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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode07 小鬼の王

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202/742

日常が続くその日まで

~前回のあらすじ~

国主会議が終わった。

 図書館で調べものを終えた翌日。勇者のみが招集され、俺はフリマの従業員寮の1階を掃除していた。

 臨時休業など滅多にないため、大掃除、というわけだ。

 他の皆はフリマ店内の掃除をしている。

 

「申し訳ありません、手伝ってもらって」


 脚立に乗って、天井からぶら下がった照明を拭きながら、窓を拭いている俺にメイベルは申し訳なさそうに言った。

「気にすんなって。一応、今は居候の身だしな」

「冗談でもそんなこと言わないで下さいよ。コーマ様が望まれるのなら、いつでもここはコーマ様のものなんですから。もちろん、私達自身も」

「望まないよ。人は自由であるべきだ」


 別に特別なアイテムを使うこともなく、ただの布きれを使って俺は窓を拭き続けた。

 それだけでも綺麗になるもんだな。


 磨けば光る……か。


 親父が寝ずに考えてくれたという俺の名前。

 光磨。


 小学校のころは、難しい漢字で書くたびに嫌だったけれど、今の俺にとっては数少ない両親からのプレゼントだ。


「あぁ、そういえば、コーマ様、クリスさんに話したんですよね、ここの元オーナーだったって」

「話したと言うか、ユーリにばらされた……」

「どうして黙ってたんですか? クリスさんなら話しても誰かにばらしたりはしないと思うんですが」

「……ん? 理由なんてないけどさ。俺がオーナーだって、俺から直接話したのって、コメットちゃんが最初なんだよな。その後、コメットちゃんがあんなことになったから、そのジンクスが怖かった、っていうのもある」

「……そうだったんですか」


 俺に純真に好意を向けてくれた彼女の死は、彼女がグーと一緒になって生き返ることがなければ、俺は今でも受け止めきれていないかもしれない。

 悲しそうな眼になるメイベルを見て、いつか彼女にだけはコメットちゃんの今の状態を話さないといけないのかもしれない。


 そう思ったこともある。

 でも、それは本当は俺が楽になりたいだけで、否応なく彼女を闇に巻き込む。


 それは避けたい。


 延々と続く日常を望むにも関わらず、日常が永遠に続かないことを知っている。


「お茶にするか」

「そうですね。あの……コーマ様?」

「どうした?」

「……コーマ様は、いなくならないでくださいね」


 コメットちゃんの話をしたせいか、メイベルがそう言って俺を見てきた。

 いなくならないで……か。

 また無茶なことを言われたものだと俺は思った。


 それに、ふっと笑い、冗談で返す。


「メイベルのパンツを貰っていないうちはいなくならないって」


 自分で言っていて、なんてセクハラ(元)上司だと思った。


「待って、今の無し。もっといいユーモアの利いたセリフを探す」

「あの、コーマ様が望まれるのなら私のパンツくらい……あ、でもパンツを上げたらコーマ様がいなくなるのなら……」


 困ったようにメイベルが言っていた。

 これが……ラビスシティーで一番金を持っているオーナーの素顔か。


「はははははははっ」


 それを見て、俺はただ、腹をかかえて無邪気に笑った。


「冗談だって言ってるだろ、いなくならないよ」


 そう言って、俺はメイベルの頭の上に手を置き、頭を撫でた。


「例えいなくなったとしても、通信イヤリングで話せるだろ」

「そうですね」


 頭を撫でられたのが恥ずかしかったのか、頬を赤らめて上目遣いで俺を見てきた。

 いなくなりたいなんて思わないよ。


【エントを撃ち滅ぼした男、ゴブリン王の誕生の前に選択を突きつけられる。創造か破滅か】


 破壊……破壊なんてするものか。

 俺はこの町が今では故郷のように思っている。


 まだ一年も住んでいないけれど、この町が魔王城と同じくらいに好きだからな。


 ゴブリン王をどうにかしたら、全て元通りだ。

 またクリスをからかって、店の売り上げに貢献して、パーカ迷宮で指人形を集めて、たまにはエリエールや、スー、シー達と一緒に冒険に出たりして、クルトとザードもまだまだ半人前だから鍛えてやらないとな。

 アンちゃんからも来月にある学校の父兄参観に来るように頼まれたし。あの時、クルトがとても悔しそうな顔をしていたけど、あいつも仕事が忙しいからな。


 メイベルが紅茶をいれるためにキッチンに向かった。


「コーマ様は、このカップでよろしいんですか?」

「あぁそれで頼む」


 信楽焼き風の湯呑をメイベルが見せてきたので、俺は頷いた。

 琵琶湖に行く途中に信楽で見た湯呑を再現してみた湯呑だ。


 なかなか渋い色合いで気に入っている。


 お茶が淹れられるのを待っていると、通信イヤリングから連絡があった。

 ルシルだ。


「悪い、通信が入った」


 メイベルに一言断りを入れ、通信イヤリングを繋げる。


「どうした?」

『コーマ、大変なのよ! とても大変なの!』

「ちょっと待て、落ち着け!」

『それが――』


 ルシルが大変な何かを告げようとしたとき、クリスが部屋の中に入ってきた。


「コーマさん! 大変です!」


 そっちも大変なのか。


「悪い、ちょっと待ってくれ」


 ルシルに待つように言う。


『ちょっと、コーマ』

「クリス、どうしたんだ?」


 だいたい、クリスが言うことはわかっている。

 ギルドから強制任務が下った。ゴブリン王退治の強制任務が。


「初めて強制任務が発動されたんです! やっぱりターゲットはゴブリン王です」

「そうか」


 予想通りだった。

 そこまでは――


「それで、そのゴブリン王のいる迷宮が、私達があの時見つけた闇竜がいた迷宮だったんです!」

『コーマ、一方的に言うから聞いて。ゴブリン族長の息子――おそらくその子がゴブリン王になるわ』


 ……え?


 日常が音を立てて崩れ落ちていく。

 そんな予感がした。

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