決戦前の索敵眼鏡
~前回のあらすじ~
メイベルはチョロインかもしれない。
メイベルから手作りサンドイッチを貰って軽い昼食とした。ちなみに、この手作りサンドイッチも店で販売しており、1BOX銅貨6枚らしい。
迷宮内でも気軽に食べられるというので冒険者にも好評らしく、一日100セット完売状態らしい。勇者試験が終わったら販売数を減らすそうだ。
食べ終わったころには時間になり、迷宮に向かった。
「コーマさん! こっちです、こっち!」
十階層への転移陣をくぐると、すでにクリスが待っていた。
「なんだ、もう集まってたのか。ほら、健康ジュース、飲め」
「健康ジュースなんて飲んでる場合じゃないですよ」
そう言いながら、彼女はぐいぐい力の神薬を口の中に流し込む。
結局飲むんじゃないか。
「で、ですね!」
「先に口を拭け」
「もう、話の腰を折らないでください!」
勢いよく飲み過ぎたため、口の周りが緑色になっているクリスにハンカチを差し出すと、彼女はそれを手に取って口の周りを急いで拭いた。
「で、落ち着いたら話せ」
「はい! それでですね!」
「まだ落ち着いてない。ほら、深呼吸」
「……はい……すぅぅ、はぁぁぁ、すぅぅぅ、はぁ……って、からかわないでください。」
流石にからかわれたのは気付いたようだ。
「魔物の毒に効く薬が用意されたみたいなんです。一体誰が用意してくれたのかわかりませんが、これで安心して戦えますね」
「参加者の人数とかは決まったのか?」
「はい、参加するのは私達を含め12組、魔物は90階層から100階層の間にいることが確認されています」
参加者の数は思ったより多くない。試験の採点基準になるとはいえ、風の騎士団等、強者がやられているからな。
討伐に参加していない勇者候補は、討伐参加者の気絶失格による漁夫の利を狙っているということか。
そういう奴らが合格したら嫌だなぁ。勇気があるのが勇者じゃなかったのかよ。
……そういう意味だけでいえば、クリスはどこまでも勇者なんだな。
「……クリス、お前に力の妙薬をもう一本渡しておくから、いざとなったら飲め」
「いいんですか?」
力の妙薬を手に取り、うれしそうに笑う。
あ、こいつが犬なら絶対に尻尾を振って喜んでいる、そんな笑顔だ。
「代金はお前の借金に上乗せしておく。銀貨50枚な」
「う、いざとなったら飲ませてもらいます」
複雑そうな表情で力の妙薬を見つめた。
こいつが健康ジュースと言われて毎日飲んでいる力の神薬の値段を言ったらどんな反応になるのか、かなり気になるところだ。
いや、詳しい値段は俺も知らないけど。
「よく集まってくれた、未来の勇者諸君! 君たちの勇気に敬意を持とう。君たちは今日、私の仲間になった!」
暫くして、冒険者ギルドのマスター、ユーリの演説が始まった。
いいことを言っていると思うんだが、女の子をおんぶしているのはかなりシュールだ。
「これより、我等は90階層に向かい、件の魔物を討伐する。何があるかわからないが、君たちの活躍は勇者試験の討伐ポイント、寄付ポイントの査定基準とさせてもらう。
さらに、ある商会の協力により、魔物が放つ毒への対抗手段として解毒ポーションが用意された。各勇者候補に一本支給する、ぜひ使ってもらいたい。返却は不要だ」
ギルド職員が勇者候補全員に解毒ポーションを配っていく。
一応、俺も一本持ってきているがこっちは使う必要がなさそうだな。
「では、ついてきたまえ、勇者諸君!」
「……ユーリ様、その女の子も連れて行くんですか?」
そう尋ねたのは斧を使っている若い獣人の女性だ。
賞金稼ぎのスー・シー姉妹の一人だ。スーなのかシーなのかは知らない。
「そうだ。何か問題があるかね?」
「い、いえ。ないです」
威圧感のある目で見つめられ、彼女は何もいえなくなった。
「ふふ、まだまだ未熟ですね。ユーリ様はいつも横に少女を従者として連れていくのは有名なことなんですよ」
「本当に冒険者オタクだな、お前は」
「いえいえ、一般常識です」
胸を張って言う。オタクというものは、自分たちの常識を一般常識として扱うことがある。自慢げに言われるとやはり腹が立つな。
……いや、あまり言うと自分に返ってくることになるからやめておこう。
俺も、「え? 開店6時間前に並ぶのは常識だぞ? 先着100名なら、前日から並ぶ猛者もいるくらいだからな」とか、コレクトアイテムを買い損ねた悪友に言ったことがある。
あいつも今の俺と同じ気持ちだったのかもな。
そして、俺たちは90階層へと行軍を開始した。
「……敵の気配はいまのところないな」
索敵眼鏡を装着した。
「そのメガネ、また使うんですか? 似合いませんよ?」
「気にしたら負けだ……」
正直、俺もこのメガネは、「ないな」と思うことが多々ある。
「そうだ、クリス付けてみたらどうだ? 普段地味な眼鏡女子が、眼鏡を外したらかわいかったってのは物語では王道だぞ」
「え? 私のことかわいいって思ってくれてるんですか? そんな、コーマさんいままでそんな素振り見せたことなかったのに」
「バカな子ほどかわいいっていうからな」
俺が言うと、クリスが「キーキー」と獣のように怒った。
周りもそうだ。敵の気配がないので緊張感がなくなっている。
時々出てくる魔物も、ユーリが真っ先に倒してしまい、俺達の出番は回ってこない。
このままだと時間だけが過ぎていくな。時は金なり、正直無駄な時間は好きではない。
「……ユーリさん、少しいいですか?」
「君はクリスティーナくんの従者だったね。何かね?」
お、さすがはギルドマスター。全員の顔を覚えてるのか。
俺の名前はさすがに憶えてないようだが。
「はい、クリスティーナの従者のコーマです。今回の討伐対象となる魔物は、弱っている人から襲うと聞きました。もしかしたら、血の匂いに敏感なのではないでしょうか?」
「なるほど……その可能性はある。つまり、囮を用意すればいいというんだね?」
「うちの勇者、クリスが最適かと」
「ちょ、コーマさん!」
クリスが非難めいた声を上げるが、
「非常に危険な役目だが、やってくれるかね、クリスティーナくん」
「ひゃ、ひゃい! 全身全霊をこめてやらせてもらいます!」
「敵が来たら力の妙薬を飲め。金はいらないからな。あれを飲めば脚力もあがる」
「わ、わかりました」
俺が耳打ちをすると、緊張したクリスが頷く。
「待ってください、ユーリ様、俺達も囮の役を引き受けさせてください」
「私もします」
すると、数人の勇者候補および従者が囮の役をかってでた。
俺達に活躍されておいしいところを持っていかれたくないのだろう。
「では、全員一斉に頼む。少し血を流すだけでいい」
そして、ユーリの合図で、全員が自分の皮膚に刃物の切っ先を当てる。
血がにじみ出た。
まぁ、これで敵が来るとは限らない。
しばらく歩き続けても、索敵眼鏡でも敵の気配はない。
「……どうやら来たようですね」
「え?」
相変わらず敵の気配はない。なのに――ユーリの言う通りそいつは通路の先から現れた。
緑のドラゴン……だが、その肉体は腐ったように零れ落ちた。
ドラゴンゾンビ……そう名付けたがったが、俺の目はそいつの正体を見抜いてしまった。
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薬草汁【料理】 レア:★
薬草を煮詰めた料理。その味から苦汁とも呼ばれる。癒しの効果がある。
ポーションの普及により、お目にかかる機会が少なくなった。
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(ルシルゥゥゥゥゥ! 全部お前の責任かぁぁぁぁ!)
この時ほど、自分の鑑定眼を信じたくない日はなかった。
ていうか、なんでこんなところまで薬草汁がきてるんだよ!
これより、勇者候補&勇者VS薬草汁の世紀の決戦がはじまる。
~眼鏡~
知力や命中があがる装備です。
アクセサリーに分類されますね。
レンズは紀元前にすでに作られていたのですが、眼鏡ができあがったのは13世紀と、レンズが作られてからだいぶ時が経過していますね。
物語においてはキャラ付けとして眼鏡をかけさせることがおおいです。
本を読む人は視力が悪い、だから本を読む人は眼鏡をかける、なんてイメージもありますが、視力はほとんど遺伝で決まるため、視力と読書好きの因果関係はないと思いますよ。
魔道具としても眼鏡はよく使われます。
透視能力のある眼鏡って、男の人には夢ですよね。
そのためか、透視眼鏡はオーソドックスです。
ドクタースランプや、ドラえもんにもそういう道具が登場していますから。
ファンタジー小説「魔法戦士リウイ」
そこに登場するアイラの眼鏡は、遠視・暗視・透視・邪眼の能力があります。
邪眼とは、視線だけで対象を呪い殺すという恐るべき効果です。
ただ見るだけといっても、多くの使い道のあるのが眼鏡。
ただのファッションアイテムと思ってみていたら痛い目にあいますね。




