木の魔王の弱点を探せ
~前回のあらすじ~
クリス・ミート・コメットちゃん
思わぬ形でコメットちゃんとクリスとを対面させてしまった。
「あ……ええと」
コメットちゃんは冷や汗タラタラ流しながらどうしようかと悩んでいた。
俺も困っていた。
そうだ、この子はコメットちゃんではなく、他人の空似だとしよう。
獣人と人間の違いがあるんだ、似ているどころか同じ顔とはいえ本人ではないと言い切れば、そっちが正しい。
「あら、コメットさん、クリスさんと知り合いなのですの?」
って、しまったぁぁ、エリエールにはコメットちゃんが自ら名乗ってしまっていた。
顔も名前も一緒になってしまった。誤魔化すのが面倒だ。面倒すぎる。
「クリス!」
俺はもう最後の手段に出た。
つまり、全部正直にクリスにぶちまける。
大丈夫、クリス相手なら通じる。俺はクリスを信じてる。
だから、クリスにこう言った。
「話をするのが面倒だ!」
ぶっちゃけた。
「え? えぇぇぇっ!」
クリスは驚き絶叫していた。まぁ、彼女にとっては重要な事柄なのに、それを面倒と言い切ったんだからな。
でも、面倒なのは事実だし。
「ていうか、話をしている暇はないだろ! それより、今はエントを何とかしないといけない! わかるな」
「う……じゃあ、エントを倒したら説明してくださいね」
嫌だ。めんどくさい。
「クリスが覚えていたらな。まぁ、クリスのことだ、3歩歩いたら忘れるだろうが」
鳥頭だ。いや、鶏のほうが物覚えがいいんじゃないかと思ってしまう。
「……そんなに物忘れがひどくないですよ」
クリスが口を膨らませて怒る。まぁ、今まではそうだったな。
クリスは騙されやすいが物忘れがひどかったことはない。
だが――
「だって、俺達喧嘩してたんだぞ? それも忘れてるだろ」
「え? 喧嘩なんてしてましたっけ?」
……本当に忘れてるのか?
まぁ、喧嘩なんてしてる場合じゃないのは確かだから、忘れてもらってもいいんだが。
「エリエール、クリスと一緒にエントについてリーリウム国の書庫にいって調べてくれ。俺はもう一つ、情報を持ってそうなところに当たってみる。すぐに追いかけるから」
一応迷ったら困るので、タラに王城まで案内するように頼む。
大天使スライムのおかげで、タラの体力は全回復していた。
「わかりましたわ。タラさん、クリスさん、行きましょう」
「え? あ、はい……あ」
クリスはやはりコメットちゃんのことを気にしていたようだが、本当にそれどころではないので、エリエールと一緒に王城に向かった。
頼むから、全部終わったころにはコメットちゃんのことは忘れていてほしい。
それと、もう一つの可能性。
「ルシル、竜化したら勝てると思うか?」
「竜化して、力の妙薬を飲んでも無理だと思うわ。確かにコーマの力は神薬のおかげで強くなってるけど、根本的に魔力が足りないわ」
「……だよなぁ。ぶっちゃけ、あれを見たら一角鯨なんて可愛く思えてくる」
遠すぎるせいか、HPとMPの総量はわからないけど。
ただ、その気質は俺が今まで感じたどの気質よりも激しい。
「どうやってお前の親父さんはあのエントを倒したんだ?」
「お父様がエント以上に強かった。それだけじゃないかしら?」
……それだけ、か。
でも、そのルシファーも、七人の英雄によって殺されている。
それは何故か?
数の違いもそうだが、剣のおかげだろう。
アイテムBOXの中にしまっている竜殺しの剣グラム。
闇竜に変身したルシファーにとって、これ以上に手ごわい剣はないだろう。
なら……俺も弱点をつけばエントを倒せる……可能性が1%はあるんじゃないか?
もちろん、そんな都合よく弱点をつけるアイテムがあるとは思えない。
でも、存在しなくても作ってみるしかないだろう。
なんといったって、俺はアイテムマスターなんだから。
※※※
町に向かう前に、カリーヌとコメットちゃんには魔王城に戻ってもらった。
流石にカリーヌが町の中に入るとややこしくなる。
コメットちゃんに関しては、クリスが話をぶり返したら面倒だから、という理由がある。
コメットちゃんは少し渋っていたが、俺の帰る場所を守ってくれ、と言ったらわかってくれた。
俺達が城下町にたどり着いたときは、すでに街の中は混乱、とまではいかないまでも独特な雰囲気に包まれていた。
町からでもエントが立っているのが見える。最初に誰が気付いたのかは当然わからないが、一度誰かが気付けば、その話が町中に広がるのに時間はかからなかっただろう。
そして、エントが未だに立っているということは、少なくともベリアルはエントを倒せていないということだ。
「おい、おいおいおい、ちょうどいい、こっちだこっち」
「あ、八百屋のおっちゃん」
昨日の料理の時に世話になったおっちゃんが俺を手招きしていた。
聞きたいことはわかる。
「あの木のことか?」
「あぁ、あのバカでかい木はなんなんだ? 木の神様が降臨なさったのか?」
「それは調査中だ。ただ、勇者二人が既に調査に乗り出している。大丈夫、すぐに解決するさ」
俺はそう言い、
「これは事実だ。できることなら、今の話を町中に広げて、みんなを落ち着かせてほしい。大丈夫、俺もなんとかするから」
「……わかった。あんたが言うなら信用するよ。勇者ってのはクリスティーナ様だな」
八百屋の親父はそう言うと、「おおい、いい情報があるぞ」と人の多いところに向かっていった。
これで町もだいぶ落ち着いてくれたらいいが。
根本を解決しないとな。
俺は王城に向かう。
門番は俺を見ると、既に話を聞いていたのか中に案内してくれた。
ルシルと二人で中に入る。
そして、謁見の間に案内されると――そこはすでに血だまりができていた。
その血だまりの中に、リーリエが仰向けになって倒れていた。
「何が……まさか、誰かが襲撃を」
「いえ、そうではありません」
そう説明したのはメイドの女性だった。
「クリス様が、書庫に案内してほしいと仰られまして。しかもそれが禁書の置かれた書庫で、流石にリーリエ様も躊躇ったんですが」
「クリスが何か言ったのか?」
「見せてくれたらなんでもすると……そう仰ったら、リーリエ様が鼻血を出して倒れまして」
……一体、クリスに何をさせるつもりだったんだ、この百合女王は。
「リーリエ様はきっちり気を失う前に鍵を、王家の証をクリス様にお渡ししていましたのでご安心ください」
本当ならそんなに簡単に禁書を封印してある書庫への出入りは許されないのだが、謎の木が成長しているという知らせを受けていたのと、クリスから、エントが復活したことを聞かされ、メイドさんも許可をしたそうだ。
……メイドさんが許可しただけでOKなの?
「では、参りましょう」
「……彼女は放っておいていいの?」
ルシルが流石に見かねて言うと、メイドさんは、
「いいんです。自業自得ですし、本人は幸せそうですから」
それもそうだな。
そして、俺は謁見の間の奥にあるという書庫へと向かった。




