鍛冶師ギルドへの提案
またザード(鍛冶師シタッパ)視点に戻ります。
~前回のあらすじ~
ゼッケンとザード達が鉢合わせ
なぜゼッケンさんがここに!?
混乱する僕らをよそに、彼はその場で僕たちの処分を下した。
ハチバンさんとクイナさんは除名処分とギルド規則の中で一番重い罪だ。
「ザードは保留にさせてもらう」
僕に関してはギルド預かりの保留となった。
僕というよりかは、僕の師匠に遠慮してのものなのだろう。ただ、それはつまり僕の罪が師匠にまで伝わるということで、師匠からも怒られるのだろうな。そして、それでもなお除名処分になる可能性がある。
ゼッケンさんの鬼の形相は張り付いたまま剥がれ落ちそうにない。いつもは笑っているだけの彼がここまでなった。
僕たちがしたことを思えば当然だ。
「なぁ……マスター、ちょっといいか?」
「なんだ」
クイナさんが小さく手を挙げると、ゼッケンが怒鳴りつけた。
後ろでコーマとメイベル店長はかなり迷惑そうにしている。
「実は、私達、さっき冒険者ギルドの前でコーマさんが仕える勇者のクリスティーナ様にお会いしたんです。そして、コーマさんが鍛え上げた剣を見せてもらいました。ザード、続けろ」
クイナさんが肘で俺の横腹をつついた。
続けろって、なんで僕が!?
あぁ、そうか。
この中で一番言い訳が下手な僕だからこそ、ありのまま伝えろってことか……なんでこんな役回りばかり周ってくるのか。
毒を食らわば皿までとは言うけれど、その皿が解毒剤なんてことは絶対にないんだよなぁ……はぁ。
「実は、僕たち、クリスティーナ様の持っている剣を見せてもらって、その剣に感動したんです。僕だけじゃありません、クイナさんも、ハチバンさんもです。ハチバンさんなんて、鞘を見ただけで冒険者時代のことを思い出すくらい感動なさって。それに、僕もいつかこんな剣を作りたいって思って。本当に鍛冶師ギルドに入ってほしいと思ったんです。コーマさんがいたら、鍛冶師ギルドの技術力が10年……いや、20年は先のものになると思います」
「そんなにか?」
「はい」
僕は頷いた。自信を持って。
例え、コーマがロリコンだろうと、それが僕の本心だ。
そして、僕はゼッケンの後ろにいるコーマを見る。
彼は本当に迷惑そうな顔をしていた。
そして、僕は彼の後ろの道具を見る。
正直、何でできているかわからない。でも、きちんと手入れがされている。
そして、金属――あれは……銀のインゴットか。
銀は鍛冶師の中でも比較的低レベルで鍛えることのできる金属であるが、その希少さからなかなか手が出せない。
正直、鍛冶工房が2階にあるということ以外は僕がこれまで見てきたどの鍛冶工房よりも優れていると思う。
僕の感想を聞いたゼッケンさんは「ううん」と唸り、
「なぁ、コーマ。この際だ、はっきり言う。これを見てくれ――」
ゼッケンさんはそう言って、一本の剣を取り出した。
それは――1本の鉄の剣だった。
「これは、あんたが作ったという鉄の剣だ」
「ん? おぉ、ゼッケンが買ってくれたのか。売れたと聞いて喜んでたんだ。唯一の成功作だったからな」
そこで、迷惑そうにしていたコーマが初めて目を輝かせた。
「成功作? 何言ってる、俺はこれほど凄い鉄の剣は見たことがない。俺は生まれて初めて剣に惚れた。きっとこいつらも俺と同じ気持ちなんだと思う。頼む、鍛冶師ギルドに入って――いや、鍛冶師ギルドのギルドマスターになってくれ」
「ヤダ」
「なってくれたら――って、おい、いきなり否定かよ!」
コーマは即座に否定した。
横にいるハチバンさんの表情は正直わからない。
恐らく、彼はここで初めて、自分以外の人にギルドマスターになってもらいたいと思ったのだろう。そうすれば、もしかしたら自分達の除名処分がなし崩し的になくなるかもしれない、そう思っていると僕は思った。
なぜなら、僕も同じ気持ちだからだ。
だからこそ、彼の即否定は正直辛かったんだが。
「ていうか、正直、俺も参ってるんだよ。俺は一人でゆっくり剣を作れたらいいだけだし。じゃあ、折衷案でこういうのはどうだ? えっと、その俺と同い年っぽいの――」
「ザード、お前だ」
ゼッケンさんに言われ、僕は一歩前に出た。
「そいつの身柄を一週間ほど預かりたい。それで、ザードと……えっと、そっちの人……」
「そいつは今までうちで副ギルドマスターをしていたハチバンだ」
「あぁ、ハチバンだ」
ゼッケンさんが過去形で紹介して、ハチバンさんは一瞬ぴくっとコメカミが痙攣したが、笑顔で自己紹介をした。
すると、コーマは怪訝な顔になり、
「え? サブマスなのにハチバン……あぁ、まぁ、翻訳の問題か」
と意味の分からないことを呟き、
「ま、いいや。ハチバンはとりあえず無罪放免でいいや。ぶっちゃけ俺は何もされてないし。あ、俺からは罪を問わないってだけで、ギルド内で別に罰があるなら俺は止めないが」
「おいおい、本当にいいのか?」
「で、ザードを俺が預かり、結果いかんで、メイベルと直接取引した……クイナだっけか、彼の処分を俺が決める。最悪除名なんだ、それでいいだろ?」
コーマは僕たちの戸惑いを嘲笑っているかのようにてきぱきと指示を出した。
正直、僕たちはハチバンさんが無罪放免なのは気に食わない思いだ。
なぜなら、今回の騒動は彼の主導で行われたといってもいい。
ゼッケンさんも同じことを思ったようで、
「おいおい、俺がいうのもなんだが、本来は逆じゃないのか? 俺の予想――いや、確信といってもいいが、今回の騒動の主犯はハチバンだぞ」
「嫌なら全員除名、フリマとの取引は俺がとやかく言う問題じゃないが、口添えくらいはしてやろうと思っていたがそれもなし。それだと取引は中止になるよな、メイベル」
横で黙っていたメイベル店長にそう尋ねると、彼女は「ええ」と頷いた。「コーマさんが希望なさるなら今まで通りの取引でも私は構いません」と付け加えた。
つまりは脅迫しているということか。
本来は僕たちが彼を貶めようとして始めた取引だったのに、逆に貶められる結果となった。因果応報だな。
「お、俺はそれでいい! いや、願ったりかなったりだ!」
ハチバンさんがそう叫んだ。そりゃそうだろ、彼にとっては悪い話など一つもない。
そして、クイナも渋々了承したようで、僕はコーマに一週間預けられることになった。
師匠へは事後承諾になるだろうが、コーマから、「彼の師匠には今回の件は黙っておいてやってくれ」とゼッケンさんに伝えられ、彼はそれを受け入れた。
正直、僕は今日一番ほっとした。
そして、全員が工房から去り、僕とコーマの二人が残された。
おそらく、僕はこれから一週間、彼の雑用係としてこき使われるのだろう。
そう思って、僕はコーマに尋ねた。
「あの、それで僕は一体何をしたらいいんでしょうか?」
「その前に、ここで見たこと聞いたことは絶対に誰にも言わない。約束は守れるか?」
「……えっと、はい。犯罪絡みとかじゃなかったら」
僕には選択肢はない。
だから僕は頷いた。
「じゃあ、この契約書にサインをしてくれ。契約違反したら、一生猫語でしか喋れない体になる」
そう言って、コーマは一枚の紙とペンを取り出した。
そして、そこに「鍛冶工房内で見たこと聞いたことはコーマが許可した相手以外に伝えてはいけない」「誰かに伝えてしまった場合、猫語で会話することになる」「猫語しか喋れなくなる期限は契約主が解除するまで」と書き、最後に「犯罪絡みの事案が起きた場合に限り、契約を無効とし、ギルドに通報することができる」と書き加えた。
「……え、これ、魔法の契約書ですか?」
貴族や金持ちの間の取引で、魔法の契約書で相手を縛ることがあるという。その契約の効力は奴隷がつける“隷属の首輪”以上にきついものらしい。
(これ一枚で金貨1枚はするのに――そこまでして守りたい秘密って一体何なんだ?)
僕は契約に縛られること以上に、契約をしてまで守りたいコーマの秘密が気になった。
そして、僕が署名したら、コーマはそれを手に取り、アイテムバッグの中にしまう。
「よし、じゃあ、俺のことはコーマ……呼び捨てでいいしタメ口でもいい。ザードは俺と同い年くらいだろ?」
「ん、あぁ、正直助かる」
心の中では呼び捨てにしていたからな。本当に助かる。うっかりタメ口にしてしまい、僕とクイナさんが除名とかなったら困るからな。
「で、お前に頼みがある」
コーマは言った。
そして、恐らくそれがコーマの秘密に直結することなのだろう。
僕は覚悟をし、一言一句聞き洩らさないように耳を傾けた。
もうなんでもこい。犯罪はないといっていたが、ぎりぎり合法のような危険な行為でも、鍛冶師ギルドへのスパイ工作だろうと、一階に住んでいるアンちゃんのお守りだろうとなんでも任せてくれ、そんな気分だった。
「俺に、剣の鍛え方を教えてくれ」
「……え?」
それは流石に予想の圏外だった。
※追記
今回の話で50万文字突破しました。
ありがとうございます。




