200階層へと急げ
~前回のあらすじ~
ゴブリン王はゴブリン族長の息子だった(今更)。
夜になり、俺は動いた。
黒い服を身にまとい、そっと裏口からフリマの倉庫を出る。
あまり目立たない裏口の鍵を閉め、俺は古い建物を見上げる。
かつてはメイベルの父親が店を出していたらしい。そういえば、その時の名前を聞いていなかったな。
(また戻ってこれるのかな)
黒く染めたアイテムバッグに、さっき作った裁縫で作った黒いジャケットを確認する。
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吸魔ジャケット【服】 レア:★×7
使われた魔法を吸収してMPを回復するジャケット。
鉄以上の強靭さを併せ持つ最高級の防具。
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それと、長い間履いた革靴の紐を締め、俺は黒いマスクで顔を覆った。
夜の二時、草木も眠る丑三つ時といったところか。
俺は行動を開始した。
ルシルからアドバイスを貰っている。転移陣は使えない。
封魔領域の矢を抜いたとしても、3時間は転移陣が使えないようになっている。3時間も待っていたら、絶対に誰かに気付かれる。ならば、地道に降りるしかない。
屋根の上に飛び乗り、周囲を観察する。
迷宮の入り口にはギルド職員が3人……準戦闘職員2人と、もう1人は一緒に迷宮をもぐったことがあるギロンだ。
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睡眠香【雑貨】 レア:★★★
眠くなる煙が出る御香。良眠促進アイテム。
リラクゼーション効果で朝起きたらすっきり。
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フリマでも売っている雑貨品。ただし、効果は市販品の数倍の威力がある。
屋根の上から路地の間に飛び降りると、ライターと同じ性能があるパーカ人形(ドラゴン)で火を付け、放り投げた。
「なんだ!?」
ギロンの声が聞こえた。
突如、ぶぉん、と煙があがり、迷宮の周りを煙が覆った。
煙が晴れたときには、3人は睡眠状態になっていた。
「なんだ!」
周囲のギルド員が異変に気付いたようだが、俺はそれを無視して、迷宮の中に走っていく。
「待て、そこは立ち入り禁止だ!」と後ろから制止する怒号が飛んできたが、そんなもので俺は止まらない。
迷宮第一階層、コボルトやゴブリン、スライムといった弱い魔物が多くいる。
数が多いな。
普段なら夜でも人のいるこの場所も、今は誰もいない。
当然だが。
その代わり、魔物の数はいつもより多いな。
迷宮1階層から10階層までの地図は頭の中に入れてある。
力の神薬を飲み続けて上げた足の力を全力に使い、全ての魔物を無視して走っていく。
魔物を倒さないのは、倒すのに時間がかかるからではなく、魔物が残ってくれたら俺に追手が出たときに足止めになると思っているからだ。
ひたすら下って行き、地下5階層。狼の魔物がいるが、全部無視して走っていく。
狼は俺に襲い掛かってくるが、一度躱すだけでもう追ってこれない。
六階層への階段が見えたとき、通信イヤリングに反応があった。
ルシルからだ。
『コーマ、聞こえる!?』
「ああ、聞こえてる」
『地下11階層まで行ってくれたら、コーマの魔王の権限を使って近道を用意したから。一気に200階層まで行けるわ』
転移陣がないのに近道? 通信イヤリングの向こう側から『用意したのは僕だろ』とマネットの声が聞こえた。
よくわからないが、転移陣に代わる何かを作ったってことか。
『11階層に付いたらミノタウロスに案内させるから、ついていって』
「わかった」
そうと決まれば、急ぐとするか。
さらに大地を蹴る力を強め、前へと足を突き出した。
そして、気が付けば地下10階層。
階段の向こうには、ギルド職員の詰め所があり、一人のギルド員がいた。
何回か見た顔だ。
「全く、転移陣を封鎖されたら出られないじゃないか。せっかくシファーナちゃんと一緒に買い物に行く約束を取り付けたっていうのに」
独り言をぶつぶつと言い続ける男。もう一人、詰め所の中からいびきのような音が聞こえる。
二人で待機しているのか。
俺は音を立てずに男の後ろに近付き、眠り薬をしみこませたハンカチで男の口を塞いだ。男はすぐに熟睡する。
クロロホルムじゃこうはいかない。
「悪いな、ジョーク」
小さく呟き、男を寝かせる。中にいるもう一人のギルド職員は起きていないようだ。
そして、俺は隠し部屋へと向かった。
宝箱で隠されているはずの入り口だったが、その宝箱はなかった。
入口が丸見えだ。
下を覗くと、草地が見えたので、飛び降りた。
そして、横にはミノタウロスがいた。
かつて、ルシルが召喚し、俺の部下として11階層を警備し、転送した空き巣たちを脅かしてきたミノタウロスだ。
ミノタウロスは「ぶもぉ」と吠えると、こちらへ付いてきてください、と言っているように走っていく。
そして、20分ほど歩いたところで、俺は横穴を見つけた。
全190階層にも及ぶ迷宮をすべて理解しているわけじゃないが、こんなところに横穴なんてあったか?
そう思って覗き込むと――あぁ、これなら確かに200階層まですぐにいけるな。
目の前には螺旋状にのびる滑り台があった。
※※※
「尻がいてぇ」
摩擦熱で火傷しなかったのが幸いといえば幸いか。
ズボンも裁縫スキルで作っていて丈夫だから助かった。前のズボンなら穴が空いていたかもしれない。
よく見たら、この滑り台、ゴーレムが組み合わさってできていた。
マネットが用意したというのはこのことだったのかもしれない。
索敵にもひっかかっているしな。
そして、地下200階層へと到着したら、目の前に魔王城があった。
「ルシル、今帰った」
俺はそう言って魔王城の扉を開けると、奥から「コーマ、会議室よ! みんな集まってる」と声が聞こえたので、廊下を進み、奥へと行く。
そして、会議室の扉を開けると、皆が立ち上がった状態で俺を出迎えてくれた。
「待たせた。これより、会議を始める。それで、ルシル……もしかしてその子が?」
左側に立っている褐色肌の少年。どう見ても人間に見える背の低い彼を見て、俺は尋ねた。
【HP:970/970】
この中では弱い部類にはいるが、スーやシー、他の勇者と比べたら強い。
少なくとも、HPだけではゴブリンジェネラル以上の強さだ。
「ゴブリン族長の子です。名前はございません」
「…………!?」
人間の言葉を介する彼を見て、俺は戸惑った。
俺に――こいつを見捨てることができるのか?




