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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode05 緑の牢獄

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何も知らなくてもわかること

~前回のあらすじ~

斧が完成した。

 一応、俺が炎の剣や、火炎爆弾、炎の杖などの武器をアイテムクリエイトで一通り作成した俺は、小さく息を漏らした。

 ……炎の剣とか昔RPGやっていたときは憧れたものだが。


 ちなみに、轟雷の杖の炎バージョンが、火焔の杖。

 5回しか使えないが、時間が経ったら使用回数が回復していく。


 赤と橙色のフォルムはやっぱり燃えるものがある。火の剣だけに。


「コーマ、その炎の剣と炎の杖はクリスに?」

「あぁ。俺が死んだ時のためだ。あいつは放っておいても突っ込むだろうからな」


 勝率を0%から1%……いや、0.01%、まさに万に一つにするくらいの効果しかないだろうが。

 俺はそう説明して、はっとなる。


「言っておくが、死のうだなんて思ってないぞ。本当にヤバかったら逃げる。ただ、今回は相手が相手だからな」

「……そうね。そうしたほうがいいと思うわ」


 ルシルが静かに肯定する。

 彼女もわかってるんだろうな、いろいろと。たぶん、俺以上に俺のことを見ているのだろう。

 俺は本当にヤバイと思ったら逃げるのか?

 もちろん、絶対に勝てない状況ならば逃げるだろう。逃げて準備を整える。

 だが、勝率が5割の状態なら? 3割の状態なら? わずかでも可能性があれば?

 俺はどうするのか、俺にもわからない。


「なぁ、ルシル……」

「何?」


 ルシルが尋ねる。

 俺はその後言おうとしたことを躊躇った。

 これは俺の欲だ。そして、初志貫徹とは言い難い欲望。


 だが、それを言わずに死ぬと俺は絶対に後悔する。


「あぁぁ、うぅぅうっ!」


 葛藤に葛藤を重ねた結果、俺は結局欲望に負けた。

 完膚なきまでに。


「一緒に戦ってほしい。俺と。お前の力を借りたい」


 それはルシルを命がけで守るという、俺が最初に持った、それでいて今も変わらない決意と相反するものだ。

 でも、今回の敵と戦うには、ルシルの力は必要だ。


「……わかったわ。その代わり、コーマ、約束して」

「あぁ、何があってもお前を守る」

「ううん、そうじゃない」


 ルシルは笑顔で言った。白い歯を見せて、目を細めて無邪気に笑って言った。


「絶対に勝つわよ! 私ってこう見えて、誰かと勝負して負けたことないの! 私が手伝う以上負けは許されないわ!」


 確かに、俺の知る限りルシルは勝負で負けたことはないよな。

 殺人料理大会でもチャンピオンだし。 


「当たり前だ! 絶対に勝つ!」


 そして、俺とルシルは魔王城に戻り、転移石を使って、ブックメーカーの部屋へと行った。

 タラとクリス、エリエールの姿はなかった。

 一度王城に戻ったのかもしれない。


「やあ、コウマくん、ルチミナちゃん」


 青毛褐色肌の爽やかイケメンのブックメーカーがそう声をかけた。

 ブックメーカー……か。


「あんたは何でも知ってるんだよな?」

「そうだね、僕は何でも知っている。そして、何も知らない。僕が知っていることは誰にでも言えるわけではない。それなら、何も知らないのと同じだよ」

「エントはなんで魔王になったんだ?」


 伝承によると、エントはもともとは森を守る防人だった。それが何故か魔王になった。

 その理由さえわかれば、もしかしたら戦わずに解決できるんじゃないか?

 そう思ったが――


「それは答えられない」


 ブックメーカーの答えはそれだけだった。


「なら、エントの弱点は何だ?」

「それはコウマ君が知っている通りだ。火と斧だよ」


 ブックメーカーは答えた。

 簡単に答えた。そう、俺が知っていることを。


「なら――」

「コウマ君が持っている斧はオリジナルの斧だね。名前はない。炎属性があるから安心していいよ」


 俺が作った斧について聞こうとしたら、先回りして答えを出した。


「私も聞きたいわ。私の料理を美味しくする方法ってある?」


 ルシルがそう尋ねた。


「それは答えられない」


 それは、答えられないんじゃなくて、そんな方法は存在しないんじゃないだろうか?

 ていうか、今はそんな質問してる場合じゃないだろ。


「あんたは未来がわかるのは本当なのか?」

「本当だよ。僕は過去も現在も未来も全てを知っている」

「ならば――信じているよ。あんたの見ている未来。そこに俺がいることを」


 俺はそう言ってルシルとともに転移陣をくぐり、リーリウム国の王城の地下へと移動した。

 螺旋階段を登っていると、ルシルが俺に尋ねてきた。


「聞かなくてもよかったの?」

「訊いても答えてくれないよ」


 ブックメーカーは、いまここにある武器の性能、そして俺が知っている事実は答えてくれる。

 だが、俺が知らないことは何も答えてくれない。


 未来については絶対に答えてくれないだろう。

 いや、答えられないのだろう。


 未来を知っているということは、彼にとって、いや、世界にとって未来は一つしかないということだ。

 それを知るということは、未来を変えることができるということだ。たった一つしかない未来を変えることができるということだ。

 それは矛盾でしかない。

 決まりだとか制約とかじゃない。彼は文字通り、答えられないのだろう。


「それに、例え負けるって言われたって、俺は負けられないからな。約束だろ」

「そうね。約束よ。私の不敗神話を守ってね、コーマ」

「魔王の娘なのに神話っておかしくないか?」


 俺はそんなバカなことを話しながら、階段を上がって行った。


 何も知らなくても、俺が勝つという事実はもうわかっている。

 だって、約束だからな。

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