鍛冶師ギルドの歓迎
~前回のあらすじ~
なんか、鍛冶師ギルドにいちゃもんつけられた。
鍛冶師ギルドがあるのは、町の北東にある職人通りにあるというので、俺はゼッケンと一緒に仕方なくそこを目指していた。
そういえば、このあたりはあまり歩いたことがないな。
あちこちから、煙が上がったり、金属を叩く音があちこちから聞こえてくる。
「それにしても、鍛冶師ギルドか」
ギルドといえば、冒険者ギルドの代名詞だが、冒険者ギルドの他にもギルドは存在する。
商工会ギルド、乗合馬車ギルド、魔道具研究ギルド、錬金術ギルド、裁縫ギルド、建築ギルド、運輸ギルドなど、その数は職種の数だけあると言ってもいい。
商工会ギルドがあるのだから、鍛冶ギルドはその下位組織なのかと思ったら、そうではなくて商工会の「工」はスキルを使わない作業をする人で、鍛冶ギルドは鍛冶スキルを持っている人が入るギルドらしい。
「ギルドに入会するかしないかは自由。ただし、入会したらなかなか抜けられない、そう聞いたことがあるんだが」
鍛冶師ギルドのある建物へと向かいながら、俺はそう尋ねた。
ゼッケンは、俺が鍛冶師ギルドに出向くことを受諾したため機嫌が良くなっている。
「あぁ、脱退はギルドマスター、つまり俺の許可が必要だ。脱退条件として俺が認めたのは今のところ三つだな」
まずは鍛冶師を引退する場合。鍛冶師を引退するのなら、とうぜんギルドに入っている意味はなくなる。
まぁ、鍛冶師を引退しても、酒飲み友達がギルドに入っているから、とか、後任を育てるためにギルドに残っている人はいるらしいが。
次に、町を出る人間。鍛冶師ギルドは多くの国や町に拠点を置く冒険者ギルドとは違い、この町の中の鍛冶師の集まりだ。もともと、迷宮に挑戦する冒険者が多く、彼らのために武器を鍛えていた鍛冶師が集まって作られた組織だから。
そのため、町の外に出る人間はギルドから抜けることになる。もちろん、強制除名ではなく、情報を得たい鍛冶師はギルド員の籍を残したままの職人もいる。
最後に、金銭的に余裕がなくなった場合。ギルドの年会費は銀貨5枚と決して高くはない、むしろ安いくらいだと思うのだが、それでも銀貨5枚を払う余裕もなくなった鍛冶師が過去に数人いたそうだ。そのため、自ら除名した。
それ以外の理由での脱退は認められていない。
「じゃあさ、金貨5枚渡すから、100年間自由にさせてもらうってのは無理か?」
「金貨5……いやダメだ。コーマ、お前、なんで他の鍛冶師から恨まれているか理解していないだろ」
さっきから、呼び捨てにしてきて馴れ馴れしいなぁと思いながらも、俺は逡巡し、首を横に振った。
「……全く心当たりないなぁ」
俺はただ剣を作っただけで、販売しているのもフリマ経由だからなぁ。
「いいか? このラビスシティーで現在一番大きな店はどこだと思う?」
一番大きな店?
そう言われて、俺は首を傾げ、
「ま、サフラン雑貨店だろうな」
「そうだ。そして、二番目に大きな店がお前の工房の前にあるフリーマーケットだ。そこには、うちからも武器を卸している」
へぇ、そうだったのか……確かに俺が作った武器や鎧以外のものも売っていた、そんな販売経路があったのか。
「そこには、ってことは、サフラン雑貨店には武器は卸していないのか?」
「ああ、あの店は独自の販売経路を持っていてな」
あぁ、そんな話聞いた覚えがある。
銅の剣とか鉄の剣とか、鋳造の量産品で大量生産をしているから安く売れるという。
その安さにはメイベルも驚いていた。でも、鋳造している剣は刃の部分が鋭利とはいえず、品質をウリにしているフリーマーケットとはコンセプトが異なると安心していたな。
「で、その話が何の関係が?」
「コーマ、お前、サフラン雑貨店に武器を卸してるだろ」
「……な、なんでそのことを!?」
俺は流石に驚愕した。
確かに、俺は武器を卸している。
これは誰にも言っていない。
メイベルにバレたら何を言われるかわからないから。
「それが問題になっている。鍛冶師ギルドがどれだけアプローチしても武器を卸させてもらえない店に、店長と個人的に付き合いのある君が抜け駆けして武器を卸したと言われて問題になっているんだ。もちろん、俺はそんなこと思っていないがな」
最後に、自分は他の人とは違うと言っているが、明らかにこいつも思っているな。
抜け駆けしたって。
「と言われてもな、俺もサフラン雑貨店に武器を卸すつもりはなかったんだが、前に借りをいくつか作っちまって、仕方なく3本短剣を卸しただけだぞ」
造るからにはそれなりにいい素材を揃えたが、でも、俺の作ったいまだに名前をつけていない斧はもちろん、スーとシーに渡した武器よりは質が落ちると思っている。
「そうなのか。まぁ、コーマがフリマにしか武器を卸していないのは俺達も知っていたが、その時からいろいろと言われていたんだよ。できれば、お前の口からギルドメンバーに説明してほしい」
と言われたところで、俺たちは鍛冶師ギルドの建物についたんだが。
「小さいな」
木造平屋の一階立て。
ま、俺の魔王城よりは広いが、フリマやサフラン雑貨店、冒険者ギルド本部なんかと比べるととても小さい。
「冒険者ギルドと比べるな」
ゼッケンは笑いながら言った。
まぁ、そうだよな。冒険者ギルドは、ある意味じゃこの町の顔とも言われている。多くの国に支部がある冒険者ギルドの本部でもあるから、むしろ小さすぎるという声もあるくらい。
ま、いくら鍛冶師が多い町といっても、何百人も鍛冶職人がいるわけないからな。
規模からしたらこの程度か。
「えっと、今日はギルドメンバーの会合があるんだったっけ?」
「ああ。だから、そこでお前のことについて話し合いたいと思ってる」
人を勝手に話題の中心人物にしないでほしい。
ま、とりあえず俺は抜け駆けするつもりもギルドに関わるつもりもないことを話して、帰ることにするか。
そう思い、引き戸の扉を開けた。
そして、そこで俺を待っていたのは、
「てめぇは! フリマの金魚の糞!」
「何しに来やがった、二階の工房主!」
「とっとと帰りやがれ、ロリコン鍛冶師!」
……あぁ、うん。帰っていいのなら帰るわ。




