彼女が守る大事な種
~前回のあらすじ~
迷宮の奥で、木の少女と出会った。
緑色の髪の少女。この髪の色はメイベルを思い出すな。
大きくはないが、控えめというほどでもない胸に引き締まったウエスト。
何より、一番の問題は真正面から見える下腹部。
手足が縛られた状態でも着れる服か。
そういえば、前に作ったビキニタイプの水着を取り出し、それを樹の少女に付けた。
紐で止めるタイプなので、これなら問題ないのだが……俺がつけると真正面で見てしまうことになる。
「カリーヌ、これを彼女につけてくれ」
「お手間をかけます」
俺が恥ずかしそうにするから、彼女も少し恥ずかしそうに言った。
流石に目を完全に離すことはできない。
彼女に水着がつけられたのを確認すると、俺はゴホンと呼吸し、
「俺の名前はコーマ。一応、魔王だ」
「ルシルよ。コーマとは……ねぇ、私とコーマの関係ってどう表せばいいの?」
ルシルが困ったように言ってきた。
本来ならそんなのどうでもいいと言うべきなのだろうが、このあたりはきっちりさせておきたい。
「ルシルは俺の御主人様で、俺の配下だ」
「複雑なのですね」
木の魔王は考えるようにそう言い、
「私の名前はドリーだそうです」
そう名乗った。
ドリーか。その名に、俺は彼女の種族に対し、ある可能性を考えた。
「ドリアード……なのか?」
ドリアード。樹の精霊。美しい女性の姿をして現れる。
イメージ的にはいい人のイメージがあるが、正しい知識はわからない。
人魚にしても、いいイメージと悪いイメージの両方があるからな。日本での印象は関係ないかもしれない。
「ドリアード、すみません。ただ、私が知っていることは、私が魔王であること。そして、この種を守らないといけないということです」
「その種を?」
俺はその種を見つめた。
種というには大きい。サッカーボールくらいある大きさの種。
だが、その大きささえも、その種の正体を知れば小さく思える。
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ユグドラシルの種【素材】 レア度:72財宝
世界樹とも呼ばれるユグドラシルの種。
種にも多くの魔力が込められている。
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「ユグドラシルの種……72財宝か」
「え? ユグドラシル!? 72財宝!?」
ルシルが驚き言った。
死者の杯、魔剣グラム、友好の指輪。それともう一つ、手元にはないが在り処がわかっているあれ。
それに加え、5つ目の72財宝……か。
まさか、こんなところで見ることができるとは。
ただ、種の状態で、素材として72財宝なのか。
ユグドラシル……世界樹か。
ゲームの中だと、その葉は死者蘇生の力を持つものもあるが。
「もうすぐなんです。もうすぐ、この子の魔力が溜まるんです」
まるで、自分の子供を抱きかかえるように種を撫でる。
魔力が溜まる……?
「この子は、ここで3000年も、4000年も前からここで待っていたんです。魔力が溜まるのを」
「……ドリーも一緒に4000年も?」
俺はルシルを横目で見る。
2700年生きている魔王の娘もいるんだから、不思議ではないよな。
「いいえ。一週間前からです。一週間前、この子に呼ばれてここに来ました。この子に力を借りて、私は魔王になったの。魔王になってしまったの」
「魔王になってしまった。まるでなりたくなかったような言い方だな」
魔王になりたくないとしたら、簡単にこの迷宮を破棄してくれるんじゃないのか?
「魔王になんてなりたくなかった。魔王になったらみんなに狙われるから」
「……あぁ、忘れてた。そういえば、調査団……人間が――」
俺が言いかけたところで、クリスからの通信が入った。
通信イヤリングを取る。
『コーマさんですか! いました、調査団の人! 全員無事です! ただし、木の檻に入っていて、剣でも斬れないんです』
「あぁ、ちょっと待っててくれ、今、なんとかならないか頼んでみる」
『え? 頼むって誰にですか?』
俺は通信を一度切り、
「ドリー。悪いが、今、捕まってる人を全員連れて帰りたいんだが、いいか?」
「彼らは私を……私達を守る子たちに危害を加えたので捕らえました」
「あぁ、なるほどな」
とりあえず、俺はさっきルシルが作った転移魔法陣を敷く。
「ちょっと行ってくる。すぐに戻るから」
「え? コーマ、ちょっと」
そして、俺は持ち運び転移陣の中に入って行った。
気付けば、俺はラビスシティーにある、十階層へ通じる転移陣の上にいた。
転移石って便利だなぁ。
「コーマ様、帰ってこられてたんですか?」
そう声をかけてきたのは、緑のショートヘアの美少女エルフ、メイベルだった。
多くの商品を持っている。仕入れの最中だったのか?
「ん? おぉ、メイベル、久しぶり! ちょうどいい! この布を、魔法陣を上にして、倉庫に貼っておいてくれないか? できるだけ急いでくれ! 人助けだから!」
俺はそう言って、持ち運び転移陣を丸めてメイベルの荷物の上に乗せた。
「え? え? コーマ様!?」
「悪い、じゃあな!」
俺はそう言うと、再び転移陣の中に。
転移石を使って元の場所に戻れた。
「もう、何やってるのよ、コーマ」
「悪い悪い」
俺は笑いながら足元にある持ち運び転移陣を丸めてカリーヌに渡した。
「カリーヌ、これをさっき会ったクリスのところに持って行ってくれないか?」
「うん、わかったよ」
カリーヌはそう言って、持ち運び転移陣を持って行った。
……クリスの場所はわかるよな?
「とりあえず、あれを使って、調査団を遠くに飛ばすから」
「そんな、勝手に……」
「だって、ドリーは調査団の人間を殺すつもりなんてなかったんだろ?」
もし殺すつもりなら、食糧を与えたりしない。
違うか? と尋ねたら、彼女は何も答えなかった。
「なぁ、ドリー。俺と一緒に来ないか? こんな迷宮なんて捨ててさ。結構楽しいぞ。コメットちゃんとかタラとかとバカやって生きていかないか?」
「……ごめんなさい」
「なんでだよう」
俺が訊ねると、
「捕らわれているのは、私だから」
ドリーは言った。
「私はここから動くことができないから。ここは私の牢獄だから」




