エント戦開始の火焔の杖
~前回のあらすじ~
エントと戦うために王城を出た。
転移先は森の中だった。
昼間でもうっすら暗かった森が、夕方になると怖いくらい暗い。
特に、ここはエントの影の位置だからもう夜と変わらない。
本当ならこっそり近付くために森の中を移動するのにはちょうどいいのだろう。
だが、さっきから凄い音が聞こえてくる。
轟音だ。
「コーマ、この音」
「あぁ、やっぱりベリアルだろうな」
戦ってるんだろうな。凄い音だ。
正直、大災害レベルの轟音だ。何も知らなかったら、ゴ○ラがこっちに迫っていて、その足音が近づいてくると言われても信じてしまうだろう。
それほどの音だ。
となれば、戦いに巻き込まれたときのことを考え、ここから竜化をしておきたい。
ルシルに頼む。
【竜化状態が第一段階になりました】
と同時に、竜化によるステータス上昇が告げられる。
ルシルの姿も成長した。
「……身体が大きくなったり、小さくなったりしてたら服が伸びるわ……」
ルシルは大きくなってきつくなった服を見て呟く。
「確かに、普段よりスカートも短くなってるな。けしからん」
「もう……緊張感ないんだから」
笑いながら俺達は言った。
確かに、本当に緊張感ないな。
「……じゃ、行くか」
「えぇ」
そして、俺は走る。
走りながら、アイテムバッグから、力の妙薬を取り出して飲む。
そして、左手に火焔の杖を握り、木の上に跳んで、エントを見る。
エントの前で飛び交う一つの影。
ライオンの鬣のような髪のシルエットが見える。
やっぱり、あいつが……ベリアルだったんだな。
木の下を見ると、ルシルが走っている。
よし、行くか。
俺は木から跳び、
「炎よっ!」
そう叫んだ。
火焔の杖から巨大な炎の球が生み出されエントの頂上部に向かって飛んでく。
俺の中の戦いの合図だ。
行くぜ!
炎がエントに衝突する。
……吹っ飛んだりしないんだな。
燃えてる様子もない。
だが、なんで、エントのHPやスキルが見えないんだ?
これだと、どれだけ攻撃が効いているかわからない。
「くそっ、もう一発! 炎よっ!」
火焔の杖から炎の球が出て、エントの幹に直撃する。
くそっ、一体、どれだけ効いているんだよ。
近付きながら、もう一発炎の球を浴びせる。
そして、俺は見た。
エントから伸びる枝がベリアルを襲っているが、ベリアルはそれを時には躱し、時には受け流し、木の枝に連打をくわえている。
でも、通常の攻撃ではダメージを与えることができないようだ。
衝撃音だけがあたりに響く。
よく見ると、周りの木々も薙ぎ倒されていた。
戦いによる衝撃だろう。
そして、その枝がベリアルに迫ろうとした。
「炎よっ!」
思わずそう叫んでいた。
炎の球がエントの枝に衝突し、枝の一部を焼き、残りを落とす。
だが、燃えた部分から即座に再生している。
「おい、なんだお前は!」
「ベリアルだな。奴は斧と火の攻撃しか効かない」
俺はそう言う。
「あぁん、斧と火の攻撃だぁ?」
「火炎剣」
そう魔法を唱える。
するとベリアルの拳に炎が巻き付いた。
「おっ?」
「それでエントにも攻撃できるはずだ」
「……ったく、勝手に手助けなんてする奴は本来はぶっ殺すんだが」
ベリアルは頭をかきながら、迫りくる枝を拳で焼き払う。
八方塞がりだったから許してくれるってことか。
「お前にはうまい酒と飯を食わせてもらったからな、今日のところは勘弁してやるぜ」
「――!?」
バレてる!? どうして――
「どうしてって顔してるが、声が同じじゃねぇか」
「……ちっ」
裸の王様ダガーが見えないからバカだと思っていたが、こんなに簡単に正体がばれるとは。
「これで貸し借りなしだぜ」
ベリアルはそう言って、エントへと単身突撃していった。
……貸し借り無しって、本来なら、貸し二つだろ。
とは思うが、ここでのベリアルの参戦は素直にありがたい。
これで勝率が大幅に上がるはずだ。
でも、わからないのが二つ。
エントのHPが全然見えない。そしてスキルも見えないのはここまで来ても変わらない。
そして、ベリアルは俺が火炎剣をかけてから枝を潰しまくっているが、すぐに再生する。
さっき炎が直撃したはずの木の幹の部分も同様に再生して、もう焦げ跡さえない。
何かが再生の手助けをしている?
そんなことを思っていると、俺にエントの枝が伸びて来て襲い掛かってきた。
「火炎球!」
火の魔法がエントの枝に直撃するが、爆炎の中から枝が伸びてくる。
くそっ、俺程度の魔法じゃ牽制にもならないか。
ならばと、アイテムバッグから斧を取り出した。
そして、迫りくる木の枝に垂直に斧を振り下ろす。
枝が真っ二つに割れた。
「はは、まるで裂けるチーズだ」
いきなり切り札を使ってみたが、これならいける。
これで一撃を――
「……ってうおっ!」
真っ二つに割れたはずの木の枝が即座に再生を始めた。
【壊せ!】
破壊衝動に波長を合わせて壊しているが、壊せないもんは壊せないんだよ!
一体、どうなってるんだよ。
『ぐっ……その魔力』
声が響いた。
その巨大な声に、俺は吹き飛ばされるのではないかという錯覚に陥る。
『その魔力……ルシファーか』
「あぁ、ルシファーだ!?」
木の枝を爆砕しながら、ベリアルが叫ぶ。お前は入ってこないでくれ。
ていうか、エント喋れるのかよ。
『ルシファぁぁぁぁぁぁっ!! お前のせいでワシはぁぁぁぁぁっ!』
あ、めっちゃ怒ってる。
これ、かなりやばいかもしれない。




