保証がある安心は笑顔をもたらす
~前回のあらすじ~
グラムから斧を作るという考えが浮かんだ。
「……また凄い事考えてるわね、コーマは」
転移陣を使って魔王城に移動した俺は、通信イヤリングでルシルを呼び戻した。
コメットちゃんとカリーヌは畑作業をしている。
今日くらいは休んでいいと言ったんだが、「コーマ様からお預かりしている大切な畑ですから」と言って出掛けた。
そして、俺とルシルは魔王城から少し離れた場所――旧魔王城跡地にいた。
何もない空間。そこで、ルシルに俺がしようとしていることを告げると、ルシルはそう言ったのだ。
「72財宝の竜殺しの剣グラム――魔剣グラムなら、確かに凄い斧が作れるとは思うけど、でも溶かすことなんてできるの?」
「いや、溶かすといったのは言葉の綾だ。たぶん、1000度や2000度じゃこいつは溶けないと思う」
「ならどうするの?」
当然そこに行きつく訳だ。
「凍らせる」
「…………え?」
ルシルが俺のことを「何言ってるの? 頭大丈夫?」という目で見てきた。
そんな目で見るな。
間違ったことは言っていない。
「ここに鉄の剣がある」
と言って、俺はアイテムバッグから鉄の剣を取り出す。
さらに、プラチナハンマーも取り出す。
そして、プラチナハンマーで鉄の剣を二つに砕く。
「鑑定によると、二つに割れても、アイテム図鑑だと鉄の剣は鉄の剣なんだ」
「そりゃそうでしょ。チョコレートは半分食べてもチョコレート……あ、そういうことね」
ルシルも気付いたようだ。
そう、俺が言いたいのはそういうことだ。
さらに鉄の剣を2回砕く。
すると、鉄の剣は、以下の通りになった。
……………………………………………………
鉄くず【素材】 レア:★
鉄の何かの残骸。ゴミ。
このままでは使えません。
……………………………………………………
アイテムクリエイトを使うことで、鉄くずが鉄インゴットに、そしてそこから鉄の斧を作る。
「とまぁ、こんな感じになる」
「なるほどね。で、何で凍らせるの?」
「金属って凍らせたら壊れやすくなるかな? って思ってさ」
そのイメージとなったのは、ここ、旧魔王城だ。
ルシルに……いや、ルチミナ・シフィルによって凍らされて、粉々に砕け散った魔王城。
あの力があれば、グラムであろうとも粉々に砕くことができるかもしれない。
それがなくても、ある程度凍らせることができれば、俺の力があれば砕けるかもしれない。
「……まぁ、間違いじゃないと思うけど、竜化するの?」
「あぁ、そのつもりだ。そうしないとルシルは魔法を使えないし、俺もこのグラムを砕くだけの力を出せないと思う。ただ、問題は――」
俺は自分の考えを告げた。
「それで強い斧を作れるという保証はないし、そもそも、グラムをもう一度作れるとは限らない」
「え? どうして?」
「さっき試したんだよ」
俺はそう言って、プラチナソードを出す。
これは、もともと雷の剣だった。
それを砕いたところ、プラチナの欠片になり、打ち直してもプラチナソードしかできなかった。
プラチナソードと雷鯰の髭を使って作った雷の剣なのに。
「つまり、グラムの素材が、この元となる素材だけなら作り直すことはできる。だけど、魔法を籠める素材を必要とするのなら、例えば竜を殺すための魔力を込めるのに別の素材を使っているとしたら、グラムには戻らない」
「じゃ、試すしかないわね」
「……これは72財宝だぞ? ルシルの力を元に戻すのに必要じゃないか!」
72財宝。全てを集めた者に大いなる力が与えられる。
俺はこの力を使ってルシルを元に戻したい。
そのために俺は勇者の従者にもなったし、魔王にもなった。
かなり無茶もしている。
「……別に、私は元の姿に戻ることにこだわっていないわよ。私がこだわっているのは、あの時から、コーマを元の世界に戻す方法を探すことだけ」
「それこそ俺はこだわっていない。いまさら元の世界に戻ったところで……な」
「だから、使っていいわよ。もともとコーマが見つけてきたものだし……それに、コーマなら作れるわよ」
「作れるかな、エントを殺せるような斧が」
「そうじゃないわ。エントを倒せる斧を作るのは最低条件よ」
最低条件か……なんとも厳しいことを言ってくるな。
でも、斧じゃなかったら、俺が作れるというのは何だ?
俺がそう尋ねる前に、ルシルは続けて言った。
「コーマなら72財宝くらい素材から集めて全部作れるわよ。それこそ私が保証するわ」
「それは頼もしい保証だ」
俺は笑った。
ルシルと話していると、うじうじと考えていた自分がバカバカしく思えてくる。
そうだな。いっちょやってみるか!
「じゃ、行くわよ! 封印解除!」
そう言って、ルシルが力を抜いた。
【竜化状態が第一段階になりました】
【破壊衝動制御率98%。ステータスが大幅上昇しました。一時的に炎魔法がレベル5まで上がりました。一時的に雷魔法がレベル5まで上がりました。一時的に水魔法がレベル5まで上がりました。一時的に光魔法がレベル5まで上がりました。一時的に雷炎レベルがレベル3まであがりました】
叡智さんの声が聞こえた。
《殺せ――――殺せ――――潰せ――――》
こっちの声も聞こえてきた。
破壊衝動が込みあがってくるが、このくらい問題ない。
全身を赤い鱗が覆っている。背中にも赤い鱗を覆った黒い翼が生える。
そして、力が膨れ上がる。
さらに、俺は力の妙薬を飲んだ。
さらに力が1.5倍になる。
そして――ルシルの姿を見る。
13歳くらいの見た目が15歳くらいまで成長している。
「前に言い損ねたが、美人度が上がったな。ガキっぽさが少しマシになった」
「前に言い損ねたけど、カッコいいわよ。お父様みたい」
「俺の方がカッコいいに決まってるだろ」
「それはないわ」
そう言って、俺達は笑いあった。
そして、ルシルに頼む。
凍らせてくれ、と。
「悠久の時を越えるためにその身の全てを停止する空間を創造せんがため、凍てつく大気をさらに凍てつかせ、呼び覚ますは氷の王。その眠りし力、いまこそ呼び覚ませ! 絶対零度!」
いつもより気合を入れて詠唱をしてくれたルシルの魔法が、竜殺しの剣グラムへと降りかかる。
その力は俺を封印したときの魔法の威力とは天と地ほどの差があるが、それでも凄い威力だ。
「言っておくけど、私の魔法でもエントは倒せないわよ。第一、火の魔法は覚えてないし、たぶん苦手だと思うから」
「わかってる。あいつを倒すのは俺の役目だ!」
そう言い、俺はハンマーを振り下ろした。
そしてかつてルシファーを殺し、コメットちゃんを殺し、そして今まで俺やタラの――いや、俺達の命を救ってくれた竜殺しの剣グラムは、粉々に砕け散った。




