閑話11 魔王城リフォーム(後編)
~前回のあらすじ~
ブラングラスと対面した。
一体、どういうことだ?
ドロップアイテムなのに倒してはいけないって?
ドロップアイテムとは、魔物を倒したときに手に入るアイテムのことだろ?
例えば、ゴーレムを倒したらゴーレム石と魔石を落とすように。
「倒したらダメってどういうことなんだ?」
「とにかく、二人は逃げ回ってください!」
そう言うと、シグレは緑色の団子をブラングラスの口めがけて放った。
ブラングラスは、その緑団子を咀嚼するように食べ、吠えた。亀のくせに吠えた。
「キュゥゥゥゥゥゥゥ!」
可愛いな、クソ!
でもブラングラスが振るう尻尾が岩を砕いた。威力は全然可愛くない。
倒すとなれば楽勝だけど、避け続けるって意外と大変だぞ。
とりあえず、距離を置く!
「亀って鳴くんでしたっけ?」
同じように逃げながら、クリスが訊ねた。
「いえ、あれは鳴き声ではなく、鼻息ですね。鼻がつまっているんじゃないでしょうか?」
シグレ説明してくれた。うわ、本当だ! 鼻があると思われる場所から粘液のようなものが飛んでる。
全然可愛くねー。なんだよ、鼻水の音かよ。
「殺してダメなら――」
俺は咄嗟にアイテムバッグから、チェーンを取り出した。
何の変哲もない鉄の鎖。それをブラングラスの右前脚に引っ掛けた。
「これで動けないだろ!」
俺は鎖を思いっきりひっぱり、ブラングラスをひっくり返し、さらに独楽のように回転させた。
いつもより余計に回っております! ってそれは傘回しか。
回転が止まり、ブラングラスは目を回していた。
仰向けになった亀――手足をばたつかせるが、とうぜん地面に届くことはない。
「流石ですね、コーマさん」
「で、シグレ、この後どうしたらいいんだ?」
腹にも甲羅にも草が生えている様子はない。
「もう少ししたら――ん?」
ブラングラスの首が伸びて、その首を使い、身体を押し上げた。
ドスンっと大きな音を立てて、元の体勢に戻った。
「嘘だろ……」
「……本当ですね」
そして、亀は俺を睨み付けてくると、大きな口を開いて、突進してきた。
「走るぞ! クリス!」
「はい、コーマさん!」
怒号を上げて追ってくるブラングラスに追い回され続けた。
この終わりのわからない追いかけっこは、30分も続いた。
「まだですかね、コーマさん」
「へばったか?」
「冗談言わないでください。こんなくらい全然平気です」
「だよな」
力の神薬のおかげか。ただ、肉体的には平気でも精神的には正直辛い。
さっきから、「ピーピー」と鼻水が飛んできていて、しかもそれが飛沫になっているので避けることもできないしな。かといって、離れすぎて逃げられるのも困る。
「……コーマさん、後ろを見てください」
「え?」
振り返ると、ブラングラスが止まっていた。
追いかけるのを諦めたのか?
そう思ったら――突然後ろ足で穴を掘り始めた。
そして、穴の中に下半身を入れる。
涙を流して――もしかして、これってあれか?
ウミガメの出産シーンみたいな?
あぁ、例え魔物でも、生命の誕生の瞬間は――やっぱり怖いわ!
卵ごと壊すか。
そう思った時――
「くさっ! なんがこれ、めっちゃくさっ!」
「う○こですよ、コーマさん! あの亀う○こしてます!」
「女の子がう○こう○こ連呼するな」
でも、叫びたくなるくらい、連呼したくなるくらい臭い!
一体、何食ったらあんな臭いがでるんだ?
あぁ、あの蛇か。毒蛇だったのかな?
「シグレ、いつまで待てばいい! さすがにこんな臭い場所にずっといるのは辛いって……えぇぇっ!」
シグレはクナイでブラングラスの首を斬り落とした。
ブラングラスは「べっ甲」と「魔石」に変わる。
もういいのか?
そう思ったら、彼女はあろうことか――あろうことか、ブラングラスの、「う」から始まり「こ」で終わる落とし物の中に手を突っ込んだ。
……落とし物?
「ありました、コーマ殿。これが、伝説のタタミの材料となるい草と、その種です」
彼女がそう言って、排泄物塗れの手を掲げた。
「ドロップアイテムってそういうことかぁぁぁぁっ!」
※※※
世の中には知らなくていいことと言うのがいっぱいある。
例えば、ビールを一杯飲むと脳細胞が100万個死ぬとか、布団を干したときのいい香りはダニの死臭だとか。
それを、知らぬが仏という。
魔王が仏を語るのもどうかと思うが。
「うーん、いい香り。それに気持ちいいわ。流石はコーマ、こんなに凄いタタミを作るなんて」
ルシルの個室は8畳の和室だ。
そして、そのタタミは全て伝説のタタミが敷かれている。
室内も新しいタタミの香りで充満していた。
ブラングラスの体内には種や植物を変異させる酵素があり、ブラングラスが食べた後、排泄した草が最高のタタミの材料になるんだとか。
俺は手袋をはめて、そこから16本のい草を貰い、魔王城に戻ってアイテムクリエイトでタタミを作った。
タタミ1枚を草2本で作ると言う外道を成したし、アイテムクリエイトを使っているんだが、その材料のことを思うと、どうも寝転がる気にはなれない。
「ねぇ、コーマ。本当に私の部屋だけでよかったの? コーマの部屋は普通のタタミじゃない」
「あぁ……いいんだよ。うん。ルシルが気に入ってくれてよかったよ」
伝説のタタミについて、俺は誰にも伝え説かないと決めた。
俺はこの秘密は絶対に誰にも言わない。
ルシルは世界で最も大切な存在だから、絶対に彼女には伝えない。
※※※
にしても、新しい魔王城も広くなったな。
トレーニングルームに鍵付きキッチンに大浴場にマネット用のゴーレム工房に、スライム用のプレイルーム。図書室に、音楽室、パーカ人形コレクションルームや、俺専用の工房まで作った。
さらに全員分の個室も作ったけれど――、
「なんで、ここはそのままなんだ?」
マネットがじと目で俺に尋ねた。
「そのままじゃないぞ。前の部屋よりも広くなってるし」
ホワイトボードに、今の会議で決まったことを書き込む。
ホワイトボードも今まではなかった設備だ。
「……なぁ、ここは会議室なんだよな?」
折り畳み式の卓袱台を囲み、魔王軍の主要メンバー全員が肩を寄せ合っていた。
全員自分の部屋はあるし、趣味の部屋も多くあるけれど、暇な時は皆、ここに来る。
会議室兼リビング。
タタミの部屋。
「やっぱりここが落ち着きますね」とコメットちゃん。急須から湯呑にお茶をいれてくれている。
「魔王軍は、全員貧乏性だな」とマネット。うるさい、俺もそう思ってる。
「主の呼吸を知るのも配下の務めゆえ」とタラ。BL素養はないぞ。
「ねぇ、コーマ。チョコレートパフェ作ってよ」とルシルが寝転がりながら俺に頼む。
「コーマ様、お風呂の準備ができましたよ」とマユさんが入ってきた。
「楽しいね、コーマお兄ちゃん」とカリーヌが笑顔で言う。
そんな皆を見て、俺は一言。
「で、今日の晩御飯はラーメンでいいんだな?」
「「「「異議なし」」」」
「あ、コーマ様、私も手伝います」「仕方ないわね、私も手伝うわ」「ルシルは来るな」
広くなっても、多くの部屋ができても、この狭い魔王城が、俺達の魔王城だ。
魔王城は今日も平和だった。
うん、魔王城は平和。
今、7.5章を何故か書いているんですが、7.5章がカオスなことになりそう。




