轟雷の杖よ種を砕け
~前回のあらすじ~
コーマがドリーに攻撃を開始した。
雷を放つ瞬間、一瞬だが、クリスなら、あのバカ勇者ならこんな時でも最後までみんなを救う方法を考えるんじゃないか?
そんなことを思ってしまった。
俺が轟雷の杖で放った雷が、ドリーの手の中、ユグドラシルの種目掛けて飛んでいく。
もちろん、こんなものがユグドラシルの種に直撃したら、ドリーも無事では済まない。そのくらいはわかっている。
それでも――ここでエントを復活させるわけにはいかない。
翼竜をも一撃で倒すその雷撃は――だが彼女の周りに現れたバリアを前に霧散していた。
と同時に、俺はアイテムバッグから剣を取り出して抜いた。
右手で剣を、左手で杖を持つ。
魔剣グラム。
俺の切り札ともいえるその剣を抜き、そのバリアに斬りかかる。
全てを切り裂く72財宝の剣。
その剣がバリアに衝突すると、バリアが音を立てて砕け、穴が開く。
その穴の中に、俺は轟雷の杖を突っ込み、
「雷よっ!」
叫ぶ。近距離からの雷撃に――衝撃に、俺は後ろに飛ばされた。
痛みが左腕を始点とし、全身を駆け巡る。
「コーマ、その腕!」
「大丈夫だっ!」
近距離すぎて、その衝撃は杖を握っていた左手をその熱で焼いた。
雷耐性レベル8のスキルを持っていたのにこの痛み。
雷耐性のスキルがなかったら、気を失っていたかもしれない。
ただ、杖の使用回数は0回になった。そのまま杖を捨て、傷む左手でアイテムバッグから薬瓶を取り出し、口で蓋を開けて飲む。
アルティメットポーションの効力により、痛みとともに焼けただれた腕が元に戻った。
ただ、さっき一瞬だが見えた。
雷が、ユグドラシルの種を捉えていた。
しっかり捉えていた。
そして、その衝撃で、ドリーも無事では済まないだろう。例え直撃したのはユグドラシルの種であろうとも、それを持っていたのはドリーなのだから。
木々を焦がしたドリーを見る。
診察スキルによってそのHPを見る。
【ドリー:HP2/390 MP900/900】
よかった、まだ生きている。
かなり危なかったが、生きている。
魔力が高いので、雷耐性、もしくは魔法耐性が高かったのかもしれない。
「うっ……あ……」
悪い。今はまだ治療できない。
まずはユグドラシルの種の確認が先だ。
種はドリーの手から零れ落ち、地に転がっていた。
そして、その種には罅が入っていた。全体に広がるように。
その罅はさらに広がっていき、
「復活……する……よか……った」
え?
ドリーを見た。
【ドリー:HP2/390 MP0/900】
ドリーのMPが無くなっていた。
まさか、復活するのか?
最後に、ドリーのMPを全て使い……それだけで?
違う、もしかしたら――
俺の雷の魔法を吸収したのか?
そうじゃないと……ドリーが生きていることが説明できない。
雷耐性を持つ俺の腕を、その衝撃で焦がしたあの雷。
それを種越しとはいえ直接受けたドリーが無事な理由。
雷の力を吸収したのか。
種が割れ――そこから光の球が現れ、地に落ちた。
ぐっ、まだだ!
俺は剣を握りユグドラシルの種の中の光を潰そうとした――その時だった。
光の中から、根が飛び出してきた。
その根が俺の腹を薙いだ。
「コーマさん!」
クリスの声が聞こえた。
クリスとカリーヌが走ってきた。
あの様子だと、調査団は全員救出できたようだ。
その間にも木は成長していく。
根っこの一本が大きくなる。根っこ一本一本が巨木のように太くなる。
もはや、その大きさは剣一本で太刀打ちできるものではない。
同時に、天井から、壁から光が失われた。
この迷宮は、迷宮ではなくなった。
ドリーが魔王ではなくなった、ということか。
「ルシル、カリーヌ、クリス、逃げるぞ! ルシル、俺達を外に、どこでもいいから飛ばしてくれ!」
俺は魔力が空になった轟雷の杖を拾いながらそう叫んだ。
「わかった」
ルシルが魔石を握り、魔法を唱えた。
魔石が砕け散り、俺達を青い光が包み込む。
そして――俺たちは外へと飛んだ。
いや、逃げた。
巨大な敵から、ただただ逃げ出した。
※※※
エントが復活するのを俺達はただ見ていた。
おそらく、ここは迷宮から3キロほど離れた木の上なんだろう。
なぜなら、3キロほど向こうに――大きく成長していく巨大な樹が見えたから。
「コーマさん、あれ、なんなんですか?」
クリスが訊ねる。
「災厄……だな」
そう、俺は答えた。
あれがエント。
木の魔王……エント。
植物以外の、生きとし生けるもの全ての敵となる魔王。
かつてルシファーが倒し、ルシルが封印した存在。
それがいま、復活した。




