鍛冶師ギルドが暗躍する表側で
鍛冶師ギルドを訪れて、喜んで追い返されたその後は、俺はクリスと一緒にパーカ迷宮の探索に勤しんだ。
出現率10000分の1と言われるパーカ(女装Ver.)が出てきたときは小躍りして喜んだものだが、当然というかシークレットの出現はなかった。
まぁ、1000万分の1と言われるからな。
一見不可能ともいえるその確率だが、考えてみれば、その確率は日本で有名な宝くじの1等の確率と一緒だ。
絶対に1等が当たらないという宝くじは誰も買わない。
当たる可能性が0ではないのだ。
だから、いつか当たると信じないとな。
その後はクリスと炎の剣についての話し合いとなった。
パーカ迷宮経由でブックメーカーの部屋に行き(彼は相変わらず俺達のことは忘れているのに知っているという口調で話していた)、リーリウム国に行った。
謁見の間ではリーリエ女王が偉そうな貴族っぽい人と話し合っているようなので、俺達は玉座の後ろで見つからないように待っていた。すると、イシズに見つかり、俺達は再び謁見の間の後ろに連れていかれた。
そして、俺が作った炎の剣を、ファイヤーサラマンダーの鱗の代金として納めることにした。
だが、クリスはそれをさらに買い取りたいと言う。
そして、イシズがつけた値段は、金貨1800枚だった。
流石にぼったくりじゃないかと俺でさえ思ったが、俺ほどじゃないが高レベル鑑定スキル、そしてそれ以外の経験を持っている彼女から、この剣の素晴らしさを聞いてクリスだけでなく俺も納得した。
俺をこの国の専属鍛冶師として迎えたいとまで言ってくれたのは流石に参った。
で、当然、クリスはお金がない。
ということで、イシズさんは一度この剣をリーリエ女王に献上するから、彼女から受け取ったらいいと言ってくれた。
今回調査団を発見し、事実は闇に葬られることになったがエントを倒した勇者への報償にと。
だが、彼女は金貨1800枚で買う道を選んだ。
俺に借金をしてまで。
彼女は言った。今回の戦いで私は十分に報酬をもらいました。だから、これ以上何も貰えません。
その報酬が何かは俺にもわからなかった。もしかして、彼女の借金を1割(約金貨20枚)減らしてあげたことだろうか?
だとしたら、金貨20枚減らして1800枚増えたとあっては金貨1780枚の損失だ。
しかもその金貨を俺から借りることに躊躇しないとは……まぁ、そのくらいは余裕で払えるけどな。
この前、鉄の剣を造ろうとしたときに19本失敗した。
10本は強鉄の剣、4本は真鉄の剣、3本は神鉄の剣、2本は鉄の剣(?)だった。
意味がわからない。鑑定してもはっきりと表示できないんだ。
とりあえず、材料に適当に力の神薬とか混ぜたら面白いかなぁとか思って入れてみただけなのに、それだけで鑑定できないなんて。
で、メイベルに見てもらったら、彼女もアイテム名もわからない鉄の剣ははじめてのようで、1本金貨500枚で、全部合わせて金貨1200枚で買い取ってくれた。
ありえない、俺が元オーナーだからといって出し過ぎだろう、と言ったが、次の日には物好きの好事家が来て、鑑定でも表示できない鉄の剣を1本金貨1200枚で買っていった。
世の中どうかしていると思う。
あと、竜の牙を使って作ったドラゴンダガー3本はエリエールが金貨600枚で買って行った。
合計金貨1800枚、ちょうどクリスに貸すことのできる金額が揃ったわけで、結局彼女にそのお金を貸すことになった。
返済が滞ることは目に見えているが。
ちなみに、俺がイシズに渡した金貨1800枚は彼女の個人資産になるはずなんだが、彼女はそのお金を、ユグドラシルの観光施設の誘致に使うという。偉い人だと思ったら、その観光施設が彼女の個人資産になるらしく、彼女が言うには数年後には倍の額になるという。メイベルと一緒で商売上手だ。
そして、翌日。
俺は鍛冶師工房で次に何を作ろうか考えていた。
鍛冶師をやっていて気付いたんだが、鍛冶をすると力の入れ具合や炉の温度により、同じ材料でも作れる武器が変わる。
中にはアイテムクリエイトで作れない武器なんかもある。
前に作った鉄の剣(?)なんかがそうだし、もちろん、俺が作った、グラムから作った斧なんかがそうだ。
今は鍛冶でしかできないが、もしかしたら錬金術でも似たようなことができるかもしれない。いや、レシピがないから無理か。あとは……俺と今のところ関わりがないが、裁縫スキルでもできるのかな?
ただ、今は優れた武器をつくるよりも、思っている武器を作ることが先決だ。
銀の剣を作ろうとしているのに良銀の剣ばかりできるところを見られたら……別に困ることはないが、流石にアイテムマスターの沽券にかかわる。
ということで、今は手加減してアイテムを作る訓練中という名の休暇を満喫することにしたわけだが。
「コーマ様、よろしいでしょうか?」
メイベルが訪れた。彼女がこっちに顔を出すのは珍しいな。
「どうしたんだ?」
「実は、鍛冶師ギルドの人が訪れまして」
メイベルはそう言って、今日の午前中にあった出来事を話した。
端的に説明すると、俺との取引を取るか、鍛冶師ギルドの取引を取るかと言ってきたわけか。
で、メイベルは俺との取引を継続することにしたと。
「よかったのか? 俺がフリマに卸している武器ってほとんどないだろ。俺に遠慮しているなら、別に気にしなくていいんだぞ。別に武器作りは趣味みたいなもんだし」
「はぁ……コーマ様はわかっていないようですね。コーマ様の武器の売り上げと鍛冶師ギルドから卸されている凡庸武器の売り上げでは、9対1どころか、99対1以上なんですよ」
「……は?」
そこまで? あぁ、でも昨日一日で金貨1200枚の売り上げになっているんだから、ウソじゃないんだろうな。
「そもそも、凡庸武器ならば、サフラン雑貨店で皆さん買いますからね。正直、在庫が余って困っていたんですよ。先ほど、シュシュさんに鍛冶師ギルドに正式に取引中止の契約書を持って行かせました」
「んー、でも、メイベルから聞いた話だと、来た人の中にはゼッケンはいなかったんだろ? あのゼッケンはそれほど悪い人には見えなかったんだがなぁ」
まぁ、ウザイ人種であることには変わりないが。
でも、これって、俺が鍛冶師ギルドにさらに恨まれる結果にならないか?
だとすれば――ま、別にいいか。俺の評判が悪くなったらクリスの評判が下がるだけだし。
一社員がしでかした事件は、世間では社員の名前よりも会社の名前がニュースになるようなものだ。
それに、人の噂も七十五日。そうだな、どうしても町にいられないような事態になったら、ちょっと旅行に行くのもいいかもな。前のリーリウム国の旅は旅行というには騒がしすぎたから。
なんて妄想を膨らませていたら、
「コーマ! 俺達が悪かった! この通りだ、謝罪する」
そう叫んでスキンヘッドの鍛冶師ギルドマスター、ゼッケンが入ってきて、ジャパニーズアイムソーリー……土下座を披露した。そして――
「あの三人が行ったことは鍛冶師ギルドの総意じゃない。それだけは理解して欲しい」
そして、ゼッケンが立ち上がると――後ろから昨日俺に怒ってた三人が何故か俺の鍛冶工房に現れた。
彼らを見たゼッケンの表情は――
俺はこの時、異世界にも修羅がいたと思った。




