木材ばかり集まりそうな大迷宮
今回は短めです。すみません。
~前回のあらすじ~
なんとかクリスをごまかした。
「じゃあ、話も終わったし、とりあえずここから出るぞ。そうだ、ルシルの転送魔法で崖の上に戻れないか?」
俺が言うと、ルシルは「崖の上? 見てみないとわからないけど、たぶん戻れると思うわよ。魔石さえあれば」と言ってくれた。
よかった、流石はルシルだ。
早くこんなところからおさらばして、とっととラビスシティーに戻りたい。
ベリアルが来る前に。
「待ってください、この奥に人がいる可能性があります」
「人って……」
そういえば、クリスは言っていた。
もともと彼女がこの迷宮のある川、その上にある森の中に入って行ったのは行方不明の調査団を探すためだって言ってたな。
「調査団か。ここにいる確証はないだろ。それより、まずは自分たちの身の安全を先決にしないと――」
俺がクリスの目を見て言って――説得が無理だと悟った。
何故なら、彼女の目が、もう勇者の目になっていたから。
「あぁ、くそっ、クリス、頼むから言うことを聞いてくれ。借金全部なかったことにしてやる! だから帰るんだ!」
「ダメです、私は勇者として、調査団のみなさんを助ける依頼を受けました。その依頼を投げ出すことはできません」
あぁ、くそっ、こうなったらジュースとか言って、眠り薬を飲ませるか。
後で怒られるだろうが――仕方ないよな。
ぶっちゃけ、俺は会ったこともない調査団のために危険を冒すつもりは一ミリもない。
「コーマ、ここ、迷宮じゃないの?」
「ん? あぁ、迷宮らしい」
「そう、なら……奥まで行きましょ」
ルシルはそう言って、奥へと進もうとした。
「待て、ルシル! 危険だ」
「気になることがあるの。いざとなったらコーマが守ってね」
「……わかったよ」
ルシルはわがままだが、こういうところでわがままを言う女性じゃない。
何か理由があるんだろうな。
「……クリス、行くぞ」
「コーマさん、なんでルシルちゃんの言うことなら素直に聞くんですか」
クリスがふてくされていた。
まるで妹ばかり贔屓されることへの不満を爆発させたお姉ちゃんみたいだ。
まぁ、本当はルシルのほうが2000歳以上年上なんだよな。
「なんでだろうな」
説明したら長くなる。だからというわけでは当然ないが、説明する気はない。
「ルシル、言っておくが、危険と俺が判断したら問答無用で帰る。これだけは約束してくれ」
「わかったわ。このくらいは危険に入るの?」
ルシルが指さす方向には、さっき倒した木のモンスターがわらわらとやってきた。
これは――
「ルシル、本気で言ってるのか?」
「本気で言ってるわけないでしょ」
「当たり前だ。巨大な大木一本、木こりの人が切ろうとしたら10分はかかる、それが20本だぞ」
つまり、木こりさんが全部切り倒そうとしたら200分だ。
ましてや、俺は専門職じゃない。とすれば――
「俺なら10秒だ!」
そう言ってアイテムバッグから轟雷の杖を取り出し、
「雷よっ!」
そう叫んで振った。
直後、巨大な雷が直進し、木々を飲み込んだ。
魔石と木材が残った。
「魔石はルシルが持っていてくれ」
「わかったわ」
「あと、これ、ルシルが使ってくれ」
俺はそう言って、ルシルに光の巻物を渡した。
「あ、またできたんだ。読ませてもらうわね……あぁ、光なのね。本当は闇のほうがよかったんだけど」
ルシルは文句を言いながらも光の巻物を読んだ。
【天賦の魔法才能レベル10・氷魔法レベル10・転移魔法レベル10・回復魔法レベル10・封印魔法レベル10・氷封魔法レベル10・水魔法レベル10・雪魔法レベル10・光魔法レベル10・祝福魔法レベル10】
レベル10の魔法スキルが二つ増えたことにより、ルシルのMPが大きく上昇した。
【HP358/358・MP24/224】
そう、ここまではいい。だが――みるみる最大MPが下がっていき、
【HP358/358・MP24/26】
ここまで下がってしまう。
俺を封印していることによる副作用。
いや、副作用なんかじゃない。もはや呪いだ。
俺なんかを助けたことへの呪い。
ルシルは、またも「うん、少しよくなったんだけど、やっぱり光魔法ってあまりいいものじゃないわ。コーマ、今度は闇魔法を覚えたいわ」と我儘を言ってきた。
闇魔法か。すまん、月の雫があれば作れるらしいんだが、聖杯を作るのに使ってしまった、とは言えないよな。
あの時は魔法書の作り方を知らなかったから、後で知ったんだ。
「よし、行くか」
「あの……コーマさん、私のこと忘れてませんよね」
クリスが後ろで恨めしそうに言う。
「あぁ、クリス、まだいたんだ」
「いますよ! ていうか、なんでコーマさん一人で倒してるんですかっ!」
「そりゃ、俺は早く奥へ行って、とっとと帰りたいんだよ」
ベリアルが来る前に、とか、ルシルの正体がばれる前に、とか、コメットちゃんとタラが待っているから、とかいろいろ理由がある。
でも、本当にクリスのことを忘れていたな。
忘れないようにしないと……ってあれ?
「なぁ、クリス。一つ聞きたいんだが――」
「なんですか?」
「カリーヌ……どこにいった?」
「「え?」」
ルシルとクリス、二人があたりを見回す。
そして、俺も当然探すのだが――カリーヌの姿がどこにもなかった。




