初心を忘れて魔石利用
~前回のあらすじ~
ヒロインが薬草からドラゴンを作りました。
魔王城。という名の小屋。いや、現在は、小屋だったものと成り果てている。
瓦礫を撤去し、とりあえず、壁の間に鉄を挟み込み、強度を増すことにした。
アイテムクリエイトを使っても家を作ることはできない。
なんてことはない。
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万能粘土【魔道具】 レア:★★
鉄と石の混合素材。少量の魔力を込めることで変形する。
夏休みの自由工作にぜひ使いたい一品だ。
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瓦礫と鉄と魔石(低)から万能粘土を大量に作り、組み立てることで、魔王城再建は終了。わずか2時間の工程だった。ただし、大きさは前のまま。
それにしても、この世界の学校にも夏休みってあるんだな。自由工作まであるとは。
あと、どういうわけか魔道具は、使いやすいアイテムでもランクはあまり高くない。まぁ、ランクはレア度であって、便利度ではないのだが、少なくとも町の中では魔道具が一般家庭にまで普及している様子はなかった。
もしかしたら、アイテム図鑑が作られた時代は魔道具が今よりももっと普及していたのかもしれない。
「へぇ、じゃあ、勇者試験ってのを受けてるんだ」
「やっぱり反対か? お前の父さんって勇者に殺されたんだし」
「そのあたりは割り切ってるわよ。他の魔王迷宮に乗り込むのに勇者の従者にならないといけないっていうのなら仕方ないわ」
とはいえ、ルシルの親父を倒した張本人、つまり七英雄の一人がその勇者試験の責任者だと知ったら彼女はどう動くだろうか?
話すつもりはない。こいつの魔術の実力は信用しているし、あいつの弱点もすぐにわかったが、まともに戦えば勝ち目はない。
「それを聞いて安心したよ。土産持ってきたぞ」
「何!? チョコレート!?」
んなもんあるか。
「あ、これ、魔石じゃない! これで魔物を召喚できるわね」
本当はもっと渡す予定だったんだが、万能粘土を作るために魔石を使いすぎたからな。結局7個しか手元には残らなかった。
再建した魔王城の天井には裸電球が吊るされている。
ランプの燃料消費も考え、新たに作り直した。
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魔法照明【魔道具】 レア:★★
魔石を入れることで光を放つ。光の調節を、消・弱・中・強の四段階変更可能。
必要ないときは消にしましょう。その心がけがエコになります。
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その魔法照明に照らしながら、ルシルは魔石を眺めた。
「無駄遣いするなよ」
無邪気に喜ぶルシルに対し、まるでお小遣いをあげるお母さんみたいな心境だ。
魔石は、一般的にエネルギーとして使われるが、ルシルには別の使い道がある。
それは、従魔の召喚。
ルシルは理由あって体内魔力が極端に少ない。簡単な魔法を使うにも、魔法陣を使って迷宮内の魔力を使ってるほどだ。
だが、魔物を召喚して使役するには己の魔力を使わないといけない。
その補充用に使うのが魔石である。
ただ、魔石というのは、魔物が落とすしか手に入れる方法がないらしい。しかも、ルシルの迷宮は、3年前に彼女の父親が討伐されてから、迷宮全体が浄化されてしまい、魔物が自然に現れない状態になっているそうだ。
そのため、今では防衛機能も働かず、隠し扉の宝箱の下の階段を降りないと見つからないようにしている。
魔石を使わずともルシルの料理を魔物の代替にしてもいいような気がするが、ルシルの料理を制御する方法がないからな。
もしも料理を制御する術があったら、料理だけで世界征服が可能な気がする。
(いやだな、そんな世界)
グリーンサラダによって大隊が蒸発、コーンポタージュが血の海を作り出し、ミートスパゲティーとエビフライによって世界は征服されました、とか報道されるような世界にはなってほしくない。
「よし、ゴブリン隊集合!」
少し目を離したうちに、ゴブリン7体が魔王城の中にいた。
っておい、よりにもよってゴブリンか。
妖魔と呼ばれる種族の中でも最弱種のゴブリンだ。
「なんでゴブリンなんだよ」
「だって、畑作業って、ある程度知能のある魔物じゃないとできないでしょ?」
「……そりゃそうだけど、俺達の目標は何だ?」
「もちろん、小麦の収穫! そして今度こそパンを作ってみせるわ!」
「作るなっ!」
それがどんな結果をもたらしたのか、忘れたとは言わさないぞ!
「そしてお前の目的は72財宝を集めて親父さんを超える真の魔王になることだろ!」
「…………?」
ルシルは首を傾げ、
「あぁ、あったわね、そんな目標」
思い出したようにポンっと手を叩く。
「忘れるなっ! 初心忘るべからずとは言うが、最終目標は絶対に忘れるなっ!」
俺が念を押すと、ルシルは少し悔しそうに「わかったわよ」と頷く。
本当に忘れていたのか、こいつ。
すると、ルシルは「う~ん」と何やら考え込み、バカはバカなりに必死に考え、
「……あれ? 72財宝を集めるのに、小麦畑もゴブリンも必要ないじゃない!」
「当たり前だ。あれは俺の食糧として作ってるんだからな」
くそっ、クリスといい、ルシルといい、なんでこう、考えなしなんだ。
名前の響きも[-u][-i][-u]だから似てるし。
まぁ、今更クリスティーナとか、ルチミナ・シフィルとか長い名前で呼ぶつもりはないけど。
「でもまぁ、労働員の充足は必要か」
俺は扉を出ると、小麦畑が見えた。
迷宮内の土壌は条件がいいため、だいぶ育っている。
勇者試験が終わるころには収穫できるんじゃないか?
迷宮農法とか言って、普及できないだろうか?
「グーとタラ、すぐに来てくれ」
二匹を呼ぶと、二足歩行の、服を着た犬顔の魔物がこちらにやってきて、敬礼をした。
二匹のコボルトは魔王である俺の配下ということになっている。一応、ルシルも俺の配下なんだけどな、敬礼なんてされたことない。
コボルトという魔物で、ゴブリンと同じく最弱種のひとつである。
名前とは違い、よく働いてくれる。
「ゴブリンと分けて食べてくれ」
そういい、俺は籠の中から、生肉や果物、パンなどを出した。
それをコボルトはじっと見つめる。
あぁ、そうか。
「よしっ!」
そう言うや否や、グーとタラは生肉を手に取り、かぶりついた。
そうかそうか、肉が好きなのか。今度いっぱい買ってきてやるからな。
暫くすると、グーが残った生肉を俺に持ってきた。俺の分と思ったのだろう。
俺はグーの頭を優しく撫で、
「これはお前の分だ。食べていいんだぞ」
そう言うと、グーは俺のほっぺを舐め、肉を食べに戻った。
はは、頬に肉のカスがついてる。
「ねぇ、コーマ、私の分の食べ物は?」
「お前の分はねぇよ!」
食べたいならせめて働け。
そのあと、ゴブリンと仲良く果物を分け合うコボルトを見て、この畑は彼らに任せたほうがいいと判断。
そして、地上に戻り、宿屋に向かう。
武器の手入れくらいしてやるか? そう思ったらすでにクリスは熟睡していた。
まぁ、彼女にも頑張ってもらったからな。
だが、あろうことか、ベッド二つを引っ付けて、占領するように寝ていた。
そりゃ、戻らないと言ったけどさ、その寝方はないだろ。
あと、せめて鍵はかけておけ。
そう思い、扉を閉じようとした、その時――
「コーマしゃん」
ドキッとしたが、どうやら寝言のようだ。
「それ、私のドリアですよぉぉ」
どうやら、夢の中の俺はクリスのドリアを横取りしたらしい。
ひどい話だ、現実では俺のドリアを物欲しそうな目で見続けていたのはクリスだろうが。
あげなかったけど。
仕方なく、夜の町へ。
と、あと、メイベルのところにもいくか。
売上とかも聞いておかないとな。
と思ったが、もう夜中の1時だ。寝ているだろう。
町は夜の帳も降り、酒場以外は静かなものだ。リュークの店という名の倉庫も既に閉店しているようで、俺の店も同じだ。
だが、灯りが漏れている。
「コーマ様、お帰りなさいませ。いま、在庫の整理と明日以降の仕入れの確認をしていたんです。
今日の売り上げについてお聞きになりますか?」
「メイベルゥゥゥ!」
俺は思わずメイベルに抱き着いた。
「お前だけだ、俺の周りの女で癒しになるのは。偉いな、本当に偉い」
「え、コーマ様、どうなさったのですか? コーマ様」
すまない、しばらくこのままでいさせてほしい。
心の底から彼女に感謝をこめて、俺はメイベルを抱きしめた。
「自立した女性のことを今日ほど素晴らしいと思ったことはない」
「あの、自立できなかったから借金奴隷になったんですけど」
メイベルが困ったようにつぶやいた。
~食べ物アイテム~
食べ物は、空腹ゲージのあるゲームではそのゲージが満たされますが、空腹ゲージのないゲームでは、HPやMPが回復したり、ステータス補正があったりします。ごはんでHP回復。甘いものでMP回復。
というのが基本のようです。
食べ物に関しては、メタルギアソリッドというゲームが面白いです。
本当になんでも食べますからね。ツチノコを食べるのはどうかと思いますが。
そして、食べ物を食べたときの反応なんかも見られるのが楽しいです。
あと、食べ物アイテムは時間経過で変化することがあります。
とあるゲームでは、
牛乳→すっぱいミルク→ヨーグルト
牛乳を放っておいただけで、ヨーグルトができあがるとは。流石は異世界。
お腹を壊すどころか回復量が増えますしね。
ゲームの主人公に求められるのは、食べるべきではないものを食べられること、そう思いましょう。
1UPキノコそっくりのキノコを見つけて、迷わず食べられるあなた、そう、あなたです。ゲームの主人公に一歩近づきましたね。
ですが、現実世界では社会不適合者かもしれないので、はやく異世界に召喚されるといいです。