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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode02 呪いの剣

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先行投資のアイテムバッグ

 迷宮の町、ラビスシティー。

 冒険者ギルド本部のある自治都市。

 東西南北、四つの国に囲まれながらも、どの国にも属さない。

 その理由は迷宮の存在だろう。

 魔物とアイテムが生み出される。その中でも、魔物が落とす魔石は非常に重要なエネルギー資源だ。

 ある国がそのエネルギーを独占しようとラビスシティーを占領したことがあるが、それをよしとしない3つの国が同盟を組んで攻めてきた。

 そんなことが過去に何度も起こり、結果、この町は四つの国の全てに属し、そしてどこにも属さないという暗黙のルールが生まれた。


 つまり、町の中心は迷宮であり、迷宮によって生まれた町ともいえる。

 その迷宮の転送陣の前で俺は待っていた。


 ちなみに、迷宮は1~9階層は誰でも入ることができる。

 10階層より下へは勇者かその従者、もしくは四つの国に認められた一部の人間しか入ることができない。

 どこかの国の騎士と思われる男達が入っていくのを見ると、その認められた人間というのは国に忠誠を誓った扱いやすい人間のことなんだろうな。


 風の騎士団が所属するサイルマル国は、その四つの国じゃないからな。

 サイルマル国は彼らを勇者にすることで魔石を集めようとしたんだろうな。その目論見はルシルの作った薬草ドラゴンのせいで露と消えた。

 つまり、ルシルの料理は一つの国の政治経済を傾ける結果になった……かもしれないな。


「コーマさん、お待たせしました!」


 金色の髪の巨乳勇者、クリスティーナ。通称クリスが駆けてきた。


「3分前に来たところだ。それで、緊急事態って聞いたんだが」

「はい! お金貸してください!」

「お前には1週間分の宿代と飯代貸してやっただろうが! もう使い切ったのかよ」


 ただでさえ、クリスは俺に債務が山のようにある。

 このままだと、本当にクリスの語尾が「にゃん」になる日も遠くない。


「いえ、そうじゃないんです! お金を作るために必要なアイテムなんです!」

「……クリス、貨幣の密造はたとえ勇者でも死罪は免れんぞ」

「作るってそういう意味じゃありません! お金儲けになるアイテムを、勇者限定販売する店があるんです!」


 つまりは先行投資アイテムといったところか。

 勇者限定販売、勇者に媚びをうりたい商人はどこにもいるらしい。

 それに、アイテムマスターの俺からしたら、どんなアイテムかも気になるしな。


「とはいえ、俺、あんまり金持ってないぞ」

「またまた御謙遜を。プラチナ装備を作る技術があるんですから、貯金もたっぷりあるでしょ」


 クリスの表情が悪巧みをする越後屋のようになる。俺は悪代官じゃないぞ。魔王だけどな。


 それに、金は本当にないんだよな。店に行けばメイベルから貰えるだろうが、店が軌道に乗るまではあまり使いたくない。

 まだ開店したばかりでいろいろと物入りだろうしな。


 ただでさえすべての経営を彼女達に任せたままなのに。


「で、どこにいくんだ?」

「フリーマーケットっていう店です。略してフリマ、今話題のお店なんですよ」

「フリマって……蚤の市かよ……まぁ、ああいうところのほうが実は掘り出し物があったりするけどな」


 疑念が湧く。勇者限定販売のレアアイテムというのも、騙されてるんじゃないだろうか?

 クリスは実際前科あるからなぁ。

 宿屋で受付と思った犯罪者に荷物を全部奪われ、それを取り返してくれると言ってきた少年に手付けとして剣を預け、その剣もそのまま盗まれた。

 つまりは騙されやすい性格なのだ。

 全く、俺みたいな紳士が傍にいるからいいようなものの、借金まみれの極貧生活を送る破目になっていたとしても不思議じゃないぞ。


「それで、その店って遠いのか?」

「ここですよ?」

「え? ここって」


 迷宮から歩いて僅か一分。

 大通りに面している一等地。

 立地がいいのか、それとも品物がいいのか、多くの客でごった返している。

 こりゃ、店に入るにも時間がかかるなぁ。

 それにしても、フリーマーケットって聞いてたけど、まともな店構えをしているじゃないか。

 この場所には見覚えがある。


 場所には見覚えはあるのに。あれ? この建物?


(俺の店じゃねぇかぁぁぁぁぁぁっ!)


 俺の店、フリーマーケットって名前だったのか!?

 とはいえ、これほどの客がいるとはな。

 

「これじゃ、店に入るまで時間がかかりそうだな」

「大丈夫ですよ! 私に任せてください!」


 クリスは列の先頭で誘導をしている係員の女の子――メイベルが奴隷市で買ってきた従業員さんに歩いていき、


「こんにちは! 先に店に入れてください!」


 そう言って、クリスは自分の胸から勇者の証のブローチを外し、天高く掲げた。

 職権乱用甚だしいな!


 とはいえ、確かに、これは便利だな。

 普通に並んでいる客からの視線が痛いが。


「ようこそおいでくださいました、勇者クリスティーナ様と、そちらは従者の方でしょうか?」


 あ、そうか。俺が彼女のことを知らないのと一緒で、彼女も俺のことを知らないのか。

 またいつか従業員に挨拶しないといけないな。


「ええ、彼は私の従者のコーマさんです」

「コーマです。クリスティーナ様がいつもお世話になっております」


 俺は営業スマイルを浮かべてお辞儀をすると、なぜか横にいたクリスが背筋を震わせ、


「さぶいぼ出てきました……」


 本気で怖がっている様子で俺を見てきた。

 俺がクリスを立てるのがそんなにおかしいのか。


「では、御案内いたします。ついてきてください」

「はい、お願いします」


 そして、俺は店の中に入っていった。

 そういえば、正面入り口から入るのは、この店を借りた時以来だな。

 中は偉く混雑しており、俺が作ったもの以外にも普通のポーションとか剣とか鎧が置かれている。

 だが、人だかりができているのは、俺が作った魔道具やプラチナ装備のようだ。

 ほとんどの人はその値段を見て、嘆息とともに去っていく。


 店員は全員可愛い女の子で、お揃いの黒いエプロンを着ている。

「ところで、クリスティーナ様、何をお買いになるのです?」

「あ……あの、コーマさん、気持ち悪いんでやめてもらえませんか?」

「せっかくお前を立ててやってるのに」

「いつも通りでいいです。私が欲しいのはあれですよ!」


 クリスが指さした方向を見ようとすると、その方向から声が飛んできた。


「頼む、金貨70枚、いや、75枚出す! ワシにあのアイテムバッグを譲ってくれ!」

「先に申しました通り、このアイテムは今週いっぱい、勇者様に先行購入権があります。来週以降、残っているようでしたら再販売いたしますので、今日はお帰りください」


 40歳くらいの無精髭の生えた商人とメイベルが何か言っている。

 取引の対象となっているのはアイテムバッグ。俺が作った、多くのアイテムを収納できるアイテムだ。

 ただし、俺の持っているアイテムバッグと違い、容量制限はある。


「ふふふ、そのアイテムバッグが、なんと金貨50枚で手に入るんですよ!」

「なるほどな」


 転売しただけでも金貨25枚の儲け。クリスは早くも借金を返せて万々歳、というわけか。


「メイベルさん! 来ましたよ!」

「これは、クリスティーナ様――」


 メイベルは俺の顔を見て俺の名を呼ぼうとしたのだが、俺が慌てて人差し指を立てて口元に持っていくと、彼女は察したらしく、


「ようこそおいでくださいました。本日はアイテムバッグをご購入で?」

「あぁ、店長さんですか? 私はクリスティーナ様の従者をしております、コーマと申します。以後お見知りおきを」

「コーマ様、ようこそフリーマーケットへ」


 俺がわざとらしいお辞儀をすると、メイベルが定型句で対応してくれた。


「それで、アイテムバッグについて話したいんですが、奥の部屋を使わせていただけないでしょうか?」

「はい、それでは御案内いたします」


 俺と一緒にクリスもついていこうとするが、


「こっちは私に任せてください、クリスティーナ様」


 俺が営業スマイル全開で言うと、クリスは再び身震いした。


「で、ではお任せしました、コーマさん。私は店の中を見て回ります」


 さて、ではこれからメイベルと大人の交渉をする……フリでもするかな。

~アイテムバッグ~

通称四次元ポケット。

いくらでもアイテムが入るのに、なぜか1種類99個しかアイテムを入れることができない(ゲームによっては15個などの場合も)不思議な鞄。


基本的に、重量もないだけでなく、明らかに袋に入る大きさでないものまで入れることができる。

RPGで何の説明もなく持っていることが多いが、とても便利。

アイテム預かり所を利用する必要もない。


基本、亜空間に収納している。

割れ物を入れて振り回しても割れることがないため、空間内は固定されている可能性が高い。だが、特定の場所に行くと持っているアイテムが反応しているのに主人公が気付いたりすることなどを考えると、外部からの干渉が100%防げるわけではない様子。


戦闘中、アイテムを複数の仲間が共有して使っていることもあるが、そう言う場合、もしかしたら、仲間全員が同じアイテムバッグを持っているのかもしれない。四次元ポケットとスペアポケットみたいに。


かなり便利なアイテムで、これさえあれば遺体の隠し場所にも困らないんじゃないだろうか? とさえ思ってしまう。

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