エピローグ & はじまりの話1
~前回のあらすじ~
クリスの借金生活がスタートしました。
「ふぅ、やっと完成したな」
勇者試験が終わり、クリスは一週間はパーティーやら手続きやらで手が離せなくなるというので、俺は魔王城に帰っていた。
そして、魔王城がとうとう完成した。
床はタタミ12畳。
押し入れを作り、羽毛布団も作成。
相変わらず、アイテムクリエイトのレパートリーの多さには驚かされる。
そして、床の間には木彫りの登り龍の置物が鎮座し、「道具作成」の文字が書かれた掛け軸が吊るされている。
純和室。
和室じゃないところをあげるとしたら、11階層への直通転送陣がえがかれた壁と、入口の扉くらいなものか。
あと、和じゃないものを上げるとすれば、銀色の髪のドレスの少女だ。
「あぁ、タタミ気持ちいい。もうタタミ無しじゃ生きれないわ」
大魔王の娘、ルシルは只今絶賛タタミの虜になっている。
靴を脱いで、ゴロゴロ寝転がっている。
寝転がってゴロゴロ転がって、木の柱に頭をぶつけている。
どこの幼稚園児だ、お前は。
「いたた、で、コーマ、お土産なんだけど、何? この木の実」
「あぁ、カカオ豆だよ。これを使ってお菓子作りでもしようと思ってな」
「カカオ、あぁ、聞いたことあるわ。確か、バターの材料に使われるのね」
カカオバターか。料理下手なのに、変に知識を持っているんだな。
ルシルはカロリーメ〇トチョコレート味が気に入っていたから、自作できないかと、魔法コンロを用意してみた。
まぁ、最初は普通にアイテムクリエイトでチョコレートを作ろうと思って用意した。
ま、チョコレートの前に、勇者試験が終わったら作ろうと思っていたものがあるんだよな。
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アイテムバッグ【魔道具】 レア:★★★★
多くアイテムを入れることのできる。アイテムバッグを入れることはできない。
アイテム以外を入れることもできない。上限2000キログラム。
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ちなみに、原材料は、
牛革が二つで牛革鞄になり、牛革鞄と魔石(中)で作り上げることができた。
牛革はミノタウロスがたまに落とすアイテムで、少しいただいた。
とりあえず、アイテムバッグは20個作ったので、19個はメイベルに渡して店の経営に役立ててもらおう。
とても便利なアイテムだが、さらに魔石を加えることで、さらにいいアイテムができるようだ。
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アイテムバッグ改【魔道具】 レア:★×5
多くアイテムを入れることのできる。アイテムバッグを入れることはできない。
アイテム以外を入れることもできない。容量は無限大。
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四次元ポケットが完成した。
とりあえず、籠はこの中に入れておこう。
いままでお世話になってきた籠だが、もう当分出番はない。
「あと、ギルド迷宮の75階層に珍しい花が咲くって教えてもらってな、転移石を使って取りに行ってみようと思っていたんだ。帰りは明日になるかもしれない」
「へぇ、いってらっしゃぁぁい!」
タタミでごろごろしながらルシルが手を振る。
もう一度頭をぶつけたら絶対にわらってやろう。
それと――
「いいか、料理の材料を置いていくのは不安だが、絶対に何も作るなよ。絶対だぞ!」
そう言い聞かせて、70階層に転移石を使って移動した。
まぁ、この後、俺は迷宮の75階層で花を摘んでいる途中に、月のしずくを偶然発見し、70階層でアイアンゴーレムに出くわして、クリスなら楽勝に倒せるんだろうなぁとか思いながらも対抗武器を自作して危機を乗り越え、夜明け前に魔王城に帰宅。
結果、ルシルが用意した朝飯に殺されそうになるという、この世界に来て二度目の命の危機に出くわした。
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レア:★ 353種
レア:★★ 64種
レア:★★★ 41種
レア:★★★★ 10種
レア:★×5 9種
レア:★×6 2種
レア:★×7 1種
レア:★×8 1種
レア:★×9 0種
72財宝 2種
483/862139218
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ふぅ、コレクションはまだまだこれからだ。
それにしても、72財宝があんなところにあるとは。
どうやって手に入れたらいいのか。
でも、必ず俺のものにしてみせる。
アイテムマスターの名にかけて!
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Episode2 に続く
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~はじまりの話1~
俺は物心ついたときから何かを集めるが好きだった。
おそらく、父親がプロベースボールチップスカードを集めていたからだろう。
仮装ライダーカードやエクスクラメーションマンチョコの世代なら絶対にはまっただろうなぁと思う。
俺が集める対象となるのは決まっている。
・コレクトアイテムが有限であること。
これは当然だ。
例えば、プロベースボールチップスの場合、2015第一弾のみを集める。というのなら俺は全て集めたい。
だが、2015年第一弾、第二弾、第三弾と集めて、2016年第一弾、第二弾と永遠に続けるつもりはない。
実際、2012年第一弾と、2011年第二弾はラッキーカードも含めてコンプリートしたが、それ以外には手を出していない。
・お金がかかりすぎないこと。
これは、学生が学生たるゆえん。
バイトをしているが、それでも金は有限である。
まぁ、時間が無限であれば、とは思ったこともないが。
でも、有限であればこその楽しみ方もある。
たとえば、今、湖の上に小舟を浮かべ、
「ふふふふふ、来た!」
手に伝わる僅かな振動に俺は歓喜した。
これぞ、まさに待ったあの魚の手ごたえに違いない。
リールを回す。
魚影が姿を現したのでタモを用意した。
慌てるな、慌てるな、俺。
釣りは魚との駆け引き。いわば勝負。
「来たっ!」
俺が釣り上げた魚は、ニゴロフナ!
これで、琵琶湖で釣れる魚全種類GET!
釣りあげた証拠に魚拓をとる。
ミッションコンプリートだ!
というか、最後に残ったのが琵琶湖名物のフナだとは思わなかった。
ただ、近年はニゴロフナの収穫量が減っているからなぁ。
キャッチ&リリースの精神で、ニゴロフナを湖に戻してあげる。
去年、名物ということでフナ寿司を食べに行ったら、そのフナ、四国から取り寄せたって話してたもんな。頑張って繁殖してくれよ。
一年越しになる琵琶湖で釣れる魚コレクションはこれにて終了。
ただ、こいつらは元に戻せないがな。
クーラーボックスの中のブラックバスやブルーギル等の外来種の魚を見て俺は嘆息をもらした。
それともう一匹、こいつは万が一にも逃がすわけにはいかないので、すでにとどめはさしている。
ていうか、なんで琵琶湖にカンディル(アマゾンに生息する人食いナマズ)がいるんだよ。
尿道から入ってきたり、肉を食い破って体の中に入ってきて襲ってくる。
ピラニア? え? なにそれ、可愛いね。と言いたくなるほど凶暴な魚だ。
一体誰が放流したんだよ、もしも万が一繁殖してしまったらどうするんだよ。
「どうやって食べたらいいのかなー、軽くフライにするか」
とはいえ、ブラックバスもブルーギルも生臭いからなぁ、下ごしらえが大変だ。小麦粉はあったような気がするが、他に何持ってたかなぁ。
小舟の上で鞄の中身を確かめる。治療用の救急道具と栄養補助食品もしっかりある。
小麦粉と油、鉄鍋にカセットコンロ。あと油をしみこませるための大量の新聞紙もあるな。
よし、今から作ってみるか。
――そう思った直後、強い風が吹いた。
船が大きく傾く。
「うお、あぶね……」
慌てて船の両端を掴み、バランスを取る。
まぁ、さすがに転覆は――
『困った。まだ転覆しないのか』
「……え?」
空中に、銀髪ツインテール、黒いドレスの美少女が浮いていた。
半透明で、センスで扇いでいる。
「……幽霊!?」
思わぬ幽霊の登場に俺は立ち上がり、
『幽霊とは失礼ね! 私はルシル! 大魔王ルシファーの娘、ルシルよ!』
「どっちにせよ人外かよってうわっ!」
バランスを崩して倒れてしまった。
あれ? 身体が浮かばない……俺、死んだんじゃないか?
などと思っていたら、さっきの幽霊少女が俺の横に現れた。
『このままだと死ぬわね』
「ぼばべぼべびばぼぼ(お前のせいだろぉ)!」
なんで水の中なのに普通に話してるんだ。
って、幽霊に対してのつっこみじゃないな。
てか、今のせいで水が大量に身体の中に――
『助けてほしければ私の手を取りなさい。私の世界に連れて行ってあげるわ』
なんだ、これ。幽霊の世界って、やっぱり俺、死ぬのか?
『幽霊の世界じゃないわよ。もちろん、こっちの世界に戻る方法も教えてあげる』
この時、俺は溺れる者は藁をも掴むならぬ、幽霊をも掴むということわざを作り出した。
『大丈夫、あなたには集めてもらうだけよ』
集める? 大丈夫だ、それなら得意分野だ。
で、何を集めればいいんだ?
俺の心を読んだのか、それとも偶然か、幽霊の彼女は俺が集めるべきものを言った。
『72財宝。私を大魔王にするために集めなさい!』
薄れゆく意識の中、最後に見たのは――クーラーボックスから逃げていくブラックバスとブルーギルの姿だった。
あぁ、カンディルのとどめをさしておいてよかった。と心から思った。
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はじまりの話2 に続く
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