集結する戦士達
近くにあった大きめの木の上から、エントが成長していく様子を眺めていた。
想像よりも大きくなっていくその木。
世界の終わりか、それとも始まりか。
脳裏に浮かんだのは、あの種……ユグドラシルの種が大樹になったときに名付けられるであろうその名前。
ユグドラシル――もしくは世界樹。
だが、聖なる木なんてイメージはまるでなく、太陽をも覆い隠さんとするその木は邪悪なイメージしかない。
「……コーマさん、あの木は一体」
クリスがエントを見て、震える声で尋ねた。
この中で彼女はまったく事情を知らないから無理はない。
カリーヌもエントに関しては何も知らないんだが、ただ木を見上げていた。
「エント……古に封印された化け物らしい」
「化け物なんて生易しいものじゃないけどね」
ルシルが俺に引き継いで、説明する。説明にはなってないんだけど。
でも、それ以上に的確に奴のことを説明する文章はない。
「コーマお兄ちゃん、あっちにお姉ちゃんとお兄ちゃんの気配がするよ」
お姉ちゃんとお兄ちゃん?
コメットとタラか。
「たぶん、血を流してる」
「まさか、エントに……いや、ベリアルにやられたのか」
俺はルシルを抱え上げ、カリーヌを背中から抱き着かせ、木から飛び降りる。
「コーマさん、待ってください」
後ろからクリスが叫ぶが、待ってる暇なんてない。
カリーヌの指示に従い、走っていく。
背中にカリーヌの胸の感触がもろ伝わってくるが、それに歓喜する余裕すらないし、ルシルを抱きかかえている時にお尻に手が当たったが、それを思い出す暇もない。
なんて考えてしまうほど俺は慌てていた。
記憶に蘇るのは、人間だったときのコメットちゃんがゴーリキに殺されたという知らせを受け取ったときだ。
「大丈夫よ、コーマ」
俺に抱きかかえられながら、ルシルがそう言う。そうだよな、大丈夫だよな。タラもついているんだし。無事じゃないわけがない。
さらに走っていくと、倒れているコメットちゃんとタラ、そしてエリエールがいた。
「エリエールさん、二人は!」
「傷は塞ぎましたが、体力の消耗があり今は休ませておりますわ」
「一体、何があったんだ?」
少し離れたところを見ると、折れた木や砕けた岩があり、壮絶な戦いがあったことがうかがえる。
「暴虐の魔王ベリアルと戦っていましたの」
「ベリアルと……!? なんでそんな危険なことを」
「ベリアルの行き先がコーマ様のいる迷宮だったので、二人が時間稼ぎをと」
二人が、というがエリエールも手伝ってくれたんだろうな。
俺のために……か。
頼むから無茶をしないでくれよ。
「それより、コーマ様。あの巨大な木はなんなんですの?」
「あ……あぁ、エントっていう化け物なんだけどさ」
「……植物の魔王ですかっ!?」
エリエールが顔を青ざめさせた。
「知ってるのか?」
「え……えぇ、伝承として残っておりますわ。毒が効かないとか、岩をも砕く怪力の持ち主だとか」
毒が効かない、怪力の持ち主か。
それを聞きながら、俺はアイテムバッグから、大天使スライムを取り出した。
背中から大きな羽を生やした、天使のようなシルエットのスライムが、二人を治療してくれる。
「……コーマ様……ご無事ですか」
「コメットちゃん、頼むから無茶をしないでくれよ。タラもだ。心配したぞ」
俺がタラに言うと、タラは俯き、
「力が足りず、申し訳ありませぬ」
そう言って項垂れた。
「でも、よく助かったな。ベリアル相手に戦って」
「ベリアルはあの木を見て去って行きましたわ。エントと戦いに行ったのでは?」
ベリアルとエントか。
できることなら潰し合ってくれたらいいんだが。
それは楽天的かな。
今一番厄介なのはエントのほうだ。
「エント対策を練らないといけないんだが」
「エントは魔王になる前はこの国の森を守っていた精霊だったと聞きます。リーリウム国の禁書倉庫に行けば何か情報があるかもしれませんが、許可が簡単に出るかどうか」
「……女王の許可があれば入れるのか?」
「ええ。ですが、本来王家の者しか入ることが許されないもので、簡単に入れるとは思えませんが」
そんなに厳しい場所なのか。
簡単に入れるとは……
「コーマさーん! 置いていかないでくださいって言ってるじゃないですか」
「うん、簡単に入れるわ」
クリスがやってきた。
あのクリスべたぼれの女王相手なら楽々入れるな。
よし、じゃあクリスを連れて王城に戻って――
「え?」
「あ……」
あぁ、ややこしいことが起きた。
クリスが目が合ってしまった。コメットちゃんと。
「……コ、コメットちゃん!? え、死んだんじゃ、え、あれ!?」
今回はクリスは混乱しっぱなしだな。
でも、それ以上に俺の頭は混乱していた。
どうやってこの場を収拾したらいいのか。




