といっても名前を付けたら愛着湧きそうなんで……ゴブ(仮)でいいよな?」
「はい、ありがたき幸せです」
ゴブ(仮)は恭しく頭を下げた。
ありがたいんだ。
「コーマはネーミングセンスなさすぎね」
ルシルが嘆息して言う。
グーとタラの名前を決めたお前に言われたくないわ。
「よろしくね、ゴブガリ!」
「はい、よろしくお願いいたします、カリーヌ様」
「カリーヌ、ゴブガリじゃなくて、ゴブ(仮)だ」
それだと坊主頭になっちまうぞ。
そして、俺はマユにアイコンタクトを送る。
ウォータースライムを頭から被っていない彼女だが、その声は僕に伝わってきた。
《ええ、ウソはついていません。ゴブカリさんは全て本心でそう語っています》
そうか。マユの嘘発見器でも嘘はないと出たか。
《あの、嘘発見器って言い方やめてください》
あぁ、悪い。うん。
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友好の指輪【魔道具】 レア:72財宝
ある国の王が天使より授かったとされる指輪。
ありとあらゆる生物、植物と心を通わせることができる。
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マユの持っている指輪。
これを使えば相手の心の中を見ることができ、また自分の心の声を相手に伝えることができる。
それは、言葉を放つことのできない赤ん坊や動物でも通用する。
ウソを見破るにはもってこいのチートアイテムだ。
これで、ほぼ100%、このゴブ(仮)がウソをついていないことが証明されてしまった。
もしもこいつの本性が悪人……いや、悪ゴブリンだったなら、俺は迷わずにこいつを切ることができたのに。
切ったうえで斬ることができたのに。
「お前はゴブリン王になるらしい。それを止める方法は何かないか? ベビーゴブリンのまま進化しない方法は」
「ありません。子供はいつか大人になる、それは変えられません。あと3週間ほどで僕は進化します」
Bボタンを連打しても進化は止められないってことか。
「ならば、ルシル、封印をすることはできないか? ほとぼりが冷めるまで封印することは」
「ダメよ。私の力は未だほとんど戻っていないもの。時間を止める魔法なんて使えないわ」
「なら、何か方法はないか……」
何か、いい方法は。
「いっそのこと、無人の迷宮の最奥にでも行かせるか? 僕の迷宮なら使っていいぞ」
「……それはゴブ(仮)を見捨てるってことか?」
「合理的にいったらそうだろ。コーマが殺せないのなら、そのほうがいい。少なくとも、ゴブカリがここに居たら、人間が攻めてくるんだろ? そして、こいつを匿い続けたら、地上が大変なことになる、そのくらい理解しているだろ?」
マネットが言っていることは正しい。
決断が必要なのかもしれない。
仲間を殺す覚悟だ。
創造と破滅……ゴブ(仮)がこのままここにいたら、間違いなく町は破壊される。
もしくは、迷宮が……この迷宮が破壊される。
「……某の記憶の中にですが、一つ、方法があるかもしれません」
そう言ったのは、タラだった。
そして、コメットちゃんもまた、思い出したように言った。
「もしかして、あそこのこと?」
「うむ、あそこならもしかしたら……」
「何か知っているのか?」
一縷の希望にすがるように、俺は二人に尋ねた。
「弱化の泉と呼ばれる場所があります。そこに入れば、魔物は弱くなる……ゴブカリ殿が入ればもしかしたら」
「それだ!」
ダメ元でその泉に入ってもらえば、もしかしたらただのゴブリンは無理でも、ゴブリンジェネラルくらいになるかもしれない。
「しかし、二つ問題が。まずは一つ。弱化の泉が現れる時間は決まっています。月に一度、新月の日のみ。次の新月は1週間後です」
「それまで、この迷宮を死守しないといけないということか」
「それともう一つ。その場所に問題が」
「どこでも行くよ。どこにあるんだ?」
俺の問いに、二人は少し逡巡し、そして言った。
「某達がかつていた迷宮」
「ベリアルの迷宮です」
……え?




