レシピがなくても作れる可能性
~前回のあらすじ~
グラムが砕け散った。
粉々に砕けた魔剣グラムを見て、俺は吐息を漏らす。
それが安堵による吐息か、それとも絶望による嘆息かはルシルにはわからなかったのだろう。
「ね、どうなの?」
と尋ねてきた。
俺は微妙な顔をする。
実際はそのどちらでもなく、一つの作業が終わったことへの一区切りを意味する吐息だったから。
「このままだとまだわからない」
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竜殺石の欠片【素材】 レア:★×6
かつて竜を封印するために作られたという石の欠片。
石の欠片でも十分な魔力を持つ。
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さらにアイテムクリエイトを使う。
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竜殺石【素材】 レア:★×8
かつて竜を封印するために作られたという石。
これを使って作られた武器は竜に対して強い特性を持つ。
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石ができた。
そして、そこからレシピがいくつか追加される。
その中には……
「とりあえずグラムは作れるみたいだ……ただ……」
斧が作れない。
作れるのはグラムだけ。
斧はない。
「悪いな、協力してもらったのに」
まぁ、最悪の状況、武器が壊れてアイテムも元に戻らない、という事態は避けられただけよしとするか。
ここは、竜殺しの剣グラムに炎を纏わせて戦うしかないかな?
「ねぇ、本当に斧は作れないの?」
「レシピがないんじゃ無理だな」
「でも、素材はあるじゃない」
「素材はあっても、レシピがなくちゃアイテムクリエイトは使えないんだって」
「アイテムクリエイトがないと作れないの? って聞いているのよ」
そりゃ……作れない……なんてことはない。
作れる。
少なくとも鍛冶スキルで剣を作るときはレシピなんてなかった。
アイテムクリエイトに頼りすぎて気付かなかったが、作れないなんてことはないだろ。
ただ、この石を溶かすだけの火力が俺には用意できない。
ならば、やっぱり作れないのか?
その時、クリスから通信イヤリングが。
……竜化を解除し、通信イヤリングを手に取る。
『コーマさん、良いお知らせです! 炎属性の素材が見つかりました』
「マジかっ!」
『はい。国の親衛隊長さんが、ファイヤーサラマンダーの鱗を5枚ほど』
ファイヤーサラマンダー。
サラマンダーって火の精霊だっけか?
そんな鱗を持ってるのか。
『えっと待ってください、エリエールさんによるとファイヤーサラマンダーはコーラ地方の溶岩地帯に生息していた有尾類の一種だそうです』
精霊じゃなくて?
あぁ、そういえば、イモリやサンショウオなどを総称してサラマンダーと呼ばれるらしいな。
ただ、生息していた?
『すでに絶滅していて、その素材はとても希少だそうです』
「そんなの貰っていいのか?」
『ファイヤーサラマンダーに知り合いがいるから大丈夫だそうです』
……あれ? なんだ、今の矛盾は。
ファイヤーサラマンダーって絶滅したんだよな?
なんで知り合いなんだ?
よくわからない。
「わかった。今すぐ行く」
……一つの案が浮かんだ。
失敗するかもしれないけど、もうここまで来たらやってやるか。
俺は走って魔王城に戻り、転移石を握りしめ、そこに飛び込んだ。
ブックメーカーの部屋に到着する。
「クリス! あ……メイドさん……じゃなくて親衛隊長さんだっけ?」
「はい、申し遅れました。近衛隊長をしております、イシズと申します」
近衛隊長と親衛隊長の違いはよくわからない。
あと、近衛隊長がメイド服の理由もよくわからない。
三つ編みにハタキを持っているのはポリシーだろうか?
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仕込みハタキ【その他武器】 レア:★★★
ハタキの形をした仕込み刀。
暗殺の道具としても、掃除の道具としても使える。
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あぁ、普通に使える武器なんだね。
怖いわ。
暗器はスーがいろいろと持っていたが、これは別の怖さだわ。
「イシズさん、それでファイヤーサラマンダーの鱗というのは?」
「こちらです」
彼女が取り出したのは、黒い5枚の鱗だった。
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ファイヤーサラマンダーの鱗【素材】 レア:★★★★
ファイヤーサラマンダーのもつ赤い鱗。
火に対して強い耐性を持ち、また火の素材にもなる。
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本来サラマンダーは鱗を持たないそうだが、ファイヤーサラマンダーは爬虫類系魔物への進化途中の魔物らしく、鱗があるのだそうだ。
「色、黒いですけど、何か着色してるんですか?」
「ファイヤーサラマンダーの中でも、メラニスティック種と呼ばれる色の黒いファイヤーサラマンダーの鱗です」
なるほど。だから色が黒いのか。
「本人が言うには、スキルの効果により普通の鱗よりは硬いそうですよ」
「本人って、まるでファイヤーサラマンダーと直接話したみたいですね」
「はい、直接話しました」
イシズさんは真顔でそう告げた。
もしかして、彼女も友好の指輪を持ってるんじゃないか? と思ったが、そんなわけないよな。
とすれば、メルヘンチックな妄想の持ち主?
まさかサラマンダーが本当に人間の言葉を操ったとは思えないが、異世界だしそういうこともあるのかな?
まぁ、こっちとしては素材さえ手に入ったのなら、これ以上は深く追求する必要はない。
「そうだ、イシズさん、エントの様子は?」
「動きはありません……いえ、常に動き続けているというべきでしょうか」
「常に動き続けている?」
「信じられない話ですが、調査団を派遣したところ、たった一人の男がエント相手に大立ち回りを繰り広げているようです」
間違いない、ベリアルだ。
コメットちゃんやタラを傷つけたことは許せないが、今は普通に助かる。
でも、伝承が事実だとしたら、殴ってるだけじゃエントは倒せない。
少なくとも、あいつが持っているスキルには炎系のスキルはなかった。
ならば、できるのは時間稼ぎだけだな。
ならば、ベリアルが死ぬのを待つかとも思ったが、あの二人が常に同じ場所で戦うとは限らない。
戦いの舞台は絶対に移動を続けるはずだ。そうなったら、森や、下手したら町まで被害が出るかもしれない。
ならば、やっぱりこっちも時間をかけてられないか。
「イシズさん、これ、本当に助かります。後は任せてください」
俺はそう言って新たな転移石を取り出し、転移陣から魔王城に飛んだ。
そして、白紙の巻物とファイヤーサラマンダーの鱗から、
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火炎の巻物【巻物】 レア:★★★★
火炎の魔法書。使用することで火炎魔法を複数覚える。
修得魔法【火炎球】【火炎壁】【火炎剣】
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を作り出した。
俺が以前作ったアイテム。俺が初めて覚えた魔法のための書物。
そして、魔王城を出て旧魔王城跡に。
「ルシル! もう一度協力してくれ! お前の炎の魔法と俺の力で、最強の斧を作るぞ!」




