ゴブリン王の秘密と迷宮の封鎖
~前回のあらすじ~
図書館にユーリ来訪。
夜の図書館に赤い髪の幼女を連れて入ってくる黒髪イケメンギルドマスターユーリ。
彼はルルを座らせて、出したままのゴブリン王物語の絵本を渡した。
そして、ルルに微笑みかけると、こちらを向く。
「この絵本はもう読んだのかな?」
「あぁ、さっき読ませてもらった」
その質問は、ルルに本を渡す前にしろよ、とか思ったけれど、顔には出さずに肯定した。
「紅茶を持ってきたんだ、飲むかね?」
「ぜひお供させてください」
「……図書館は飲食禁止のはずだが?」
クリスが即座に肯定するが、当たり前のルールを俺はユーリに突き付けた。横でクリスが顔を青くして「ちょっとコーマさん」と慌てて窘めてきた。クリスはユーリには憧れているからな。
「かまわんよ。私が長だ」
「長なら一番ルールを守らないといけないんじゃないのか?」
「それもそうだな。では、休館中の飲食は構わないという規則に変更した。私の権限でな」
歯を見せて笑うユーリに、「まるで子供の理屈だな」と思った。
でもまぁ、喉が渇いていたのは事実だし、ありがたく頂くとするか。
「ん? マスターもアイテムバッグを持っていたのか」
「あぁ、君の店で買わせてもらった」
…………こいつ! いきなり!
「え? コーマさんの店ってどういうことです?」
何の事情もしらないクリスが首を傾げる。
「おっと、すまない。まだ勇者クリスティーナには話していなかったのか」
わざとなのか、それとも本当にクリスも知っていると思ったのかはわからない。
「訂正させてもらう。元俺の店だ。今は俺とは一切関係ない」
「そうだったね」
「コーマさんってお店を持ってたんですか?」
説明が面倒だな。
「フリマは元々俺の店だ。といっても名前だけで、メイベルを買って全部任せていたし、ある程度儲かったから、全部メイベルにやった」
「え!? そうだったんですか!?」
驚きとともに、クリスはかなり不満があるように思える。
まぁ、こいつは俺から金を借りてフリマで結構散財しているからな。
「よくやるよ。資産価値にして金貨何万枚もの店とその商品を、奴隷にプレゼントするなんて」
「間違ってなかったとは思ってるぞ」
「だね、彼女達はよく頑張っているよ。この町でナンバーワンといっても過言じゃない。うちもだいぶ助かっている」
クリスは金貨何万枚とか、思わぬ情報に混乱しているようだ。
ユーリはアイテムバッグからティーポットとカップ、そしてクッキーを出して並べる。
クッキーを四等分にするが、ルルは全員分揃う前に食べ始めた。
ユーリのクッキーから先に。
それをユーリは笑って見ていた。
この二人の関係性については言わない方がいい。
そして、紅茶のみとなったユーリだったが、彼は何も言わずに紅茶を飲んで話を始める。
「この物語はほとんど事実だよ。最後にゴブリン王と人間が和解するところ以外はね」
世間話をするかのように、彼はそんなことを語りだした。
それに、俺達は息をのむ。
「ゴブリン王と魔物達が作った穴、それが迷宮なんだよ」
思わぬ事実。
本当なのか?
「まぁ、4000年も前のことだからね。私が直接見たわけじゃないが」
「ちょっと待ってくれ。この町についても迷宮についても俺はいろいろ調べたが、そんなのどこにも書いてなかったぞ」
「当たり前だよ。ゴブリン王に関するすべての本は400年以上も前に処分されたからね。焚書という奴だよ」
それは……ありえることだ。
ゴブリン王……つまりは魔物一匹によって迷宮が生み出された、なんて知られたら嫌なんだろうな。
「全ての本が処分されたのなら、なんでユーリ様は御存知なんですか?」
「あぁ。本はなくなっても口伝が残った。私を含め、一部の人間はそれを伝え聞いているんだ」
ユーリは紅茶を飲み干した。ルルは……俺のクッキーに手を伸ばそうとしていた。
俺はクッキーを先に食べてしまうと、ルルは頬を膨らませて抗議の視線を送る。そして、俺はアイテムバッグから俺の手作りのクッキーを出した。
目を輝かせてクッキーを食べる。
そして、おそらくルルはそのクッキーのあまりのおいしさに、呆けてしまった。
「で、その話をなんで俺にしたんだ?」
「…………」
ユーリは俯き、口を閉じたまま動かない。
暫しの沈黙が続き、耐えられなくなったのかクリスがユーリに問いかけた。
「あの、ユーリ様?」
言われてユーリははっとなったように話をつづけた。
「あ、いや、すまない。君たちに話したのは、君たちがゴブリン王について調べているようだったからだ」
「……ゴブリン王が生まれるのは本当なのか?」
「いや、私は、ゴブリン王は既に生まれていると思っている」
既に生まれている?
それって、かなりやばい状況じゃないのか?
「そして、どこに生まれたのかも予想がついている。今はベビーゴブリンだろうが、もしも成長進化し、ゴブリン王となったその時は、おそらく大陸中の魔物がこの地に押し寄せ、さらに世界中の瘴気までも集まる」
「そうなると、どうなるんでしょうか?」
「迷宮の中の魔物が増え、そこ以外の世界中の魔物が減る」
ユーリの言葉はとても簡潔としたものだった。
「その過程として、この町は滅びるだろう。魔物に蹂躙されて……ね」
「…………で、どこの迷宮にゴブリン王は生まれたんだ?」
「詳しくは、明後日に話す。明日のトップ会談で決まったことも含めて……ね。それと、コーマくん。さっきルルに渡したクッキー、よかったら私にもいただけないかな? 彼女があそこまで美味しそうにクッキーを食べていたのを始めてみた」
「……あぁ、わかった。ルルに食べられないようにしろよ」
俺はそう言って、クッキーの入った缶をそのままユーリに渡した。
またもやルルが目を輝かせている。
ユーリの何倍もわかりやすい性格だ。ユーリの口にクッキーが入ることはおそらくないだろうな。
※※※
図書館からの帰り道。街灯の光が大通りを寂しく照らす。まだ夜も始まったばかりだというのに、人の気配がない。
本来なら、この時間は仕事帰りの多くの人が歩いており、酒場からは喧騒が鳴り響く時間なのにな。
「寂しいですね」
「今は大陸中のお偉いさんが集まっているらしいからな、必要な措置なんだろうさ……ん? あれは」
迷宮の入り口の一つである10階層に通じる転移陣に、ローブを身に纏った爺さんと見知った少女がいた。
「あれは……ジューンさん!」
「ジューン……七英雄の一人の雷焔の魔術師か」
ゴーリキの事件の時や、蒼の迷宮の時にもいたらしいが、結局会わずに事件が終わった。
ここで会うことになるとはな。
「なんでトヴィと一緒にいるんだ?」
「知り合いですか?」
「あぁ、前一緒に迷宮に潜ったことがある」
ハーフリングのトヴィ。弓術使いの少女だ。
よく見ると、転移陣の四隅に、矢が刺さっている。
あれは――封魔領域か。
かつて、ゴーレム相手に使い、ゴーレムを動かす魔力を無くした力だ。
この中では俺もアイテムバッグを使うことができずに苦労した記憶がある。
「トヴィ、久しぶりだな」
「コーマさん、お久しぶりです」
声をかけるとトヴィは俺に気付き、頭を下げてきた。今日は封魔領域を使ってもMPの余裕があるらしい。
クリスとジューンもまた挨拶を交わす。
「ジューンさん、御無沙汰しています」
「クリス嬢ちゃんは相変わらず胸が大きいね」
ジューンはどうやらエロ爺のようだ。
「何してるんだ?」
「迷宮内の転移陣を封鎖しています。ジューンさんの力を借りて、迷宮内全ての転移陣を――」
全ての転移陣だって!?
それは、つまり魔王城の転移陣も使えないってことか?
おそらく、ゴブリン王を迷宮から外に出さないための措置なんだろうが。
「……へぇ、そんなことが可能なのか?」
俺は平静を装いながら、そう尋ねた。
「私も理屈はわかっていないんですが、ジューン様が独自の魔法回路を使って。マナポーションは支給してもらっていますし、2時間程度なら仮眠もとれますからなんとか。むしろ、魔法の制御をしているジューン様の負担の方が大きいはずです」
「ほっほっほっ、老いたとはいえ七英雄の一人。あと1ヵ月は封鎖できるさね。睡眠代替薬という変わった薬もユーリから貰ったしね」
俺達はその後、世間話を少ししてフリマに戻った。
かつて、メイベル達が寝ていて、その後はクルト達が使って、現在は空き室となって俺が使っているフリマの倉庫奥の部屋で持ち運び転移陣を広げて、魔王城に向かおうと転移石を持って飛び込んだ。
だが――結果俺は魔王城に移動することはできなかった。




