黒い服の護衛に囲まれ国内散策
~前回のあらすじ~
鬣の男はベリアルでした。
「こんにちは……あれ? どうしたんですか?」
タラがベリアルの名を告げた時、マユさんが入ってきた。
顔には相変わらずウォータースライムが被せられている。
「いや、ごめん。今、ベリアルについての話を……」
「もしかして、一角鯨のことですか?」
「いや、違うけど。ていうか、なんで一角鯨?」
全く共通項が見当たらない。
「……一角鯨はベリアルの部下です」
言ったのは、タラだった。
え? 一角鯨が?
確かに、マユさんは他の魔王に攻められた、みたいな話をしていたけど。
「でも、ベリアルのHP見たけど、一角鯨のHPの1万分の1くらいしかなかったぞ」
確かに強そうではあるが、轟雷の杖一撃で倒せるんじゃないだろうか?
そう思ってしまう。
「……コーマ様の会ったベリアル様……いえ、ベリアルは人の姿をしていたんじゃないですか?」
あぁ、確かに人の姿を……ってそうか。
ルシファーや俺が力を解放した時に竜の姿になるように、マユさんの姿が本当はマーメイドであるように、あいつも本来の姿があるのか。
そして、その姿の時が……んー、想像したくないな。
「……実は、某は一度、蒼の迷宮でベリアルと会っているのです」
「なんだってっ!?」
そうか、あの時か。
魔剣グラムを持って姿をくらました日があった。
大怪我を負って帰ってきたときだ。
その時、ベリアルと会っていたのか。
「ベリアル……奴に一太刀でも与えることができれば、蒼の迷宮から身を引いてくれるよう頼み、勝負を行いました」
ベリアルは戦うことを何よりも好む魔王だとタラは言った。
だから、絶対にその挑発を受けると思っていたと。
そして、実際に勝負は行われた。
タラにとって命がけの、そしてベリアルにとって遊びの勝負が。
「それで、お前は勝ったのか?」
タラは首を横に振った。
「勝ったとはとてもではないが言えません。遊ばれていた。遊ばれ、主の持つ魔剣グラム――その剣の威力を自分の身体で確かめたくなった」
そして、ベリアルは笑って帰って行ったそうだ。
また遊ぼうぜと。
俺と会ったあいつは言っていた。
『前はうちで前飼ってたワンコを褒めたぞ?』
それが、奴にとっての最大の賛美だったんだろうな。
「……なんでベリアルはリーリウム国にいたんだと思う?」
「わかりませぬ。ベリアルは最強であり、最強であるがゆえに気まぐれ。何を考えているのか全く――」
まぁ、そうだよな。
俺も見る限り、あいつは何か考えて行動をするタイプじゃない気がする。
本当に気まぐれ。だからこそ怖い。
どこに発生するかわからない台風のような存在だと思う。
「タラ、コメットちゃん、前に渡した力の神薬はまだ残ってるよな?」
二人が頷く。二人にはもっと強くなってもらわないと。
もちろん、俺も。
そして、ルシルにも。
「ルシル、お前は何かベリアルについて知っているか?」
「知らないわよ」
「……本当に何も知らないのか?」
「本当に知らないわ。どうして?」
「いや……」
とはいうが、ベリアルか……偶然とは思えないんだよな。
ベリアルは、俺たちの世界の神話に存在する悪魔の名前だ。
堕天使であり、そして、俺達の世界の神話に登場する悪魔と同一であるとも言われている。
ルシファーとベリアル。二柱の堕天使であり悪魔はどちらも同じ名前で呼ばれる。
「みんなに聞きたい。こんな名前の魔王はいるか?」
ルシファー、ベリアル、二柱の悪魔と同一だと言われる悪魔の名前を告げた。
「サタン――サタンという魔王は存在するか?」
俺の問いに、全員が首を横に振った。
あ、うん、カリーヌが知らないのは知ってる。
いないのか。もしくは、みんなが知らないだけか。
ただ、偶然ということはないだろう。
ルシファー、ベリアル……彼らが存在すると言うことは、神話とこの世界が関係し――違う。
この世界の魔王の名前を基に、俺達の世界の神話は作られた。
ならば、存在するのか?
天界が。天使が。神が。
※※※
で、翌朝から、予定通り観光が始まったのだが。
落ち着かないな。
「コメットちゃん、タラ、あんまりくっつかれたら動きにくいんだけど」
「安心してください、コーマ様。ベリアルの臭いはしません」
「気も感じません」
うん、臭いを感じないのはわかるけど、気を感じるって、スカ○ターも持っていないのに、タラは一体どこのZ○士なんだ?
コメットちゃんとタラの厳重な警備の中、俺は町を歩いていた。
目立ちたくないと言う理由で、二人の依頼通り黒い服を作ったが、余計に目立っている。あと、視線を読まれたくないからとかいう理由でサングラスを作ったが、これも目立ちすぎ。
「あぁ……とりあえず、森に行こうか」
「流石は主。森のほうが余計な匂いがないですからな」
「でも、コーマ様、巻き込む人がいないからって戦わないでくださいね。もしもベリアルさ……ベリアルが襲ってきたら私達が時間を稼ぎますから、コーマ様は逃げてください」
「もし仮にそんなことになったら、持ち運び転移陣に逃げ込んで、向こうの持ち運び転移陣を燃やして消し炭にする、そう決めただろ」
ていうか、恥ずかしいんだよ。
一体、どこのVIPだ! と自分でツッコミを入れたくなるくらい恥ずかしい。
昨日、クリスの名前で祭りを開いてただでさえ悪目立ちしたからなぁ。
それにしても、クリスに昨日から連絡がない。
ベリアルに襲われた、とは思っていないが……それでも、無事だろうか?
いろんな意味で。




