初代国王の予言
~前回のあらすじ~
百合女王再登場。
「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま旦那さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま――」
「落ち着いてください! 落ち着いて!」
クリスが迫りくるリーリエに対して後ずさり、フリマの寮内、一階レストランフロアには、女性の呪詛が響き渡る。
相変わらず、クリスをひかせるとは恐るべしリーリエの愛情。
ちなみに、今もリーリエの愛の囁き――いや、騒めきは続いているが、それをこれ以上文字にして認識してしまっては俺の頭がおかしくなる。ルシファーの脳内における破壊衝動よりも怖いわ。
「コーマ様、此方の方は?」
リーリエの奇行に怯えていたフリマの従業員一同、クレーマー客を含めた奇妙な客の対処にも慣れた従業員一同でも、この相手は流石に想定外だったが、最初に意識を正常に戻したメイベルが訊ねた。
「リーリウム王国のリーリエ女王陛下だ。粗相があってもいいからな」
「え?」
女王だということに驚いたのか、粗相があってもいいことに驚いたのかはわからないが、固まっている。
元国王の相手をしたこともあったが、現役の女王を相手にするのは初めてか。
「で、そろそろ話を聞きたいんだが」
「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま――」
「あの、リーリエちゃん、お願い、話を聞いて」
クリスの“お願い”という言葉が出た途端、リーリエはさっと椅子に座り、
「イシズ、お茶の準備を」
「かしこまりました」
リーリエが落ち着いたところで、イシズさんが入ってきた。
リーリエと一緒に入ってこなかったのは、従者として一歩引いた立場にいたからなのか、それとも主人と同系統の色物キャラと思われたくなかったからなのか。
そして、彼女はメイベルからお湯を借り、お茶を入れて全員に出してくれた。
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たんぽぽ茶【料理】 レア:★
たんぽぽの根から作られたお茶。
鉄分豊富で女性に嬉しい多くの効能がある。
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……あぁ、婆ちゃんが好きだったわ。
たんぽぽ茶。
懐かしいな、この糞マズい味。
泥臭い味とか、根野菜をそのまま食べている味だとか。市販のたんぽぽ茶はそこそこおいしいそうだが、普通に作るとこんなもんだ。リーリエとイシズ以外、正直二口目を飲もうとしていないもんな。
「イシズさん、ちょっと俺が淹れてもいいですか? タンポポは持ってるから」
「はい、構いませんよ」
そう言うと、俺はタンポポを出し、《中略》、お茶を淹れた。
「まさか、このような方法で泥臭さが完全に消え失せるとは」
「ふぅ、体が癒しで満たされていく」
「これが同じタンポポ茶か。流石はクリスお姉さまが少しは認めただけはありますね」
「流石です、コーマ様」
「「「「とてもおいしいです」」」」
料理スキルさんの活躍により大絶賛のタンポポ茶。手抜きをしたとはいえこの味には驚かされる。
なにせ、俺のことを敵視しているはずのリーリエですら褒めていたくらいだし。
しばしほっこり落ち着いたところで、まずはお互いの挨拶がはじまった。
最初に会話が始まったのは、スー、シーとイシズだった。
「御無沙汰しています、スーさん、シーさん」
「お久しぶりです、イシズお義母様」
「……お久しぶりです」
あぁ、そうだった。クリスから話を聞いていたがすっかり忘れていた。
スーの父であるゴルゴ・アー・ジンバーラには多くの恋人がいて、イシズもその一人だった。
ただ、イシズと爺さんの間には子供はいないそうだが。
でも、イシズ義母様? 再婚じゃあるまいし、その表現はおかしい気がするが。
「アー様の恋人は、アー様の子供にとって全員義理とはいえ、母親。そして、アー様の恋人である私からしたらアー様の子供は全員義理でも子供なんです」
とイシズが説明してくれた。
ハーレムを作ってそこまで家族計画を作れるって男として尊敬するわ。
「そういえば、爺さんもこの町に来るって言ってたな。会っていくのか?」
「時間があれば会っても良いとリーリエ様より許可をいただいております」
「部下の恋は応援してあげないといけません。身分や年の壁など乗り越えてもらわないと」
流石は、性別の壁を乗り越えて自らの恋を成就させようとする女王陛下の言葉は重みが違うな。
「あの、リーリエちゃんは知っているんでしょうか? この町で何が起こっているのか」
「詳しいことは何も」
リーリエはそう言って、おかわりとして淹れたタンポポ茶をさらに飲み干して続けた。
「ただ、今回の集まりは、冒険者ギルドのギルドマスター、ユーリ様より各国に手紙が来ています。集まりは明後日ですから、各国の代表がくるとすれば、明日でしょうね」
勇者の緊急招集命令が3日後で、各国の代表の集まりが明後日。
明後日の話し合いで勇者の行動が決まるというわけか。
「でも、良く集まったな。ユーリは冒険者ギルドのトップとはいえ、立場では言えばこの小さな町のトップ……あぁ、魔石か」
「ええ。魔石をこの町が独占している以上、私達は彼の要求に従わざるを得ません」
…………そうか。
「お姉さま、皆さま、申し訳ありません。これからお姉さまの従者と大事な話をしたいので、どこかいい場所がないでしょうか?」
「それなら、二階の休憩室をご利用ください。本来は二階より上は男性の立ち入りを禁止していますが、コーマ様なら問題ありません」
メイベルの提案で、俺、リーリエ、イシズさんは二階の休憩室に赴いた。
卓球をしていたのか、ラケットとボールがほったらかしになっていた。
お風呂上りの皆が休むために作ったソファに俺達三人が腰掛ける。
クリスを外してまでする話……ただごとじゃないのはすぐにわかった。
「隠し部屋のことか?」
リーリウム王家の地下には、ブックメーカーの部屋、つまりはこの町の地下迷宮に通じる転移陣がある。
それを利用すれば、魔石の密輸も簡単だと思った。
「あの部屋は迷宮に通じている。俺はそれについてまだ何も聞いていない。聞く機会もあったが、あえて触れていなかったんだが」
「……エントの件もあるから言いますけど、ここで聞いた話は他言無用よ」
そう言ってリーリエは話を切り出した。今までの百合キャラではない、真実の語り部として。
「リーリウム王国の初代国王は、初代ブックメーカーよ」
「…………!?」
俺はその事実に驚いたのではない。その事実を俺に打ち明けたことに驚いた。
何故、魔王の存在を俺に打ち明ける?
もしかして、俺が魔王だと知られたのか?
さらにイシズが話を続ける。
「初代国王は、予知能力で得た情報の一部を子供たちに伝えることを条件に、ブックメーカーの力を飲み込みました。その時にできたのが、パーカ迷宮と呼ばれるブックメーカーの部屋へと通じる転移陣です。当時の第一王子は王位を継ぎ、玉座につき、その部屋を守る一族となった。第二王子はその転移陣の部屋を守る裏の守護者となりました。その第一王子の子孫がリーリエ様で、第二王子の子孫が私です」
俺は何も言わず、話を聞くことに集中した。
問題は、何故そんな話を俺にしたのか、だ。
イシズが続ける。
「予言には、エントの復活もありました。『東方より現れし炎の斧を携えた男、エントを撃ち滅ぼし、世界樹を復活させる』というものです。一族の言い伝えということもありましたが、半信半疑でした。ですが、その予言は成就されました。そして、予言はもう一つ。それがゴブリン王の誕生です」
「ゴブリン王? 魔王なのか?」
「いえ、魔王ではありません。全ての魔物の王。ゴブリン王には魔物を従える力があります。ゴブリンやオーガといった鬼族だけではなく、その数は全ての魔物の4割にも及ぶと言われます」
……それは凄いな。
魔物の4割か。その話が本当なら、うちのスライム達は危ないかもしれない。
そんな化け物が生まれたら地上は大混乱だな。
それが、ブックメーカーの話だとするのなら、ただの予言では済まされない。的中率はノストラダムスなどの比ではないはずだ。
「そのゴブリン王が生まれると言われる年が、今年なのです」
「……そうなのか」
「そして、予言には続きがあります。『エントを撃ち滅ぼした男、ゴブリン王の誕生の前に選択を突きつけられる。創造か破滅か。ブックメーカーになる前の私にはその男が選んだ答えは教えられなかった。だから頼む。私の子孫たちよ、その男を見つけ、創造へと誘え。私はこれから確定した未来を得るが、その確定した未来というのは、貴方たちが努力の末に掴み取った未来なのだから。だから、最後まで戦え』と」
予言ではなく、まるで子孫へのメッセージだな。
そして、二人が俺にこの話を語った理由がわかった。
「エントを倒した男――それはおそらく貴方のことでしょう。お願いです、この世界をお救い下さい」
「……お姉さまを……よろしく頼むわ」
休憩室から二人が去り、俺が一人の残される。
破壊と創造。
その意味について俺は一人考えた。
内に破壊の力を持ち、それを創造の力と変えた俺。
もしかして、創造と破壊というのは、それらを示唆しているのではないか?
今すぐ、ルシルの元に逃げたい衝動にかられた。




