図書館のゴブリン王物語
~前回のあらすじ~
ベリアルが豚汁を飲んだ。
ベリアルがいる理由について考えた。
本来あいつがラビスシティーにいること事態はおかしいわけではない。なぜなら、例外を除きすべての魔王はこの町の地下にいる存在だ。どの迷宮があいつの迷宮なのかは俺も知らないが。
だが、このタイミングは偶然なのか?
俺には情報が少なすぎる。
そのため、俺は翌日、ギルドが運営する図書館に向かった。
臨時休館なのだが、クリスを連れてきて勇者特権を利用して、図書館の鍵を預かった。
図書館の中は普段から薄暗い。光が強ければ本が傷むのが理由だとか。
でも、今日はそんなことに構っていられない。
「明かり!」
光の球が手元から浮かび上がる。
「コーマさん、光魔法を使えたんですか?」
「……あぁ、まぁな」
クリスに尋ねられて、俺は曖昧なかんじで頷く。
リーリウム王国で花売りの女の子から光の花を大人買いして、それを元に作った光の巻物で覚えた。
といっても、あまり使う機会はないのだが。
そして、探すのはゴブリン王に関する資料。
といっても、司書も休暇をとっているため、探すのには骨が折れそうだ。
アイテムや迷宮、植物、魔物に関する本はあらかた読んだことがあるが、ゴブリン王などという記述はなかった。
あとは歴史書と伝記、神話書物くらいか。
とりあえず目についたそれらの本をあらかた持ってきて読み続ける。
だが、ゴブリン王の記述はどこにも見つからない。ペガサスやユニコーン、メデューサといった日本にいたころから知っていた話があったが。
ちなみに、ゴブリンについて確認されている魔物は以下の通り。
・ベビーゴブリン:ゴブリンの子供。2ヶ月~3ヶ月したら進化成人する。ゴブリンが妊娠して生まれてくるのがベビーゴブリンだが、瘴気から生まれてくるゴブリンは最初から成人体であるらしい。
・ゴブリン:ゴブリン族の9割はこのゴブリン。ソードゴブリンやアーチャーゴブリンなどと呼ばれることもあるが、それらは持っている武器とその武器を操るスキルの有無だけで、大きな違いはない。F級冒険者でも倒せるほどの雑魚だが、戦いの心得のないものにとっては十分脅威。
・ホブゴブリン:普通のゴブリンよりもわずかに大きな固体。知能も高く、ゴブリンを部下として集団戦術を得意とする。
・オーク:ゴブリンの突然変異種。ゴブリンよりも巨大な魔物で、棍棒を振り回す。C級冒険者が退治するほどの実力者。
・ゴブリンジェネラル:ゴブリン数千体を操る力を持つ最強のゴブリン。剣や槍を得意とし、その力はB級冒険者にも匹敵する。最近では、西大陸のウィンドポーン国で確認され、一つの村が占領され、軍が出動することになったとか。
あと、ゴブリンゾンビという魔物もいるらしいのだが、それはゴブリン族ではなくアンデッド族として扱われているらしい。
一番強いゴブリンですら、B級冒険者レベルとは、本当に弱い種族なんだな。
そういえば、ゴブリン族長の子供が優秀で、ゴブリンジェネラルに進化できるかも、とルシルが騒いでいたな。
「んー、やっぱりないか」
手がかりがないまま時間が過ぎていく。
外はもう太陽が沈んでいる。店も閉まっているため、ほぼ全ての家は帳が落ちているようだ。
クリスはというと――こいつ、絵本を枕にして座りながら寝てやがる。
アイテムバッグからハリセンを取り出し、殴ってやろうかと構えた、その時だった。
クリスの枕となっていた絵本に、「ゴブリン王」という記述を見つけて俺はその本を取り上げた。
「いたっ」
鈍い音とともに、クリスが起きる。
「もう、コーマさん、起こすなら優しく起こしてください」
額をさすりながら、クリスが文句を言う。
「あ、コーマさんも読むんですか? ゴブリン王物語」
「……ああ」
「懐かしいですよね。私も小さいころは読みました」
絵本といってもフルカラーの絵本ではなく、白黒だ。版画印刷だろうか?
結構独特な味がある。
「有名な絵本なのか?」
「絵本といえばゴブリン王物語、というくらいには有名ですよ。300年前に北の国――ゴルゴンに最高位のアンデッドモンスターであるリッチが大量に出現し、滅びました。それから200年かけて旧ゴルゴン国内にいるリッチ及びアンデッドは殲滅されて、各国に分割支配されたんですが、その時に、魔法学園の中で2000冊の絵本が新品同様の形で見つかりました。それを見つけた冒険者は、その絵本を大陸中の孤児院や図書館、学校に配り歩いたんですが、それがこのゴブリン王物語なんです」
300年前の本が今もこうして残っているってことか。
それとも、100年前に誰かが本を置いたのか。
おそらく、答えは前者だろう。
本は鑑定しても絵本としてのみ表示される。
そして、本当はしてはいけない、絶対にしてはいけないのだが、端っこの破れかけの紙をちょっと破ってその切れ端を鑑定。
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保存紙【雑貨】 レア:★★★
非常に劣化しにくい紙。大事な書類作成に使われる。
黴もできにくく、虫食いもおこりにくい。
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つまりは普通の紙ではない。俺がしたみたいに意図的に破られるくらいしないと無くならないだろう。そうでなければ、300年前どころか100年前でもこんなきれいな状態で残っているわけがない。
この様子だと、紙だけじゃないだろう。インクもまた、特別なインクが使われていると思う。
俺はとりあえず、その絵本を読むことにした。
ゴブリン王物語は、要約するとこんな感じのお話だ。
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独りぼっちのゴブリン王。彼には不思議な力があった。
周囲の魔物を呼び寄せる力がある。そのため、彼は周囲の魔物を呼び寄せた。
そのおかげで寂しくなくなった。
魔物の数はだんだんと増えていく。
人間の王は魔物の国ができることを恐れて、戦争が起こった。
魔物はゴブリン王を守るために戦った。
だが、人間達の力に負けた魔物は逃げ出した。
穴を掘って逃げた。
地下へと逃げた。
だが、人はそれでも追ってきた。
多くの魔物が死んだ。
ゴブリン王は悲しかった。自分のために誰かが死ぬのが悲しかった。
ゴブリン王は人の前に出た。自分はどうなってもいいから、仲間のことは地下で平穏に暮らさせてほしいと。
人間の王はその言葉を聞き、魔物にも心はあるのだと知った。
そして、彼らは境界線を作った。
人と魔物の境界線を。
地上は人が、地下は魔物が支配する。
それを決して侵してはいけない、もしも誤って入ってしまえば命の保証はないと。
こうして、人も魔物も平和に暮らしました。
でも、危ない場所に入ったら絶対にいけない。そこに入ったら魔物に襲われるから。
めでたしめでたし。
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「なんとも微妙な話だな」
「まぁ、子供に“危ない場所に行ったらいけないよ”って言い聞かせるための物語ですからね」
本の最後には、ご丁寧にも出版元まで書いてある。
ゴルゴン魔法学園か。
そういえば、歴史書の中にゴルゴン魔法学園に関する本があったな。
興味がないのでタイトルを見ただけだけど。
俺は記憶をたどりその本を探し出した。
正直期待はしていないが、もしかしたらゴブリン王に関する研究記録などが残っているかもしれない。
そう思った。
だが、そんな記録はどこにもない。
その代わり――
【理事長:グリューエル】
という記述を見つけた。肖像画は老婆の姿だった。
俺の知っているグリューエルとは似ても似つかぬ姿だ。
(ただの偶然か?)
よくある名前ではないと思うが、それでも変な名前ではないからな。
本を元あった場所にしまう。
そろそろ帰ろうかと思った、その時だった。
「……調べものは捗ってるかな?」
そう言って、ユーリが図書館の中に入ってきた。
ルルをおんぶして。




