紳士の嗜みポケットティッシュ
~前回のあらすじ~
これから薬草汁と戦うことになりました。
これまで鑑定眼にはお世話になってきた。最高ランクの鑑定スキルのためアイテムの説明まではっきりとわかり、使い道のないアイテムもなかった。
正直、アイテムマスターなど勝手に名乗っていたが、鑑定眼がなければ、銀鉱石と白金鉱石の区別はつかないと思う。
それにレア度や、内容に偏りはあるとはいえ説明文は役立ってきた。
とはいえ、今回は流石に納得できない。
腐り落ちる肉体――緑の粘液が通路に落ちたと思ったら、その粘液が動き出し、再びその体へと戻っていく。
薬草ドラゴン。
そう名付けようか。
よし、新たな魔物が現れた、こりゃ魔物学者も大変だぞ。
「コーマさん、何してるんですか!? 来ますよ!」
「いや、来るっていってもなぁ……(薬草汁相手だと思うとやる気も)」
と思った直後、ユーリが女の子を肩から下ろし、駆けだした。
黒色の髪が後ろに流れる。
腰からレイピアを抜き、薬草ドラゴンに高速の突きを連続でくりだした。
凄いな、北斗百〇拳みたいだ。あれなら、たかが薬草汁だしひとたまりも――いや、違う!
「ダメだ、その攻撃は効かない!」
「何を言ってるんです、見事に急所を捉え――」
ユーリの剣戟が止むと、薬草ドラゴンの体が膨張、爆発した。
「おぉ! さすがはギルドマスター」
「我等の出番はなかったな」
などと他の勇者候補は言っているが、
「走るぞ! クリス!」
「え、どうして?」
「奴は死んでいない!」
「え?」
俺たちが逃げ出すと同時に、破裂したはずの薬草ドラゴンの破片が囮役の勇者候補に襲い掛かった。
そして、その口の中に入っていき、
「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!」
「ふみゃぁぁぁぁぁっ!」
「ひぎぃぃぃぃぃぃっ!」
三人が悲鳴をあげて、泡をふいて倒れた。よく見ると、先ほど自分でつけた傷口が癒されている。
腐っても薬草、竜になっても薬草汁というわけか。
あと、毒の症状とかいってるが……あの症状、たちの悪い食あたりだろ。
毒消し草で治せないとか、さすがはルシル印の薬草汁だな。
「無事な奴は倒れた人の治療を! 囮は俺(と一緒にいるクリス)が引き受ける」
そう言って、俺はクリスの後を追った。
「あいつは実体を持っていない。剣なんかじゃ倒せない!」
「じゃあ、どうすればいい?」
俺の横を並走するようにユーリが走ってきた。背中には少女を相変わらず背負っている。
「とりあえず、俺とあんたは無事だ。怪我をしていないなら奴に襲われる心配はない」
「あぁ、そのようだな。では、危険なのはクリスティーナくんか……」
「そうだ。クリス! 広い場所まで逃げてくれ!」
「それでどうするんですか!?」
「そこでこいつを倒す!」
「わかりました! コーマさん!」
クリスは力の妙薬を飲み、速度をさらに上げる。
「何か方法はあるのか?」
「あぁ、あのやく……謎のドラゴンはさっきより小さくなっているだろ、怪我人をちりょ……襲うたびに小さくなるんだと思う」
「確かに言われてみれば。なら、このまま被害を拡大させればいいというのか?」
そんなことは言ってないだろ。
そんなことしたら、解毒ポーションが百本あっても足りない。
「人間以外を襲わせたらいいんだよ」
「人間以外を?」
薬草ドラゴンがばらばらになって俺達を追い抜いていく。
やはり、狙いはクリスか。
てか、クリス早すぎるだろ。
俺も力の妙薬を飲み、俺を追い抜いた薬草ドラゴンを追いかけた。
広い空間に出ると、戦闘はすでに始まっていた。
「クリス、大丈夫かっ!」
「狙ってくる場所がわかっているならかわせます!」
「そうか。じゃあ、俺の出番だな!」
そして、俺は大量の召喚石を床にばらまいた。
直後、召喚石から大量のリザードマンが現れる。
「これは――!」
「ユーリさん、リザードマンを攻撃してください、ただし殺さない程度に」
「なるほど、そういうことかっ! コーマくんといったね、ルルを頼む」
ユーリはルルという名であろう少女を下ろすと、彼女を俺に託し、剣を抜いた。
「殺さずに傷つけるとはいささか面倒ですが、まぁ可能でしょう」
ユーリが笑った。
その笑いは、いままで見せた笑顔ではない、まるで悪役のような邪悪な笑み。
こいつ、戦闘狂だな。
ユーリが飛ぶたびに、リザードマンの足が腕が、しっぽが斬られていく。
そのたびに薬草ドラゴンの肉体が飛び散り、リザードマンの口へと入っていく。
泡を吹いて倒れるリザードマン達。だが、倒れたリザードマンにさらに攻撃を加える。
さらに薬草ドラゴンの肉体がリザードマンに降り注ぐ。
なんて憐れな……薬草ドラゴンの、毒という名前の食あたりが死に直結するものではないのが、彼らにとっての不幸だな。
「……ん? ルル、鼻血出てるぞ。これを鼻につめておけ」
「…………(コクっ)」
彼女は黙って頷き、ティッシュを右の鼻につめた。
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ポケットティッシュ【雑貨】 レア:★
持ち運びに便利なティッシュ。
広告は入っていません。ハズレです。
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ちなみに、材料は木の枝。
そして、俺も視線をクリスへ移す。
「それにしても、あのドラゴンの粘液は本当に何でできてるんだろうなぁ」
ワザとらしいと思いながらも俺はそう言わざるをえない。
傷を回復する毒薬。
そして――
「おい、クリス、それ以上服が溶けたらR-18の領域だから勘弁してくれ。下着は死守しろよ!」
服を溶かすんだもんな。鎧を溶かさないだけマシか。流石に白金を溶かすような薬草汁なら飲んだ時点で死亡だな。
リザードマンの一体が俺めがけて攻撃をしてきたが、俺はそれをプラチナダガーで迎撃した。
「おい、コーマくん、殺したらダメだって言ったのは君じゃないか」
「俺をあんたたちみたいな勇者と一緒にしないでください。倒すので精いっぱいです」
今はまだ、と心の中で追加しておく。
俺の力も最初の4倍以上になったからな。
今のリザードマンで、動いている敵は最後になった。
全てのリザードマンが食中毒で倒れた今、俺とルルは安全だな。
勝負は今やクリスの下着を死守できるかどうかに変わっていた。
「ひゃぁぁぁぁぁ……助けてくださいよぉぉぉ」
「ほれ、反対の鼻からも鼻血出てるぞ」
「…………(コクリ)」
ルルにティッシュを渡す。
俺とルルは戦いという名の舞台を最前列のかぶりつき席で見物した。
こうして、勇者候補&勇者VS薬草汁の対決は、一部の勇者候補と大量のリザードマン、そしてクリスの辱めの犠牲を以って幕を閉じた。
彼女の頑張りによって、この物語はR-18指定を受けることがなくなった。
「もう……お嫁にいけません」
ただ……R-15指定は受けてもらおう。
溶けたスカートから見える白い下着を見て……自分の分のティッシュが余るだろうか?
※※※
最後の粘体がリザードマンの口の中に入っていくのを、別の迷宮の最下層で見ている僕がいた。
「あぁ、せっかく見つけた玩具……もう壊れちゃったな」
そこは迷宮の中だというのに光が届かない。
暗黒地帯と呼ばれ、何も見えない世界の中に僕は佇む。
何も見えないからこそ、何もかもが見える。
何もかもが見えるからこそ、何も見えない。
何も見えないから、僕には心がない。
そんなことをルシファーに言われたなぁ。
今となったら懐かしい思い出だけど。
思い出なんて感情、僕にはなかったっけ。
ははは。
乾いた笑いを吐きだしても、その笑いは誰にも聞こえない。
「でも、新しい玩具はもうすぐ手に入るからね」
~ポケットティッシュ~
出てきたアイテムを紹介するコーナーでしたが、今回新たに出てきたのが、このポケットティッシュ。
ポケットティッシュって、アイテム?
とか言うかもしれませんが、ゲームでポケットティッシュはゲームでも登場します。くじびきのハズレアイテムとして。
基本的に、売り専用アイテムです。
ファンタジー小説にはあまり出てきません。
ティッシュができたのは第一次世界大戦中ですから、中世ヨーロッパをイメージしているファンタジー小説には出したくても出せませんよね。
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ラスボスっぽい人物が出てきましたが、物語はまだまだ続きます。