白い花は愛情の証
~前回のあらすじ~
クリスと結婚はしません。
おいおい、どこの誰だよ、俺様の可愛い部下たちをこんなにしたのは。
俺様の部下の狼共の気配が消えたから見に来てやったら、周囲の木々が薙ぎ払われ、瓦礫の山だけがあった。
『ベリーはこういう時、面白そうな顔をするよね』
グリューエルに前に言われたことを思い出す。あ、グリューエルは前の名前か。今は……サ……サマイ? あぁ、めんどくせぇ。やっぱりグリューエルでいいだろ。
あぁ、面白いよ。俺様の部下を殺すのは誰でもできることとはいえ、ここまでするなんて、どこか頭の切れたバカにしかできない。
同じ頭の切れた俺様が言うんだから間違いない。
もしかして、例の魔王の仕業か? それとも他の誰かか?
どっちにしろおもしれぇなぁ。
ん?
こっちに何かが近付いて、
「ん? おぉ、ワンコウじゃないか、生きてたのか」
全滅したと思った俺様の部下のロアーウルフだが、一匹生きていたようだ。
よろけながらも、俺様のところに近付いてくる。
これで、何があったか詳しい状況を聞く――
「のもいいけど、やっぱり殺すか」
そう言って、俺様の拳はロアーウルフの脳天を貫いた。
ったく、負け犬は素直に死んでやがれ。
手に付いた血が消え、狼の牙のみが残る。
俺様はその牙を踏みつぶした。
そして、目の前の瓦礫を見る。
これだけのことをやってのけるバカだ。歩いていけば何れかち合うだろう。
にしても邪魔だなぁ。
俺様は瓦礫の山に向けて拳を放った。
「うっし、すっきりしたぁ」
平地になった道を見て、俺は笑顔で進んだ。
確か、この先に人間の町があったよな?
そこで会えるといいな、俺様みたいな戦闘馬鹿野郎と。
※※※
とりあえず、俺はタキシード、クリスはドレス姿になって、王城に向かった。
ちなみに、これらは前もってギルドに用意してもらったものだ。
「ドレスって慣れませんね」
「あぁ、俺もまるで執事になったみたいだ」
蝶ネクタイなんてすることになるとは思ってなかった。
魔道具で、声を変換する道具とか作れないかな?
蝶ネクタイの形の変声機とか作ったら、どこかの誰かに怒られそうだな。
でも、まぁ黒のタキシードでよかったよ。
これが青のタキシードで赤い蝶ネクタイなら、それだけでアウトだ。
黒いタキシードと黒い蝶ネクタイでよかったよ。
魔王でも執事です。
うん、ギリギリセーフだ。
森の中の城下町だが、町の中は石造りの建物が意外と多い。
近くに良質の採石場と石切場でもあるんだろうか?
王城も石造りで、西洋風の城というよりは、堀に囲まれた西洋風の砦といった感じだ。
門の上にはこの国の国旗なのだろう、白い花の描かれた旗が掛けられている。
そういえば、同じ花があちこちに咲いていたなぁ。堀の周りにも咲いている。
「すみません、冒険者ギルド本部の使いの者です。女王陛下に謁見の希望で伺いました」
クリスがそう言い、勇気の印を見せる。
「勇気の印……本物のようだな。ただし、本日は女王陛下は火急の用事で誰とも謁見できない。出直してくれ」
門前払い……勇者特権も王城では通じないのか。
「……明日なら会えるでしょうか?」
「わからない。宿名を教えてもらえたら、謁見の許可ができ次第、使いの者を送ろう」
うん、このあたりは勇者特権といったところか。
仕方ない、出直すか。
「じゃあ、クリス、行こうか……どうした?」
「はぁ……仕方ありません。女王陛下に伝言をお願いします」
「だから、女王陛下は今日は誰の話を聞いてる暇も――」
「クリスティーナが来たと」
「ないと……クリスティーナ様……あ……あなたがあの! わ、わかりました! 少々お待ち下さい!」
門番の男は顔色を変え、まるで怪獣に追われてる一般市民のように城の中に入って行った。
おおい、職務放棄するなよ。
でも、あの驚き様は半端なかったな。
「クリス、一体、この国で何をしたんだ?」
「……ええと、この国の王子を罠に嵌めて島送りにして、リーリエさんに王位を継承させたんです」
「……お前が?」
「実行犯は私ってことになってますが、主にサイモンさんとリーリエさんが意気揚々と」
あぁ、そうか。またクリス、サイモンに利用されたのか。
いつも通りだな。
具体的に話を聞くと、クリスとサイモンという男は、二人で山賊退治を行った。
で、実はその山賊は、リーリエ王女を誘拐する予定だった。
この国は古来より、王女と王子が生まれた場合、王女に王位継承権が与えられる決まりになっていた。
で、二人の兄がそれを快く思わなくて、山賊を使って王女を誘拐する予定だった、というのを知ったサイモンは、山賊のフリをして王女を誘拐した。
そこで、サイモンは正義のために、王女と協力して王子を逆に罠に嵌めた……らしいのだが、おそらく金の流れが何かあったんだろうな。
王子がペラペラと自分の悪行を話すのを全て国王自身に聞かせて、結果、悪事が露見して王子は島送りになったそうだ。
なるほど、リーリエにとってクリスは恩人というわけか。
「お待たせしました、クリスティーナ様! リーリエ女王陛下がお会いになるそうです! 早く、早くお入りください」
門番の男が猛ダッシュで戻ってきた。
何が彼をここまでさせるのか? というほどの猛ダッシュだ。
Bボタンを押しっぱなしにしてもここまで走れないぞ。実はシーフで、ダッシュのアビリティを持っているのか? とか思ってしまう。
「はい。では、行きましょうか、コーマさん」
「わかった」
門番の男に急かされながらも俺達は王城の中に。
とはいえ、俺も緊張するな。
緊張しすぎて、何か大事なことを忘れている気がする。
そのヒントはあるはずなんだ。
例えば、堀の周りに植えられた白い花。
そして、国旗の白い花。
いや、それ以前に、リーリウム国という名前や、リーリエ女王陛下の名前。
これもヒントだったんじゃないか?
どうして、門をくぐり、王城の中に入った直後、
「クリスお姉さまぁぁぁぁっ! お会いしとうございましたぁぁぁっ!」
この国の女王陛下がクリスに跳びかかったのを見るまで、その答えが出なかったのか?
外に咲いている花も、国旗の花も、全て百合だった。
そして、リーリウムもリーリエも全て百合を意味する言葉だった。
「クリスお姉さまの髪、肌触り、くびれ、足、あぁ、クリスお姉さま!」
つまり、目の前の女性、百合だった。
しかも、極度の変態の。
クリスが引くほどの……。
「あぁ、クリスお姉さま、リーリエは、リーリエはこの手を絶対に離しません」
……さっきの門番の男が全速力だったのが理解できた。
こんな光景、門の外でやられたら、この光景を見た民衆は何を思うか?
きっと俺と同じことを思うだろう。
この国の女王陛下はどこか壊れているんじゃないか?
ブラックバスのアンケートについて、〆切ました。
ありがとうございます。
感想及びメッセージで、本編の展開の余韻があとがきで台無しになる可能性があるというアドバイスを受け、確かに、これからシリアスムードに入るのにブラックバスの話をするのはどうかということで、別枠連載をすることになりました。
あとがきを楽しみにしてくださっていたかたは、申し訳ないですが、気が向いたた時にブラックバスのことを思いだして読んでみてください。
一人でも多くの方に楽しんでもらうために、これからも頑張っていきますので、異世界でアイテムコレクターをよろしくお願いします。




