斧と拳と枝、エントとの激戦
~前回のあらすじ~
エントとの戦いが始まった。
エントはルシファーに倒され、ルシルによって封印された。
だから、ルシファーのことを恨んでいるのは当然かといえば当然なのだが。
でも、ルシファーの魔力は確かに俺の中にあるから、エントが俺のことをルシファーと思うのは無理ないことだ。
だが、ルシファーではないと知ってもらわないと、流石に怒りの矛先をこちらに集中させられるのはマズい。
『ん、ルシファーにしては魔力が小さいのぉ』
「そうだ、俺はルシファーなんかじゃない!」
『なら、お前は一体何者だ!』
すると、エントの身体に人の顔のようなものが浮かび上がる。
いままでは動く巨木だったが、こうなると、本当に木の化け物だ。
「よっしゃぁ、そこかぁぁぁっ!」
ベリアルが俺とエントの会話に割って入り、エントの顔に拳を振るった。
卑怯な気もするが、今まで攻撃しても手ごたえがなく、炎属性を付加されて攻撃手段を得たが、それでも手ごたえがない。
イライラしていたんだろう、ようやく弱点らしい弱点が現れたことに喜び攻撃した。
木の幹にクレーターのような穴が空く。
……拳でやったんだよな、あれ。弱点の斧というわけでもないのに。
『何をする小童がぁぁぁっ!』
だが、別の場所に顔が現れ、無数の枝がベリアルに襲い掛かる。
あまりもの数、そしてエントに近付きすぎたために枝にまとわりつかれ、ベリアルが捕まってしまう。
「舐めるな、ウドの大木野郎が! そんな力で俺様を押さえられると思うんじゃねぇ!」
ベリアルはそう叫び、枝を跳ね除け、
「百裂咆哮撃ぃぃぃぃっ! うるうあああぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なんか凄いスキルだと思ったが、ただ大声をあげて殴りまくっているだけに見える。
でも、凄いな、枝がみるみるうちに砕かれていく。
だが、
『舐めているのはお前のほうじゃ!』
砕かれた木々が順番に下の方から伸びていき、すぐに再生され、ベリアルに襲い掛かっていった。
奴がベリアルに集中しているうちに、俺は斧を持って突撃する。
力を籠めるために、俺も大声で叫んだ。
「喰らいやがれぇぇぇっ!」
腰に力を入れ、斧による強烈な一撃を放つ。
直後、炎の衝撃が飛んだ。
す……スゲぇぇぇ、自分で作っておいてなんだが、一気に幹の中心近くまで切り口が見えた。
これなら倒せるんじゃないか、そう思ったが――
『効かんと言ってるだろうがぁぁぁぁぁっ!』
足元の土から木の根っこが盛り上がり、俺を転倒させた。
しかも、切り口はもう塞がっている。
(やばっ)
エントの枝が俺に矛先を向けた。
避けられな――
「世界の炎!」
俺のすぐ傍から超巨大な火柱が上がる。
「うおぉ、凄いなぁぁっ!」
ベリアルもその炎を見て感嘆の声を上げた。
ああ、最高だぜ、俺の配下で、御主人様は。
後ろを見ると、ルシルはエースマナポーションを飲みながら、森の木々の陰へと逃げていた。
あぁ、隠れていてくれ。
だが、あの巨大な炎でさえ、エントの表面を焦がすだけに終わり、しかもその焦げ跡も、根元からみるみるうちに回復されていく。
……あれ?
何か一瞬見えた気がするが、なんだ?
※※※
「はぁ……やっぱりいない……」
私は予想していた事実を突きつけられて半ばあきれるように息を漏らした。
「ですから、クリス様。先ほども申したように、当宿には、コーマ様は今朝チェックアウトをなさってから一度もいらしておりません」
昨日、私と一緒に宿屋に訪れたのを覚えていた宿屋のオーナーさんは、今は誰もいない部屋に案内してくれました。
ですが、そこはまさにもぬけの殻。
誰もいません。
なら、コーマさんはどこに?
そんなの決まっています。
「また一人で戦ってるんですね……」
一角鯨と戦っていたときも、コーマさんは一人、アイランドタートルを治療して一角鯨を倒すという離れ業をやっていました。
他にも、コーマさんはいろいろと前科がありますから。
きっと一人で何かをしているんでしょう。
さっき、王城から出るコーマさんには、決意の表情がありました。
あの時のコーマさんの顔は、まるで……闇竜に戦いに行く決意をして家を出て行ったお父さんのまなざしに似ていて。
……正直、コーマさんを止めたかった。
でも、止めることはできなかった。
ならば、私ができることは――
「あの時お父さんを救えなかった私は、今度こそ――」
もちろん、コーマさんを助けたからといってお父さんが生き返るわけではないし、何より、お父さんを止められなかった贖罪にコーマさんを助けるなんて考えは勇者としては失格なのかもしれません。
でも――
「今度こそ、私は私のために戦う」
「え?」
「あ、すみません、ありがとうございました」
宿屋のオーナーさんが怪訝な顔でこちらを見ましたら、私は慌てて頭を下げ、目的の場所に向かいました。
コーマさんが用意した炎の剣を携えて、火の杖を持って。




