永遠をともに生きる二人の炎
~前回のあらすじ~
土を食わせた。
1発で核を狙えるとは思っていない。
核の大きさもわからないのに狙い撃ちできるとは思えない。
ならば、根の上部を切り落とし、まずは核と木の本体を分離させる。
幹は切れなくても、根っこなら切り落とせる!
スパーンッ!
そんな擬音が相応しいくらい簡単に切り落とせた。
焼け口が焦げている。
そして、根っこの方から再生が始まろうとしている。
だが――
「そうはさせるか!」
俺はその根っこを蹴飛ばした。
根っこだけでも数トンはあるかと思われるが、力の神薬を飲み続けただけでなく、竜化もしている俺の蹴れない重量じゃない。
根っこがゆっくりと再生を始めているが、先ほどまでの比ではない。
「はっ、根っこだけじゃ再生力が弱いようだな」
俺は跳び、再度ユグドラシルの根を半分にする。
そして、半分になったほうの右側から再生しようと伸びていく。
ってことは、本体はそっちか!
俺は本体のない方を蹴飛ばし、その反動でさらに半分になった本体を斬りつけた。
再生力はさらに低下している。
樹の本体と繋がっていないと再生力が落ちているようだな。
土をスライムに食わせたのは、木の根を、エントの核のある本体を分離させるため。
「ぐぬぉぉぉぉ」
「お、声もだいぶ小さくなったな」
斬られた両断面から、触手のように根が生えてきた。それで攻撃するつもりなんだろうが、また忘れてるだろ。
俺は背中に生えた翼を羽ばたかせ落ちる速度を緩めた。
そこに――
「地獄の業火!」
エントの核のある根の部分を中心に、大爆発を起こした。
これで倒せたか――そう思ったが、根の表面が焦げた――いや、炭になっただけか。思ったより炎の耐性が強い。
炭になった部分を治療するための力は残っているのか、炭になった部分が元に戻っていく。
だが、それでだいたいの核の位置は把握できた。
「これでラスト一歩手前」
俺はエントの根をさらに叩き――大地に落ちたときには、エントの核があると思われる根は人の大きさと同じくらいになっていた。
そして、その根から生えた二本の小さな根で着地し――姿を変えた。
人の姿に――老人の姿になった。
【エント:HP8302/4020000】
見えた。
エントのHPが見えた。
もう虫の息ってところか。
「それがあんたの正体か――エント」
「ワシの正体はさっきの巨木――今はこうして力がなく人の姿をとることしかできん。まさか、ここまで追い詰められるとは――」
「なぁ、話してくれないか、なんであんたは人間を嫌い、人間を殺そうとしたのか?」
俺が訊ねると、エントは少し顔を歪めて――たぶん笑っていた。
「人間などどうでもよい。ワシが求めているのは、私が追い求めているのは、我が妻を追ってのものだ」
「妻?」
「もう終わったことだ。彼女ももう生きてはいまい。その程度わかっておる。じゃが、だからこそ我が妻を連れ去った人間が許せん!」
「このまま、おとなしく余生を送るつもりはないのか?」
「ない」
「そうか――」
俺は斧を構えた。
そして、次の瞬間、俺たちは交差した。
エントが――燃えていた。
【エント:HP0/4020000】
彼のHPは尽きた。
核を捉えたのか――。
エントの魂が消えていく。
それを見た。ルシルもそれを見ていたのか、俺の竜化は解除され、人の姿に戻っていた。
「これでよい――」
エントの声が聞こえた。
彼もおそらく――その死んだ妻の場所に行くことを望んでいたんだろう。
そう思った――その時だった。
俺の横を彼女が通り過ぎ、そして燃えるエントに抱き着いた。
「ドリーっ!?」
エントに抱きつくドリーに炎が燃え移る。
俺は彼女を救おうと前に出ようとするが、力が抜けた。
竜化第二段階の後遺症――まさか――ここまでとは。
「ごめんなさい、思い出したの! エントさん! 行くなら私も一緒に――あの時誓ったように永遠に一緒に!」
まさか、ドリーが……エントの妻!?
ドリーは泣きながらそう言って、炎に包まれていった。
涙を流すドリーを見て、一瞬、エントが笑ったような気がした。
炎は二人を燃やす。
二人を燃やした灰が夜の空へと消えていった。
そして俺は意識を失った。
※※※
「エントが死んだか」
僕はサイルマル王国の私室で笑った。
横ではベリーが不貞腐れている。
「けっ、つまらねぇ」
「そうかい? 僕にとっては最高の結果だよ」
そう言って、僕は卵を取り出す。
先ほど破裂した征服虫――だが、その征服虫は一つの卵を残していた。
そして、その中には――ユグドラシルの種があった。
2000年前に手に入れた時はエントが入っていて使い道がなかったけれど、今回の騒動のおかげでやっと不純物のないユグドラシルの種が手に入った。
「ま、利用価値はいろいろあるからね。それにしても、エントは最後に気付いたのかね? 自分を生き返らせるために全力を注いでいた女性が――彼の妻だって」
「はぁ? どういうことだそれ」
「僕は優しいからね。人間にさらわれた彼女を匿って封印してあげてたんだよ。そして、愛する夫を生き返らせるための手助けをしてあげたんだ」
ただし、姿を、エントが嫌う人間の姿にして、ね。
彼女ったら、エントを愛しているのに、エントを復活させることよりも元の姿に戻りたいことを優先していたな。こんな醜い姿を彼には見せられないって。
その心の隙をついて、征服虫を使ったら、いい具合に壊すことができたからね。
彼女が死んだことも僕は理解している。
二人はどうやって死んだのかな。
感動の再会をしながら死んでいったのか、それとも何も知らないまま絶望に死んでいったのか。
どっちでも僕はいいと思っている。
死んだら同じだから。
ただ、もし再会できたとしたら僕に感謝してもらわないとね。
例え2000年前、人間をそそのかして彼女を誘拐させたのが僕であったとしても……ね。
「で、ベリー。そろそろ機嫌直してくれないかな?」
「うるせぇ、もっと酒持ってこい! 今日はこの城の酒を飲みつくしてやる」
戦いの邪魔をされたことで不機嫌になっているベリーは、夜が更けても酒を飲み続けた。




