木々の奥で待つ少女
~前回のあらすじ~
クリスを要らないと言い切った。
「あ、足手まといってなんでですかっ!」
クリスが激昂して叫んだ。
「第一、私が勇者ですよ! なんでコーマさんに足手まといなんて言われないと――」
「今回はクリスを守ってる余裕がない。自分の身を危険に晒してまで戦うというのなら、今回は邪魔だ」
「なんでですかっ! コーマさんは私より弱いじゃないですか」
「さっきの攻撃を見ただろ。それに、やばいと思ったら引き返す。調査団を見捨てても、魔王を退治できなくてもな。そもそも、ここに来たのはクリスを助けるためだ。会ったことも話したこともない調査団や魔王がどうなろうと俺の知ったことじゃない」
そして、俺はカリーヌの頭を撫でた。
カリーヌは気持ちよさそうに目を閉じて、「えへへ」と笑う。
このピリピリした空気を全然読んでいないな。
「ただ、助けを求められたんだからな、話してみようとは思う」
「話し合いなんて通じる相手じゃありませんよ!」
「話し合いが通じない相手なら、調査団の連中もすでに殺されているだろ。ならここに居る理由はもっとない。王宮に帰って報告するべきだろ」
「それは……」
「言っておくが、俺たちは英雄になりたいわけじゃないからな。勇者として認められるのはお前が勝手にしていろ。俺達は俺達がするべきことをする」
そう言ったところで、分かれ道になった。
索敵スキルによると、左の方向に敵の気配が多く、カリーヌが行こうとしているのも左か。
「クリス、帰らないのならここで別れよう。お前は右に行け。俺たちは左に行く」
「待ってください、魔王がいるのはこっちなんじゃないんですか?」
「魔王と調査団が同じ場所にいるとは限らないだろ。俺達の目的は何度も言うが魔王を倒すことじゃない。俺が魔王のところに到着する前にお前が調査団を見つけたら、俺達は戦うことなく目的を達成できる」
「……わかりました」
クリスは納得していない様子だが、それでも右の通路を進んでいった。
彼女を見送り、俺は嘆息を漏らした。
「彼女、似てるわね……私にも、コーマにも」
「あぁ、だから腹が立つんだろうな」
同族嫌悪だ。自分の身よりもルシルのことを一番に思う俺。父親の意志を継いで頑張るルシル。
彼女が言おうとしていることは、俺にもルシルにもわかり、そして、だから腹が立つ。
自分が間違っているとわかっているから。
ルシルは俺の死を望んでいないことなんてわかっているし、俺はルシルに、死んだルシファーのためなんかじゃなく自分のために生きてほしいと思っている。
できれば、クリスには父のためじゃなく、自分のために生きてほしい。
「酷いこと言ったよな。はぁ、あいつ、バカなのに落ち込んだら引きずるタイプだと思うからなぁ」
「仕方ないわよ。クリスが居たら困ったとき、竜化もできないし」
それがクリスと行動を別にした理由だ。
「それに、コーマの気持ちもたぶん理解してくれるわよ。だって、パートナーなんでしょ?」
そう言って、ルシルは俺に微笑みかけた。
本当にこいつは……普段はタタミの上でダラダラして甘いものを食べているのにこういう時だけしっかりしてるんだよ。
このままじゃルシルの魔力を完全に回復させても一生頭が上がらないぞ。
「ねぇ、コーマ。ベリアルは大丈夫なの?」
「一応、スライムの中に一匹、便利なスライムを混ぜておいた」
通信イヤリングとスライムの核を使うことで、変なスライムが出来上がる。
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ベルスライム【魔法生物】 レア:★★★★
遠く離れた仲間同士で音声を伝達するスライム。
耳がないけどしっかり聞こえています。
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入口にベルスライムを1匹、護衛用のスライム付きで配置させた。
誰かが来たら伝えるように言っている。
そのあたりは抜かりはない。
「なぁ、カリーヌ。木の魔王ってどんな奴だった?」
「綺麗な女の人だったよ」
女……か。つい、戦いにくいと思ってしまうな。
「あと、根っこが生えてた」
「根っこ?」
「うん、根っこ」
根っこ……植物系の魔王だから植物なのか。
花の妖精のような魔王……とか?
んー、完全な人間型じゃないのかもしれない。
マユさんがマーメイドであったように、一部が人間とか。
でも、それなら話ができるな。
無言の果樹が魔王です、とか言われたら話し合いをすることもできないからな。
ならば、女の人の姿をしているのは幸い、というべきか。
「コーマ、相手は女性の姿をしていても魔王なんだから油断しないでよね」
「わかってる。なぁ、何か対処法があると思うか?」
クリスが後ろからついてきていないことを確認して、俺は尋ねた。
「一番いいのはここの魔王にこの迷宮を破棄してもらうことね。魔力との繋がりを遮断するの」
「え? 待ってくれ、俺も迷宮と繋がりなんて持ってるのか?」
「コーマの場合は、コーマ自身というより、お父様の力のほうね。今でもあの迷宮はお父様の支配下だから、コーマの僅かに溢れる魔力で繋がっているの」
「……それで、迷宮を食っているってわけか」
自分自身で自覚がないというのが厄介だな。
まぁ、その僅かに溢れる魔力のおかげで、アイテムクリエイトの力を手に入れることができたわけだが。
「コーマお兄ちゃん、あそこだよ! おぉいっ!」
カリーヌが手を振って走っていく。
角を曲がったそこにあったのは、木々だった。
木々に覆われた部屋。入ることができない。
まるで木々の……緑の牢獄だと思った。
だが、カリーヌが木々の隙間に入っていくと、その木々は左右に分かれ、そして、彼女の姿が俺の目に飛び込んだ。
服を着ない裸の女性――手と足を樹に同化させた14歳くらいの少女。
その姿を見て、俺は思わず呟いた。
「手足がこんな状態じゃ、どうやって服を着せたらいいんだ?」
さすがにガン見がマズイのはわかっているが、相手が魔王なせいで、よそ見もできなかった。




