鍛冶師ギルドの若人
~前回のあらすじ~
ザード成長中
僕とコーマ様の奇妙な共同生活は続いていた。
そして、コーマ様と呼んだら怒られた。めんどいからさっきの通りでいいと。
メイベル店長は様付けで普通に呼んでいたのに、理不尽だと思う。
なので、コーマと呼び続けることにする。
その後、コーマは僕に、「筋力を上げたいか、スキルレベルを上げたいかどっちだ?」と二択で聞いて来た。
なんだ、その二択、と思った。筋力が上がれば鍛冶師としての腕も上がるが、スキルを上げたほうが恩恵は大きい。
なら、スキルかな、と答えたら、コーマは「へぇ、そうか」とだけ呟き、アイテムバッグから瓶に入った液体を取り出した。
「健康ジュースだ、飲んでおけ」
と言われた。明らかにジュースの色じゃないんだけど、僕は黙って飲むことにした。
正直、味は悪くなかった。
「じゃ、交代で鍛えようか。と、その前に、これも飲んでおけよ」
「これ? ……これって」
今度は健康ジュースなんかじゃない。見覚えがある色をした液体。
そして、瓶も僕が見たものと一緒だ。
「力の妙薬ですか?」
「あぁ、武器って力があったほうがいい武器作れるだろ?」
「それはそうなんですが、これって銀貨20枚もするんですよ?」
「あぁ、大丈夫大丈夫、一階にいるクルトが作ってるやつだから、格安で手に入るんだ」
「……そうなんですか」
とはいえ、半額程度は払っているんだろうなぁ。
僕は一生縁がないと思っていたが。
「えっと、飲んであとからお金を請求されたりとかは?」
「ないない」
ま、まぁ、相手は勇者相手に金貨2000枚貸している金持ちだしな。
あんな剣を一瞬で作れるんだ、金には困っていないんだろう。
そして、僕は力の妙薬を飲んでみた。
味は――んー、少し苦味がある。さっき健康ジュースを飲んだばかりなので、もう胃がちゃぷんちゃぷんだ。
これで力が上がったのだろうか?
「試してみるか?」
コーマは笑顔で、プラチナハンマーを僕に差し出した。
さっきは両手で持つのがやっとだったハンマー、それを受け取る。
ずっしりとした重みが両腕に伝わってきた。
だが――これならかろうじて扱える。
本当に、力が上がっているのか。
「ほらほら、制限時間は30分しかないぞ! 早く作れよ」
そして、コーマは僕に銀のインゴットを渡した。
一体、あのアイテムバッグの中にはどれだけ素材が入っているんだ?
確か、重さ制限はあったはずだけど。
そして――僕はさっきよりもお湯の温度を上げて、もう一度銀のインゴットを叩いた。
「じゃあ、俺はちょっと作るものがあるから、2本ほど作っておいてくれ」
そう言って去って行った。
おいおい、いいのか、ここにあるプラチナハンマーを売っただけでも金貨に変わる価値はあるのに、放っておいていいのか?
ま、まぁ、それだけ僕を信用してくれているってことか。
良いように受け取り、僕は鎚を振るい続けた。
あと、さっきは気が付かなかったけど、この手袋も凄い。手に馴染むうえに、全然熱が伝わってこない。
そして――僅か20回たたくだけで、僕の初めての剣ができあがった。
(これが僕の――初めての剣……包丁なんかとは全然違う)
ただ、やっぱり鍛冶をしたら精神的な疲労が大きいな。
疲れた。本当に。
「できたか?」
ちょっと休んでいると、コーマが帰ってきた。
手には刀身のない柄がある。
「お、まさしく銀の剣だな。そんじゃ、柄はこれでっと」
すると、コーマは柄に剣をはめ、留め具で止めた。
そして、その剣を僕に渡す。
手に馴染むその柄にも驚いたが、なにより、柄が僕の作った剣にぴったりはまっていたのには驚きを通り越すしかない。
「コーマ、僕の作った刀身の太さがなんでわかったんだ?」
「ん? あぁ、これは万能柄って言ってな、どんな刀身にもぴったり合う柄なんだ。いい銀の剣じゃないか」
「あ……ありがとう」
謎の柄に戸惑いながらも、僕は初めて作った剣の完成度に満足していた。
これが僕の剣か。
設備と力の妙薬。二つの助けもあるだろうけど、師匠にも自慢できる剣だと思う。
「じゃ、もう一本作ってみようか」
「ちょっと待ってください、高レベル素材の剣作りは疲労が溜まって」
「あぁ、MP減ってるな。ほら、これを飲んでくれ」
コーマはそう言ってまた薬瓶を取り出した。
「……えっと、これは?」
「マナポーションと疲労回復薬のブレンドだ」
「あ、ありがとう」
力の妙薬も20本、マナポーションと疲労回復薬のブレンド薬を飲んだ本数は100本を超えたあたりから数えるのを諦めた。ちなみに、コーマはというと、なんと携帯炉と携帯金床なんていうものを取り出して、予備の矢床で剣を鍛えていた。
そして、銀の剣は10本目で完成――9本はやはりワンダー武器だった。
10本目は水の代わりに泥水を使っていたから成功したんだろうな。
毎回氷塩水を使えばいいんじゃないかと訊いてみたら、「一度使った方法だと2回目は成功しないんだよ」と言われた。
同じ過ちを繰り返さない、というのを無意識のうちにしているのか。
そして、コーマは本を取り出して、何かチェックを入れている。
「それって初心者用の鍛冶師の本?」
「あぁ、最後に材料と作れる剣の一覧があるんだよ。コレクターとしては全部の剣を作ってみたいなぁって思ってさ」
「……はぁ」
意味がわからないが、きっと何か深い理由があるんだろうと思って、それ以上聞くのはやめた。
そして、僕はそれから夜になるまで、10時間ほど剣を鍛え続けることとなった。そして、全てが終わったら、もう夜中だった。全然疲れないのが逆に辛いと思ったのは初めてだ。
「あぁぁぁっ!」
「どうした? 大声をあげて。近所迷惑だぞ」
「そうですよ、近所迷惑ですよ! こんな時間まで剣を打ち続けていたら、近所の人が乗り込んできますよ。鍛冶師によっては、赤ん坊が泣き止まないとかいう理由で閉鎖に追い込まれた工房もあるんですから」
「あぁ、その点なら大丈夫だ。この部屋は防音対策はばっちりだし、どれだけ暴れてもその振動は他の部屋には伝わらない。フリマの応接室もそうだっただろ」
「あ……そうですか」
「そうだぞ。もしも普通の部屋だったらとっくに炉の重みで床が抜けてるって」
「あぁ……そうですよね」
「それにしても、疲れた。普通の鍛冶師は一日4本剣を打てば良い方なのに、50本も作ったぞ」
普通の鍛冶師の12倍以上の仕事量だ。
でも、継続は力なりだな。50本目とか、鎚がやけに軽く感じた。
こんなの一週間続けたら、鍛冶師レベル3になるんじゃないか?
そしたら、兄弟子にだいぶ追いつくな。
「よし、お疲れ。いやぁ、ザードだっけか。一日目にしてはよく頑張ったよ」
「いや、僕以上に剣を作ってるコーマに言われたくないけどさ。今日なんて金の剣、鉛の剣、石の剣など20種類は作ってたし」
「まぁ、こっちはいろいろとチート使ってるからな」
チート?
よくわからない言葉だけど、でもやっぱりすごいよな。
「それに、本当に凄いって。一日で鍛冶師レベルが4にまで成長するとは思ってなかったよ」
「え?」
「いや、だからお前の鍛冶師レベル、さっき4に上がったぞ?」
「え……えぇぇぇえっ!?」
こうして、知らぬ間に、鍛冶師歴10年で到達できると言われる鍛冶レベル4に僕は到達していた。
忘れている人のために。
クルトもかつて使ったアイテム。
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健康ジュースです。




