解毒ポーションあれば憂いなし
~前回のあらすじ~
ミノタウロスさんご愁傷様です。
多くの勇者候補が屯する冒険者ギルド内。
「レメリカさん、こんにちは」
「これは、クリスティーナさん。あとコーマさんもどうなさったのですか?」
うっ、レメリカさんからは、言葉遣いは丁寧だが、今は忙しいから話しかけるなオーラがぷんぷんと出ている。
「あの、風の騎士団にゴーリキさんといった実力は確かな人がそろって失格になっているんですが、何があったんですか?」
「戦闘不能による失格です。昨晩、魔物に襲われたそうです」
おそらく、何回も説明をしたんだろう。レメリカさんはげんなりした口調で告げた。
本当にお仕事お疲れ様です。
「魔物に!? そんなゴーリキさんは魔竜をも退けているんです。魔竜以上の魔物がいるんですか!?」
「目撃証言が錯綜していて、魔物の正体はつかめていません。わかっているのは、その魔物は身体を自由自在に変えられる巨大な緑の怪物であり、切っても切っても死なない。さらに、弱っている相手から攻撃をしてくる。毒攻撃をしてくる。
毒消し草は効かない毒みたいですね」
「毒……風の騎士団の皆さんも毒にやられたってことですか?」
「全員ではありませんが、医者によると3日はまともに動けないそうです。死に至る類のものではないそうです。あと、襲われた人間は毒の症状以外は全くの無傷だったそうです」
「全くの無傷?」
妙な話だと思うが、まぁ、毒ブレスなどを使う相手なら…………ありえるかな。
「あと、ギルドマスターが、勇者候補を集めて討伐隊を編成するそうです。そこでの活躍も、試験の得点となるので、ぜひ参加してください。詳しくは、試験開始時刻にギルドマスターより説明があります」
どうやら、冒険者ギルドにとっても今回の件は異常事態のようだ。
ただ、上位陣がこぞってやられるような魔物か。合格基準に達している俺達からしたら、討伐隊には参加せずに、20階層でミノタウロス召喚狩りを続けたいが……。
「私もぜひ参加させてください!」
だよな。頭は少しかわいそうだが、行動はザ・勇者のクリスにとっては参加しないことはありえないだろ。
となれば、俺は俺でやるべきことをやっておくか。
「じゃあ、クリス、少し別行動な。また12時に10階集合で」
「はい、私は魔物の情報を聞き込みしてきます」
さて。
俺はとりあえず、リュークさんの店。倉庫店へと向かった。
そこで薬草と毒消し草をワンセットにしてできるだけ買い集めた。
そして、自分の店へと戻る。
といっても、遠目でみたら、店内は多くの客でごった返していたので、裏口からこそっとだけど。
裏口の鍵は俺とメイベルしか持っていない。
俺が作った魔法鍵なので閉め忘れない限り泥棒に入られる心配はまずない。
そこで、水から蒸留水を作り、蒸留水と薬草でポーションを作った。
最後にポーションと毒消し草で、解毒ポーションを作る。
……………………………………………………
解毒ポーション【薬品】 レア:★★
解毒薬。毒消し草の成分を抽出し、ポーションの癒し効果を加えた。
毒々しい色をしているので、解毒ポーションの毒見役が欲しいです。
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紫色の液体の入った瓶が作られた。
ポーションの時も思ったが、瓶は一体どこから作られたのか?
まぁ、空き瓶もアイテムクリエイトの材料になるからいいんだけど。
「コーマ様、おかえりなさいませ」
「よぉ、メイベル、盛況のようだな」
「全てはコーマ様が用意したアイテムがいいからです」
「店はいいのか? 客がいっぱいいたようだが」
店員がいないと商品盗まれ放題な気がする。
性善説を利用した無人販売所なんて通用するのは日本だけだと思う。
「はい、コーマ様の許可をいただきましたので、奴隷を3人買いました。3人とも優秀な人間ですので」
「そうか、ならちょうどいい。メイベル、ギルドでちょっと騒ぎが起きていてな」
「謎の魔物に勇者候補が襲われた事件でしょうか?」
もう知っているのか。流石に情報が早いな。
残念なことに、彼女が知っていることは俺が知っていることと大差ない内容だった。
「この町で解毒は毒消し草が主流なのか?」
「主流というか、毒消し草しかないですね」
「なら、これをギルドに持って行ってくれないか?」
俺は、今作った解毒ポーションを30本、メイベルに渡す。
「解毒ポーション……ご主人様が……いえ、愚問でした。いくらで売ればいいのでしょう?」
俺が作ったのか? と尋ねたいんだろうが、それを聞く必要がないとメイベルは口を噤んだ。
いい子だ。
「値段は任せる。今苦しんでる人に対して有効かどうか検証してもらいたい。どうやら、俺が戦いに行くことになりそうなんでな」
「わかりました。では、知り合いのギルド員と同行して検証してきます。効果がない場合は買い取りされないかもしれませんが」
「金の問題はいい。できるだけ早く頼む。その間、売り物になりそうなものを知り合いから仕入れておくから」
本当は俺が渡してもいいんだが。あまり悪目立ちするのもよくないから。
この店のオーナーが俺だということはギルドの人間にはばれているんだが、他の勇者候補に知られたくない。
これだけの解毒ポーションを用意しているのだ、下手したら今回の事件の犯人は俺じゃないかと疑われるのは困る。
襲われたのは勇者候補の上位の人間だけで、その後すぐに俺達の順位が急浮上したからな。
それだけでもすでに十分目立っている。
メイベルは解毒ポーション30本を箱に詰めて去って行った。
さて、その間に、売り物になりそうなものを大量に作るか。
材料はいっぱい仕入れたからな。
おかげで、そろそろ金が尽きそうだ。
後でメイベルから銀貨30枚くらい貰っておこう。
メイベルが帰ってきた結果、解毒ポーションはとても有効だったそうだ。
入手元をギルドに聞かれたが、「お抱えの薬師が作った。レシピは極秘なので教えられない」と説明したそうだ。
ちなみに、解毒ポーションは銀貨1枚で売ったそうだ。ギルドに恩を売るための特別奉仕価格だと説明したらしい。
「ちょうどいいや、流石に俺も金がなくなってさ、その銀貨30枚、もらっていいか?」
「はい、かまいませんが……また白金の装備がいっぱい……」
だって、白金鉱石が入荷してたんだもん。俺が買いしめたせいか、値段が倍になっていたけど、全部買ったよ。
利益率1000倍以上だしな。
あと、銅の武器や防具、魔道具もいっぱい作った。
「これだけあれば……金貨何千枚になるか……」
「ま、後は任せるわ。給料設定とかも好きにしていいから」
「えっと、基本奴隷は生活費を除き、給料をいただかないんですが」
「メイベルだっておしゃれとかしたいし、デートだってしたいだろ? 若いうちに楽しまないとな。メイベルが店のために頑張ってくれるってのはわかってるんだから、アイテムの仕入先の秘密さえ守ってくれたらそのあたりは自由にしていいって」
俺はメイベルの頭を撫でながら言った。
「だって、メイベルはこんなにかわいいんだから、男が放っておかないだろ」
「かわ……」
メイベルの顔が赤くなり、
「コーマ様、誰にでもそのようなことを言ってるのですか?」
「可愛い店員がそれでやる気になってくれるのならいくらでも言うよ」
「……私はいつでもやる気満々です」
メイベルはそっぽを向いて、
「他の皆はよろこぶでしょうが、私はデートなどしている暇はありませんよ」
「そりゃ残念だ」
「もう、なんでコーマ様が残念がるんですか」
顔を真っ赤にして怒るメイベルに、俺は笑って応えた。
よし、メイベルの好感度確認はこのくらいにしておこうか。
ちなみに、一昨日の朝、俺にもしものことがあったら、メイベルを奴隷から解放して、この店のオーナーにしてもらうようにレメリカさんに頼んで手続きをしてもらった。
それでレメリカさんの好感度が少しでも上がるか? とか思ったが、「死んだあとのことを考えるくらいなら死なないことを考えなさい」と怒られた。
相変わらず手厳しいな。でもその通りだ。
俺が死んだら、クリスの剣の代金はこの店に振り込ませるように頼むことができなかった。
~状態異常回復薬~
状態異常には様々なものがあります。有名なものだけを列挙すると、
毒(猛毒)・麻痺・石化・沈黙(封印)・睡眠・火傷・凍結・暗闇・混乱・魅了・呪い・出血・スロウ・ステータス低下など。
一部のMMOでは、常に相手を状態異常状態にしてワンサイドゲームにする、いわゆるハメ技にも使われます。
状態異常になると、かなり困ったことになります。
モルボルの臭い息を嗅いだことのある人ならわかるはずですが、もう動けません。何もできません。
ソロプレイだと、状態異常回復アイテムを持っていても、それを使うことすらできない状態になることもあります。
今回、毒消し草と解毒ポーションの二種類の解毒薬が出てきましたが、ゲームだとすべての毒(イベント時を除く)が一番安い解毒アイテムで治療できます。
なのに、なぜか麻痺毒だけは別扱いになるとか。
状態異常の数だけそれを治療するための回復アイテムがあるといえますが、特定の敵と戦うことがわかっているのなら、状態異常にならないためのアイテムを使いたいですね。
なってからでは遅いんですから。
それは、ゲームだけではない、私達の日頃の健康も同じことが言えます。
生活習慣病にならないための予防薬は「あなたの健康への心構え」という名前だそうです。
ちなみに、私の状態異常は常に
【知力低下】です。
誰か、治療してください!




