表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode06 日常閑話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/742

鍛冶師ギルドの対策

~前回のあらすじ~

鍛冶師ギルドがフリマと取引できなくなった。

 僕たち三人は、フリーマーケットの近くの空き地のベンチの上でため息をついた。

 葬式場のような雰囲気を出す僕たちに近付く人は誰もいない。

 いるとしたら、人に餌付けされて人を怖がることを忘れてしまった白い野鳥が数羽いるくらいだ。


 何しろ、つい先ほどフリーマーケットのオーナーを怒らせてしまい、一番大きな取引先を失ったのだ。

 しかも、ギルドマスターであるゼッケンさんの許可を得ないどころか、ゼッケンさんはこれ以上コーマへの関与を僕たちに禁止していた。今回の事態がもしも彼に知られたら、僕たちはギルド除名処分が下るかもしれない。

 ギルド脱退と違い、ギルド除名は経歴にも一生残るからそれだけは避けたい。


 その思いは、ハチバンさんとクイナさんも僕と一緒のようで、二人で真剣な面持ちで話していた。

 その二人に、僕はおずおずと手を挙げて意見を述べた。


「あの、やはりメイベル店長に謝罪して今まで通り商品を卸させてもらうのが一番では?」


 一番正しいと思う意見に、二人は呆れた目で見て、


「悪いがそれはできねぇ。そんなことをしたら、俺達鍛冶師ギルドの沽券にかかわる」


 ハチバンさんがそう言って、クイナも同意した。


「それより、今話していたんだが、お前はどうしてメイベルオーナーが鍛冶師ギルドとの契約を打ち切ってまでコーマを囲おうとしていると思う?」

「え? それは……」


 そういえばそうだ。こちらが出した条件、凡庸武器の卸値を10%OFFで一年間というのは魅力的な条件だったはずだ。

 にもかかわらず、断るだけではなく契約の打ち切りを言い出すのはやりすぎだと思う。優秀な店長兼オーナという評判があるからなおさらだ。一時の感情で動く人間には思えない。


「もしかして、コーマに大きな恩があって、その恩のために断ったとか?」


 それなら、彼女が怒るのも無理はない、そう思った。だが、僕の予想をハチバンさんは鼻で笑い、「そんな理由なわけねぇだろ」と言った。結構いい予想だと思ったんだけど。


「いいか? コーマは勇者クリスティーナの従者だ。そして、クリスティーナはフリーマーケットの常連客であり、従業員寮にも住んでいるという情報がある。だから、あの女店長はコーマではなくクリスティーナに恩を売っているんだ」

「ハチバンさんのおっしゃる通りだ。いいか? 勇者に護衛を依頼すると、だいたい一時間最低でも銀貨10枚は必要になる」

「銀貨10枚!?」


 僕は流石に驚いた。さっき銀貨20枚の力の妙薬を見て、こんなものを買う人間がいるのだろうかと思ったが、勇者なら2時間働いたら買えるのか。


「あぁ、銀貨10枚だ。その女勇者が同じ部屋に住んでいる、店に訪れるとなればその時間は最高の警備状態になる。しかも無料どころじゃない、勇者なら買う商品もバカ高いだろ。最高の上客だ。つまり、メイベルは女勇者に住居を提供するだけで最高の警備と最高の上客を得ていることになる」


 あぁ、僕もようやくわかった。つまり、メイベル店長は、クリスティーナさんとの縁を保つためにコーマとの契約を切れないということか。確かに、今の話を聞いたら10%OFFとは比べものにならないだけの価値はある。


「おそらく、コーマは自ら鍛えた武器をクリスティーナに無料提供する見返りに従者にしてもらっているんだろうな。そうして名を売った鍛冶師は数多くいる」

「なら、僕たちに勝ち目はないじゃないですか」

「あぁ、このままなら勝ち目はない。だから、逆に俺達がクリスティーナを囲えばいいんだ。勇者が頼めばあの女店長だって俺達との契約は見直すだろうし、なにより鍛冶師ギルドの宣伝にもなる。そうしてみろ、その功績で俺がギルドマスターだ!」


 そう宣言してハチバンさんが立ち上がると、数が増えていた野鳥の群れが驚いて空へと飛び立っていった。



 幸い、すぐにクリスティーナの居場所の情報が入ってきた。ハチバンさんはこれでいて部下が多いからな。

 彼女がいるというのは冒険者ギルド――僕たちがいた公園からは目と鼻の先だった。


 ラビスシティーの冒険者ギルドは、冒険者ギルド本部であり、世界で唯一勇者試験が行われる場所でもある。基本的には勇者しか入れない10階層以下の迷宮でも、冒険者ギルドが主体となって月に数回調査団を編成し、迷宮の探索に乗り出すことがある。

 そのため、実力のある冒険者や傭兵などは勇者になることを夢見て、そこそこの冒険者は勇者の従者になっておこぼれに預かるか、調査団に入ってそこそこいい収入を得る。


 といえば聞こえはいいが、調査団に加入できるギルド員はCランク以上の冒険者であり、大半の冒険者は志半ばに挫折することが多い。


 ちょうど僕たちが冒険者ギルド本部にたどり着いたとき、彼女が出てきた。

 金髪の長い髪の僕より僅かに年上の美人剣士だ。彼女が勇者なのだろうか、そう思ったが、すぐに彼女の凄さを実感した。

 彼女の着ている鎧――材質はおそらく鉄合金だろうが、その鎧に大きな穴が空いていた。

 何があったのかわからないが、傷から察するに何かに貫かれた感じだ。

 にもかかわらず彼女は生きている――一見すれば華奢とも思えるその身体だが、強靭な肉体の持ち主であることが容易に想像がついた。


 かなりの美人でモテモテなんだろうなと思った。そういえば、兄弟子達が彼女のことを「巨乳勇者」と陰で呼んでいたことを思い出したが、まぁ、僕は巨乳はあまり好きじゃないのでそこはかなりのマイナスポイントだ。まぁ、彼女からしても僕など数あるモブ男子の一人なんだろうけど。


 ん? あれ、彼女のしているイヤリング……どこかで見たような気がするんだけど。

 あ、思い出した。メイベル店長がしていたイヤリングと同じものだ。ペアのイヤリングをするということは、仲がいいんだろう。それとも流行っているだけなのかもしれない。


 今回も最初はクイナさんが声をかけることになった。


「ひゅー、あの胸たまんないぜ」


 などと言って下品な笑みを浮かべているハチバンさんに任せられないから当然の選択だろう。

 クイナさんは彼女に近付き、


「失礼、勇者クリスティーナ様ですね」


 丁寧な物腰で、そう問いかけた。そして、彼女が頷く前に、


「私、鍛冶師ギルドのクイナと申します」


 と自己紹介を終わらせた。


「はい、私はクリスティーナです。どういったご用件でしょうか?」


 彼女は警戒することなく柔和な笑みを浮かべて受け答えした。

 こういう時に見ず知らずの男が声をかけてきたら少しは警戒するはずなのに、流石だ。勇者の余裕だろうか。


「実は、クリスティーナ様に耳よりの情報を持ってまいりました。立ち話もなんですから、近くの喫茶店で紅茶でも飲みながらいたしましょう」

「耳よりな情報ですか? わかりました。じゃあ、そこのお店で」


 彼女が指さしたのは、冒険者ギルド直営の酒場兼宿屋だ。

 ただ、昼間は酒を出さない方針らしく、昼間は食事くらいしかできない。

 ちなみに、冒険者ギルド員以外でも利用はできるが、やはり割合は冒険者が多い。


 彼女にとっても行きつけの店なのだろうと僕は勝手に推測した。


 クイナさんは僕たちを軽く紹介し、四人で店の中に入って行った。

 ハチバンさんは席に着くなり肉ライス大盛りを注文し、その時にクイナさんがとても嫌な顔をしたのは印象に残った。


 が、僕も昼は何もたべていなかったので空腹だ。そのため、お茶だけではなく、クッキーも一緒に注文。

 クイナさんは僕と同じ物を二つと言ってから、話を始めた。


 まず語りだしたのは、クリスティーナの武勇伝からだ。どこから仕入れたのか? というくらい彼女のエピソードを語る。閃光の異名を持つことや、勇者試験でのエピソード、魔物との戦いなど。


 それに対して、クリスティーナは笑顔で応えながらも、「あ、それはただの噂ですよ」などと間違っていることは間違っていると訂正を加えながら話していった。その時に僕が持った彼女の印象は、誠実な人だ。

 自分にとっては絶対にプラスとなるような噂話でも真向から否定する。それってなかなかできないことだと思う。


 しばらくして、お茶とクッキー、そして肉ライスが運ばれてきた。肉ライスはごはんの上に味の付いた魔物の肉(仕入れ状況によってなんの肉かは変わり、今日は狼の肉らしい)が乗ったこの店の名物料理で、良い香りが僕の鼻孔にまで入り込んできて、僕の腹の中の虫に合唱命令を出した。


 ……聞こえてないよな。


 よほどお腹がすいていたのか、ハチバンさんが肉ライスをがっつきはじめ、僕は空腹を紛らわせるためにクッキーをつまんで食べた。


 ちなみに、クイナさんはまだ本題を切り出していない。

 相手が商売人だと迅速な交渉が基本だが、相手が素人だとリラックスした状態まで持って行ってから交渉しないといけないと言っていたのを思い出す。


 だから、クイナは待っていた。彼女がお茶を飲むのを

 そして、彼女がお茶を飲み、カップを受け皿においたときに、本題を持ち出した。


「ところで、クリスティーナ様は剣の購入や手入れはどこでなさっています?」

「コーマさんに全部任せてます。あ、コーマさんっていうのは私の従者なんですがね」


 それは予想通りだ。


「一人の鍛冶師に任せているのですか?」

「はい」

「それは不便でしょう。武器の手入れと鎧の手入れは分けるべきでしょう。見ると、クリスティーナ様の鎧には大きな穴が空いている。整備が間に合っていない証拠です」

「あ、これですか……はは、ちょっといろいろありまして」


 彼女は恥ずかしそうに言った。


「どうでしょう? もしよろしければ、我々鍛冶師ギルドにクリスティーナ様の全面バックアップをさせていただけないでしょうか? そうしていただけたら、武器や防具は無料、もしくは格安でお渡しでいる上に、ギルド員全員でクリス様の武器防具の手入れをさせていただきます。見返りはいりません。ただ、クリスティーナ様が我々の武器を使ってくだされば、我々にとっても宣伝効果になりますから」


 旨い話には裏がある。だからこそ、クイナさんはその裏を提示し、安心させることにした。

 そのためか、クリスティーナはくいついた。


「それはいい話ですね。とてもうれしいです。確かに、コーマさん一人に負担をおしつけるのはよくありませんからね」

「えぇ、その通りです」


 クイナは笑顔で頷いた。


「ですが、先ほども申した通り、鍛冶師ギルドといたしましては、クリスティーナ様には我々の武器を使っていただきたい。そのため、従者に鍛冶師がいるというのは我々としては協力ができません。コーマ様と一時の間でかまいませんので距離を置いてはくださりませんか?」

「一時というと?」

「そうですね、鍛冶師ギルドとクリスティーナ様の関係性が世間に浸透するまでの、約一年といったところでしょうか?」


 そうクイナが言うと、彼女は即答した。


「すみません、それはできません」


 またもや否定の言葉だった。


「どうしてでしょう?」

「あぁ、理由はいろいろとあるんですが、んー。一番わかりやすい理由としては、私、コーマさんに借金をしているんですよ」


 借金!? 1時間で銀貨10枚稼げるのに?

 ま、まぁ、いろいろと理由はあるんだろうが。だとしたら、これは厄介だな。


「不躾な質問で申し訳あないのですが、いかほどの額を?」

「えっと、2000枚です。だんだんと増えていって、暫く返す目途が立たないんです」


 銀貨2000枚!? 僕の給料約20年分だ。

 借りる勇者も勇者だが、貸すコーマも凄い。

 確かに、1時間銀貨10枚といっても、それは仕事があったときの話だからな。

 銀貨2000枚も借金があったら、利息だけでも大変だろうな。

 確か、町の金貸し屋の平均金利は年に20%だから、年間銀貨400枚……月平均銀貨33枚か。きついな。


「それなら、その2000枚、当ギルドで肩代わりいたしましょうか?」

「え? そんな、悪いですよ。会ったばかりの人に」

「いえいえ、銀貨2000枚程度なら鍛冶師ギルドから出すことができます」


 流石はギルドの金庫番。僕の給料20年分を「2000枚程度」だなんて。

 凄いや、この人に一生ついていこう!


 そう思ったのだが、


「あ、いえ。私の借金は、金貨2000枚なんです」


 その時、僕たちの価値観は崩壊した。

 なぜなら、その額は……鍛冶師ギルドメンバー全員の資産を足しても届かない額だったから。

 この勘違いは無理からぬことだ。鍛冶師の支払いは基本銀貨まで。金貨が使われることなど滅多にないどころか、一生金貨を手に取らないまま終わることもある。

 金貨1枚あれば子持ちの家族が一年暮らせ、金貨10枚あったら大きな家が買え、金貨100枚持ったら死ぬと言われる。金貨100枚を持った金持ちが間違えてスラム街に入ってしまい、3分後物言わぬ死体になっていたという事実から生まれた言葉だ。


 つまり人が20人死ぬほどの金を貸せるなんて……僕たちは下手したらとんでもない相手を敵に回したのかもしれない。


 混乱している僕たちの中で、一番最初に言葉を発したのは、クイナさんだった。


「ど、一体、どうしてそのような額の借金を」

「あ……ええと、これです」


 クリスティーナは恥ずかしそうに一本の剣を取り出した。


「これをコーマさんから買うのに、ちょっと借金をしてしまいまして」

「つまり、武器をツケで買ったと?」

「……はい」


 いや、武器をツケで買うのは、名の売れた冒険者では珍しくはない。

 だが、それでも金貨2000枚という額はありえない。


「以前に使わせてもらったのですが、これを使ったら他の剣を使えないというか」

「抜いてみてもいいですか?」

「はい、どうぞ」


 クイナさんは彼女の許可をもらい、剣を抜いた。

 そして、僕たちは等しく息を呑んだ。


 赤く輝く刀身。

 鍛冶師として未熟な僕でも、その美しさに目が眩んだ。


「これは……材質はプラチナ……炎の魔力が付与されていますね」

「……流石は神眼の持ち主と言われたクイナだな。いい鑑定眼だ。って、この鞘の材質はドラゴンの皮かよ。一体どこで入手したんだ? ちっ、久しぶりに冒険者の血が騒いでやがる」

「冒険者は引退なさったのでしょ、ハチバンさん。それともB級冒険者に戻りますか?」

「うるせぇ、俺が冒険者をやってたら女房が泣くんだよ……」


 二人の会話を耳にしながら、僕は自分が鍛冶師であることを思い出した。

 そうだ、考えてみれば僕だけではない、ハチバンさんも元は凄腕の冒険者で、世界中で見た様々な武器の長所を取り入れて新作の武器を多く生み出した発明鍛冶師の異名を持っていたそうだし、クイナさんも優れた鑑定眼で良質の素材を見抜いて仕入れ、多くの鍛冶師に貢献してきた才能ある人だと聞いたことがある。


 なのに、今は一人の才能ある鍛冶師を潰すことばかり考えていた。

 一体、僕たちは何をしているんだ、こんなところで。


 そう思ってしまった。


 そして、クリスティーナが立ち去ったあとも僕たちはあの武器の余韻に浸っていたが、


「路線変更だ! こんな武器を作る奴が鍛冶師ギルドに入ったら俺達の名声はうなぎのぼりだ。その功績でギルドマスターになってやるぜ」

「私も、新しい商売が思いつきました。彼をせいぜい利用させてもらいましょう」


 どうやら、ダメな人間は滅多に変わらないらしい。

 でも、二人についていってしまう僕も、きっとダメな人間なんだろうな。



 そして、コーマの工房にたどり着いた僕たち3人を待っていたのは、コメカミに血管を浮かべているゼッケンさんだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ