クリスと女二人旅~出立編~
~前回のあらすじ~
コーリーちゃん再び。
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「鉄の剣ですね、こちらになります」「銀貨2枚と銅貨18枚になります」
「申し訳ありませんが、当店ではそのようなサービスは行っておりません」
もう泣くのもやめて、俺はフリマで働いていた。
とりあえず、今後のことを考えないとな。
「コーリーさん、凄いですね、2回目なのにもうここまで働けるなんて。私なんてさっきもお釣りを間違えちゃって」
「ううん、レモネさんだって凄いじゃないですか」
「私のは……たぶん凄いって言わないと思います」
確かに、あれが凄いかどうかは正直微妙だな。
レモネには固定ファンがついている。それは凄いことなんだが。
「みたか、さっきの転び具合、何もないところであれだけ器用に転ぶなんてな」
「俺なんて釣銭間違えられたんだぜ? どうやったら銅貨を渡すところで金貨を渡すかなぁ。もちろん教えてあげたけどな」
「本当に彼女は僕たちが守ってあげないとな」
三人の会話は、こそこそ喋っているようだが、しっかり俺の耳に届いていた。
庇護欲がそそられる。彼女の持ち味の一つだが、本人からしたら不本意なことだろう。
「さっきも、コーリーさんの持っていた薬瓶壊しちゃって」
「気にしないで気にしないで、中身はただの色のついた水だったから」
俺は笑ってそう言った。
本当は気にしてほしいんだが、どう説明したらいいかわからないし、彼女を責めたところで事態が好転するわけじゃないから。
とりあえず、材料についてどうしようか考えていた。
この町には材料はないのは当然だ。コースフィールドやリーリウム王国で見つけたが、時期的なもので、今では採取は困難だ。リーリウム王国で以前にイシズさんに聞いた話だと、この時期ではビル・ブランデにあるらしい。
ビル・ブランデは、ラビスシティーの北にある国だ。
俺は行ったことがないが、クリスがいうには、魔道具博物館がある場所らしい。ただ、俺だけではそこにはいけない。
検問を通ろうにも、身分を証明するものが俺にはない。
一応、コーマとしてなら勇者の従者としての身分はあるんだけどなぁ。
仕事が一段落つき、裏の倉庫で休憩しながら、俺はかつてアンちゃんから貰って大切にしている木のブローチを見ていた。
流石に、これで勇者です、なんて言ったら笑われるだろうしなぁ。
「それ勇者のお兄ちゃんのなの!」
「え? アンちゃん?」
後ろを振り向くと、ウサミミフードを被ったアンちゃんが俺を睨み付けていた。
こんな顔でアンちゃんが俺のことを見るなんて初めてのことだ。
「なんでお姉ちゃんが勇者のお兄ちゃんの勇者の証を持ってるの?」
そうか、アンちゃん、俺が俺のブローチを盗んだと思ったのか。
ええと、なんて説明したらいいのかな。
「あぁ、うん。あのね、コーマさん、火山へ仕事にでかけたの。火山って知ってる? 山から火が噴き出る危ないところなの」
「……うん、前に本で読んだことあるの」
「それでコーマさんがね、この大切な木のブローチが燃えちゃったら危ないって私に預けて行ったの」
うん、なかなかうまいこと言い訳ができた。
クリスならこれで騙せる。
そう思ったのだが、
「ダメなの! そんな危険な場所なら、勇者のお兄ちゃんが持っていないと意味ないの! お守りなの!」
「え? あ、うん、そうだね」
騙されなかった。何、この子、もしかして俺やクリスより賢いの?
アンちゃんは俺の手からブローチを奪い取ると、とてとてと走って行った。
走っていく先には白髪の少年――クルトがいた。
「あれ、アン、どうしたの?」
「クルトお兄ちゃん! 勇者のお兄ちゃんが危ないの!」
「え? 師匠が――って、あれ!? コーリーさん! コーリーさんじゃないですかっ!」
クルトは薬瓶が詰まった箱を近くの木箱の上に置き、俺に詰め寄った。
「久しぶりです、コーリーさん、約束覚えていてくれてうれしいです」
え? 約束?
何か約束してたっけ?
考え、考え、考えたうえ、結論がでなくて、適当に誤魔化すことにした。
「ううん、今日はちょっと用事で来ただけで、すぐに出て行かないといけないの」
「すぐに出ていくのに勇者のお兄ちゃんのブローチ持ってたの?」
うっ、鋭いよ、アンちゃん。確かにそこはおかしいよね。
「だからね、メイベル店長に預けようとしてたんだけど。そうだね、コーマさん、一週間以内には帰ってくるからアンちゃんから渡してもらっていいかな?」
「うん、アンから渡すの」
アンちゃんは大事そうに木のブローチを握った。
「お待たせしましたコー……コーリーちゃん! クリスさんを連れてきましたよ!」
「コーリーちゃん、久しぶりです」
「お久しぶりです、クリスティーナ様」
そういえば、クリスとはこの姿でも会っていたな。
「クリスティーナ様、突然の申し出を受けてくださりありがとうございます。本店より火急速やかにある草を仕入れるように言われたのですが、町の外についてきてくださる知り合いがクリスティーナ様しかいなくて」
それはメイベルと予め打ち合わせてあった。
「事情はメイベルさんから聞いています。大船に乗ったつもりで任せてください」
泥船の間違いだろ、と言いたいが、俺は今コーリーだ。
とびっきりの笑顔でこう言った。
「はい、よろしくお願いします、クリスティーナ様」
こうして、俺とクリスと二人でビル・ブランデに旅に出ることになった。
正体がばれないようにしないとなぁ。




