ブックメーカーの書物
~前回のあらすじ~
エリエールはブックメーカーのなりそこないだった。
ブックメーカーのなりそこない。
エリエールはそう語った。
「ブックメーカーってなんなの?」
ルシルが訊ねると、エリエールは隠し扉の形状を調べ、それを閉じた。
クリスには聞かれたくない話ってことか。
「ブックメーカーとは、世界の編纂者。世界を記録する者です」
「世界を記録?」
「例えば、コーマ様も持っていらっしゃる鑑定スキル。鑑定レベルを上げるとそのアイテムの説明文が見えるのは御存知ですか?」
……エリエールは全てを知っているわけではないようだ。
少なくとも、これがブラフじゃなければ、彼女は俺の鑑定レベルが最大だということは知らないらしい。
「レベルが上がると説明文が見えるとは聞いたことがある……もしかして、その説明文が?」
「はい。説明文を書いているのも、ブックメーカーと呼ばれる人達によるものです」
確かに、多くのアイテムを見て、考えたことはあった。
これらのアイテムの説明文は誰が考えているんだ? と。
最初に思ったのは、プラチナリングを鑑定したときだった。
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プラチナリング【指輪】 レア:★★★★
白金で作られた指輪。強い魔法耐性を持つ。
婚約指輪として贈られたいです。
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これを見たとき、これは絶対に俺の視点ではありえないと思った。
これを見るまでは鑑定した結果の情報を俺にわかりやすいように変換しているんだと思ったが、この説明には人間らしさがあった。
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万能粘土【魔道具】 レア:★★
鉄と石の混合素材。少量の魔力を込めることで変形する。
夏休みの自由工作にぜひ使いたい一品だ。
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この説明文は子供、もしくは子供を持つ親のような説明。
さっきの説明がプロポーズ待ちの女性っぽいものだった。
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浄化石【素材】 レア:★★
水の中にいれておくと水をきれいにすることができる。
飲み込んでもあなたの汚れた心は浄化されません。
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ここで俺は喧嘩を売られた。
この時からだな。一体、このアイテムの説明は誰が考えているのか? と考えたのは。
それがブックメーカーだというのか。
「コーマ様たちは先ほど、ブックメーカーに会ったと思います。彼は12代目のブックメーカーです。まだブックメーカーになって3年目で、これから誰かに殺されるまで生き続けます」
「誰かに殺されるまで?」
「魔王は年を取りませんから」
エリエールは告げた。俺もそれはルシルから聞いていた。
でも、それ以外にも死ぬ可能性はあるだろう。
例えば、こんな辛気臭いところにずっと閉じ込められているんだ。
自殺をすることがあるんじゃないか?
あぁ、でも自殺は自分を殺すということだから、誰かに殺されるのに入るのかな。
「まぁ、彼が普通の魔王でしたら、自殺をするという可能性もあるのでしょうが、ブックメーカーに限って言えばそれはありませんから」
「なんでだ?」
「ブックメーカーはエピソード記憶のほぼ全てを失います。覚えていられるのはせいぜい十秒程度ですわね」
さっき、ブックメーカーとの会話が全く成り立っていなかったのはそのためか。
「ブックメーカーは全てを知るため、全てを知らなくなります。ただ、その時に知りたいことを知識として与えられます」
「誰に?」
「それは後で説明いたします。まずはわたくしについて話さないといけません」
エリエールはそう言って、一度嘆息し、俺を見つめて言った。
「わたくしは元々孤児でした。わたくしだけではありません、あそこにいたブックメーカーもまた孤児で、それぞれ身寄りもなく彷徨っていたところを先代のブックメーカーに拾われました。コーマ様、わたくしのことを軽蔑なさいました?」
「……え? なんで?」
「貴族のような振る舞いをしていますが、実はわたくしは勇者になったあとサフラン家の養女になったんです」
「いや、なんでそこでエリエールのことを軽蔑することになるんだよ。俺なんて魔王だぞ?」
「……よかった」
エリエールは胸をなでおろした。
いやいや、そんなのでエリエールを見下すと思われていたほうが驚きだけど。
「そして、わたくし達は情報の集め方をブックメーカーから教わりました」
「ブックメーカーってエピソード記憶を持てないんだよな? それでどうやって教わったんだ?」
「本を受け取りました。本を渡さないといけないと、彼は知っていたのでしょうね。苦労したのは文字を読む方でしたわ。孤児だった私も彼も文字は読めなかったので」
「文字ならそれこそブックメーカーに教えてもらえばいいじゃないか?」
「彼が教えてくれるのは、わたくし達が知っていることだけなんです。確信を事実に変えるだけしかできません。そう決まっていますわ」
エリエールは文字を学びながら、この世界の知識を身に付けて言ったそうだ。
そして、3年前。前ブックメーカーが死に、次代のブックメーカーを選定することになった。
その時に選ばれたのが今のブックメーカーであり、エリエールは家を追い出され、気付いたらラビスシティーにいたそうだ。
そして彼女は勇者試験を受け、ブックメーカー候補として培った知識で勇者試験に合格したそうだ。
「あの書庫がリーリウム国の地下と繋がっていたことは存じていました。だから、コーマ様をここに御案内しました。こちらへどうぞ」
エリエールは隠し扉を再び開ける。
「ねぇ、さっきから私のことは無視されてない?」
ルシルが横から声をかけるので、
「あぁ、大丈夫だろ」
と返答しておいた。でも、たぶん無視しているな。
無視しているというより眼中にない感じがする。
「あ、コーマさん!」
クリスは俺を見つけて声を上げた。
ていうか、今まで気付いていなかったのか。
「凄いですよ! お父さんが持っていた剣について書かれている本を見つけたんです」
「あぁ、凄いなぁ。じゃあ、次はエントについて書いている本を探してくれ」
「わかりました。任せてください!」
クリスはそう言って本棚から本を出していく。
タラも無言で頑張ってくれている。
「コーマ様、こちらです」
エリエールに案内された場所は小部屋だった。
小部屋の中には本が一冊だけ置かれていた。
真っ黒な本だ。
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生命の書【魔道具】 レア:72財宝
この書を守れ。この書を受け入れろ。
全てはそこから始まり、そこに終わる。
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……72財宝か。
だが、この説明はなんだ?
今まで見てきたすべてのアイテムの説明と異なる。
そうか、説明文は全てブックメーカーが作っているんだな。
だとすればこれは――次代のブックメーカーへのメッセージか。
「わたくしには鑑定能力はありませんし、これに触れることはできません。コーマ様、この本の名前はなんでしょう?」
「生命の書……そう書かれている」
俺が答えると、エリエールは「やはり」と呟いた。
「一体、なんなんだ、これは?」
「全知の書。アカシックレコード。世界の過去、現在、未来、全てがこれに記されていたと言われています」
「いた?」
「はい、今、ここに書かれていたものは全てブックメーカーの中に入っています。過去も現在も未来も、この書には空白しか書かれていません。空白も書かれていません」
「……なんで俺にこれを見せたんだ?」
その理由がまるでわからない。
「わたくしはブックメーカーにはなれませんでした。ですが、先代から渡された本に、わたくしがするべき使命が書かれていました。ある人をここに連れてくるようにと」
「それが俺なのか?」
「おそらく……いえ、間違いないでしょう。なぜならその本に書かれているある人とは、わたくしの……ろを奪った人だと」
「え? 奪った? 俺、何か盗んだ?」
「何でもありませんわ! それより、わたくしが話すべきことは以上です。では、エントについて書かれている本を探しましょう」
「あ、あぁ」
そうだよな。時間がないのは事実だ。
エントについての情報を探すのが一番だよな。
設定はあるのですが、ここが本編に関わるのはだいぶ先です。
いろいろとぼかしています、すみません。




