クリスと女二人旅~善行編~
~前回のあらすじ~
コーリーになって戻れなくなったので、クリスと旅に出ることになった。
検問は勇者特権を使うことで簡単に通過することができた。
そして、俺達はビル・ブランデに入ったわけだが。
「すごいなぁ」
俺はぽつりと呟いた。
一面草原のコースフィールドに行った時も驚いたが、こっちは一面赤土の荒野だった。
建物は、城門の近くにある馬牧場のような場所くらい。
「そういえば、なんでラビスシティーの検問の外には町がないんだ……ですか?」
危うくいつもの口調で話しそうになったが、前にも少し気になっていた。
検問は朝の5時から夜の24時まで行われる。もう日本の電車並みに長い時間開けられている門だが、でも24時から5時までは門は閉まっている(勇者特権があれば、時間外も出入り可能)。
毎日数千人、数万人の人が通ると言われるこの門の外になぜ宿場町のようなものがないのか?
そう思っていた。
「一応、検問の外の周囲の土地もラビスシティーの土地なんです。だから、他の国の人は誰も町を作れないんです」
「え? ここもラビスシティーの中なんですか?」
さっき感じた、ビル・ブランデに来たという喜びが霧散していく。
「一応……ですけどね。この地下が迷宮だから、ラビスシティーが所有しているんですよ」
あぁ、そういえば迷宮、特に10階層はかなり広かったからな。11階層より下は亜空間のようなものらしく、厳密にはこの地下には存在しないが。掘って掘って掘って迷宮に忍び込もう、なんて人がいたら困るからなのか。
でも、迷宮の壁は基本壊すことができないから、そんなこと無駄なんだけど。
「他にも、工作して、町の壁を壊されたら困るから、ラビスシティーが許可した建物以外は作らないことになっているんですよ。じゃあ、馬屋に行きましょうか」
例外として用意された建物――コースフィールドなら地竜乗り場があったように、ビル・ブランデには馬屋がある。
「じゃあ、二頭借りましょう。お金は私が払いますから」
目的のアイテムが生えているのは、ここよりもはるかに北だ。
なので、馬で移動することにしたのだが、
「あぁ、いいですよ。二人で一頭で」
クリスはそんな提案をしてきた。
「え?」
「大丈夫ですよ、私も今日は鎧をつけていませんし、女の子二人ならお馬さんも乗せてくれます」
クリスの鎧は現在修理中で俺が預かっている。本当は一瞬で終わるんだけど、まだ放っておいてる。
そのため、彼女は今、鎧をつけていない。
それが、問題なんだけど。
そう、馬が揺れるたびに彼女の胸が大きく揺れた。
そして、その胸は――俺の背中に大きく当たる。
あ、これが次世代のマッサージ機なのかな。うん、気持ちいい。
って思わず思考を放棄しそうになる。
いかんいかん、マッサージ機なら、コイン投入口を探さないとな。
「えっと、銅貨を入れる場所はどこだったかな」
「コーリーちゃんどうしたんですか?」
「え? いえ、あの……」
「もしかして馬酔いしちゃいました?」
「いえ、大丈夫です」
お願い、クリス。俺の顔を覗き込まないで。胸を俺に押し付けないで。
もしも鎧をつけていたらこんなことにならなかったのに。
世間一般でいう幸せの時間は続く。
うぅ、漫画やアニメではよくあるシーンだと思っていたけど、実際にされてみるとここまで緊張するものだとは思わなかった。
「そういえば、コーリーちゃんが耳にしているの通信イヤリングですね」
「え? あぁ、そうですね」
やばっ、通信イヤリングを外すのを忘れていた。
いつも通り3つとも付けたままだ。
「はい、メイベル店長からいただいたんです」
「あぁ、そういえばメイベルもしていましたね、同じイヤリング。他の二つは誰に通じてるんですか?」
「え? あぁ、本店の店長さんと、あとは……その」
どこにしよ?
「あ、そういうことですか。ふふふ、コーリーちゃんも女の子ですもんね」
「え?」
「いいなぁ、私もそういうホットラインが欲しいです」
あぁ、そう勘違いしたのか。
とりあえずの危機を回避したため、俺は背中の天国マッサージから気をそらそうとクリスをからかうことにした。
「クリスティーナ様だって通信イヤリングをつけてるじゃないですか。恋人さんじゃないんですか?」
「いえ、そんなんじゃないですよ。従者のコーマさんとの連絡用です」
「そうなんですか?」
「はい、そんなんじゃないですよ……そんなんじゃ」
彼女の声がか細くなっていき、急に、「あぁ、もうっ!」
と叫んだ。
「もう、コーマさんのこと全然わかりません!」
「うわっ、手綱をひっぱりすぎないで、お願い、前を見て!」
馬は手綱のせいで大きく嘶き、無人の荒野でロデオをすることになった。
道中、魔物に襲われることもあったが、どうしても倒さないといけない相手はクリスが相手をし、歩みの遅い魔物相手なら馬を飛ばして逃げた。
そんな行程が4時間――夕方まで続き、中継地点であるイネリオス村にたどり着いたわけだが。
村が――絶望に溢れていた。
「よくおいでなさった旅のお方。このような有様でもてなすことはできませんが、ごゆっくりしていってください、ごほっ、ごほっ」
勇者の来訪ということで長老が訪れたが、彼の顔色は決して優れない。
というより、もう棺桶に片足を突っ込んでいるんじゃないか? というくらいだ。
【HP2/32 MP20/20 食中毒】
……食中毒か。
「あの、村長さん、一つお尋ねしたいのですがよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「この村で最近になって食べ始めたものは何かありますか?」
「はい、実はこの村はこれまでにない干ばつに襲われ、農作物は全て枯れ果てるのを待つばかり。川の水はひあがり魚も取れず、そのため、普段は食べることのない草等を――」
「そうなんですか……」
普段食べない草って、明らかにそれが原因だな。
横を見ると、クリスも神妙な面持ちでその話を聞き、
「あの、このあたりで、魔物ではない大型動物が住む場所ってありますか?」
「ございますが、一体何を?」
「大型動物を狩ってきたら、当面の間の食糧になると思いますから」
「……村のものもそれは考えました。このあたりで大型動物であるイグアーナトカゲが住むのは北の渓谷。ですが、北の渓谷にはイグアーナトカゲを主食とするワイバーンが住んでおり、そこに行ったものは誰も帰ってきておりません」
トカゲ……トカゲを食べるのか。
もしかして、ワイバーンもトカゲを食べるのか? どっちも似たようなものだろうに。
「任せてください、私は勇者ですから、ワイバーンくらいなら何度も討伐したことがあります。コーリーちゃん、ごめん、勇者としてここは放っておけないよ」
「はい、クリスティーナ様ならそうおっしゃると思ってました。その間に、私もできることはやっておきますから、遠慮なく飛竜を倒してきてください! あ、あと飛竜が落とす素材は高品質のアイテムを作れると思いますから、倒したら絶対に持って帰ってきてくださいね。私の店でも高値で買い取らせてもらいますし、フリマでも一緒だと思いますよ」
私が笑顔で言うと、クリスは、「あはは、コーマさんみたいなことを言いますね」と言って、一人で村を出た。
まぁ、ワイバーンって、翼竜の劣化版らしいからな、クリスなら何の問題もないだろう。
俺は村でゆっくりしたいんだけど、今は女の子だからな。
穿った考えだろうが、女の子にはやっぱり白衣の天使のようにかいがいしく看病してほしいし、病人食みたいなものを作ってほしい。
「村長さん、村長さんの症状は食中毒です。心当たりはありますね?」
「え、ええ」
「なら、この解毒ポーションを飲んだら治るはずです。飲んでください」
本当はアルティメットポーションなんだけどな。
HPも減ってるし、こっちのほうがいっぱいあるから。
「なんと!? そのようなものが……ですが、それならば、まずは若い者から先に」
「大丈夫ですよ、全員分ありますから。それにお金も要りません。困っている時はお互いさま、情けは人のためならずという言葉が私の国にあるんです」
村長にそう説明すると、彼は涙ながらに「ありがとうございます」と感謝した。
そして、彼が薬を飲むと、
「おぉ、体が軽く――これは奇跡っ!」
村長の声色が良くなるが、血色がよくなっているとは言えない。
【HP32/32 MP20/20 飢餓】
一時的な回復にすぎないのは、彼の状態をみたらわかる。
アルティメットポーションでも、空腹による栄養失調は治せないってことか。
こっちもなんとかしないといけないな。
クリスの食糧でも、全員分の空腹を紛らわせるとは思えないし。
「村長さん、他の人のところに案内してください。薬を配りますから」
「わかりました! ついてきてくだされ、薬師様!」
「え、いえ、薬師ってわけじゃないんですけど」
そして、俺たちは村中に薬を配り歩いたのだが、全員の顔色が優れないのはすぐにわかった。
彼らの絶望は治らない。体が健康になったことで、空腹感が増したのだ。
でも、それも対処している。いや、偶然に対処していた。
リーリウム王国の城下町で料理を無料で振る舞ったことがある。
その時に9割はなくなったのだが、1割はそのまま残っている。
あとで食べようとアイテムバッグの中にしまっていたのだが、スタッフが後で美味しく食べることもなくそのまま残されていた。
なので、俺はそれらをアイテムクリエイトを使って即席で作ったテーブルの上に並べていった。
「みなさん、食べ物はまだまだありますから、どんどん食べて行ってください!」
「おぉ、なんともかぐわしい香り」
「本当に、本当に食べてよろしいのでしょうか?」
「はい。まだまだまだまだありますから」
村中の人は何日ぶりかのまともな食事に涙を流して食べ始めた。
普通は空腹の人間がそこまで食事をできないのだが、俺のアルティメットポーションのおかげで、胃袋も活性化しているのだろう。次々と食べ始める。
うん、涙を流して喜んでもらえてうれしいよ。本当は女の子の手料理じゃなくてごめんね。
ある程度皆が食事を食べ終えたら、すでに太陽は沈み、夜になっていた。
そこで、俺は村長さんに、畑に案内してもらうことにした。
何かあるのでは、と村人全員がついてくる。
特に大したことをする気はないんだけどね。
畑は作物がしなびて、このままだと確かに全滅するだろう。
畑の風上で俺はあるアイテムを取り出した。
……………………………………………………
湧き水装置【魔道具】 レア:★★★
魔石を使い、水を湧きださせる魔道具。
水温は3度~29度まで調整可能。
……………………………………………………
フリマの寮を作るときに、作ったアイテムだ。
予備として作っておいたが、ここで使うことにした。
蛇口を取りつけ、水の出る向きを上向きにして、魔石を入れた。
最後に蛇口をひねると、水が天に向かって上がって行き、畑に水を振りまいた。
「とりあえず、3時間はこのままでいいでしょう、その後は井戸の中に水を入れましょうね……ってえぇぇぇっ!」
振り向くと、村人全員が土下座していた。
え? 何、これ?
「あの、一体、どうしたんですか?」
俺が慌てて尋ねると、
「聖女様、村をお救い下さいましてありがとうございました」
「聖女様!」「聖女様!」「聖女様!」
え? えぇぇぇっ!
ただみんなの病気を治して、食事を提供して、雨の代わりを用意しただけで聖女って。
「そんな、大袈裟ですよ、やめてください、お願いします」
俺はそう言って頼むが、誰一人頭を上げようとしなかった。
※※※
細い体に巨大な翼、長い尻尾の竜の亜種――ワイバーン相手に私は剣を向けました。
夜の渓谷に炎の剣から放たれる光が淡く輝いています。
私はワイバーンを倒すべく、地を蹴りました。
「待っていてくださいね、皆さん! もうすぐ、もうすぐですから!」
きっと、誰もが私の帰りを待ってくれているはず。
みんなの思いが私に力をくれました。
今見たら、評価ポイントが22222でした。
なんか今日はいいことありそう。
13時追記
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