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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode05 緑の牢獄

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水に流せぬ関係性

~前回のあらすじ~

クリスの前歴は山賊だった

 クリスが元山賊で、女王陛下を誘拐した?

 なんて無理のある設定をぶち込んできやがったんだ。


「あ……あぁ、ツッコミ待ちのところ悪いが、マジで吐きそうだからな……あとで……」


 あとでハリセン用意してぶん殴ってやる、そう言おうとしたところで、馬が嘶き、馬車が急停車した。

 ……勘弁してくれ、そんなボディーブローをかわす余裕は今の俺にはない。


「どうしたんですか!」

「ゆ、勇者様! そ……それが、魔物が! 魔物の群れが!」


 魔物の群れ?

 ……よし、馬車から降りるチャンス!


 俺はそう思い、馬車から飛び降りた。

 よっしゃ、地に足がつくのって、最高!


 なんか、こう、こみ上げてくるものが――



   【しばらくお待ちください(小鳥のさえずる音)】



「もう、コーマさん、急に動くから」

「悪い、でもだいぶマシになった」


 皮の水筒の水を飲み干し、馬の前に出る。

 50メートルくらい前方にいたのは――約50匹の狼の群れだった。

 5列くらいになり、左右からこちらを囲もうとするように陣取っている。


 ……あれは、鶴翼の陣か!


 とか言ってみたくなるな。

 でも、50匹の群れってどうなんだ?

 数は確かに武力だが、野生を生きるうえで、餌の問題とか起こりそうな気がするが。


 狼の群れは、馬が止まっているためか、走らずじっくりと詰め寄ってきている。もしも俺達が背を向けたら、一気に襲い掛かってくるだろう。

 そんな雰囲気を醸し出している。

 距離、残り30メートル。


「ロアーウルフですね。気を付けてください、群れでの狩りを得意とする魔物で――」

「あいよ、ウォーターボム!」


……………………………………………………

ウォーターボム【投擲】 レア:★★★★


留め金を抜くと10秒後、大きな水球を発生させ全てを飲み込む。

周囲50メートル以内に近付いてはいけない。

……………………………………………………


 エレキボムの水バージョンだ。

 俺はそれを60メートルほど前方、狼どもの後方に投げた。


 あ、一匹、ボールと勘違いして追いかける狼がいた。やっぱり狼とはいえ所詮は犬のようだ。

 そして、その一匹が見事にウォーターボムをキャッチしたのが、留め金を抜いた10秒後だった。


 俺達の僅か十メートル手前まで巨大な水球が発生し、狼と周囲の大地を、木々を飲み込んだ。

 流れに抗うことのできない狼達、でも、死ぬほどではないようだ。


 ウォーターボムは致死性のダメージを与えるには弱いなぁ。


 ということで――アイテムバッグから登場するは轟雷の杖!


「雷よ!」


 そう叫びながら杖を振った。

 巨大な雷が杖から放ち、水球の中へ。


 その衝撃で、狼だけでなく木々が粉々に砕けた。

 うん、不純物だらけの水はよく電気を通すなぁ。


「で……コーマさん、この後どうするんですか?」

「どうするって? 魔物は全部倒したぞ」

「あの水をどうするんですか?」

「あぁ、前にコースフィールドで試したんだ」


 帰り道、スーとシーが野宿で寝ている間に試した。

 実験もしていないアイテムをいきなり実戦投入できない。


 結果時間が過ぎたら水は消え、抉れた大地も抉れた穴の中に戻るから、均せば問題ない。

 ……草原なら。


「でも、森の中だとこうなるわな」


 木々の破片のおかげで大地が盛り上がってしまった。

 これでは、馬車でここを通ることはできない。


「ということで、馬車での移動は諦めて、俺達はここから走っていくか」

「なんでそうなるんですか! ここから城下町までどのくらい距離があると思うんですか!」

「ほら、力の妙薬飲んでいいから」

「……確かに、それなら今日中には着きますね」


 よし、クリスも折れたようだ。


「なぁ、御者のおっさん、前の町に戻って、冒険者支部にこの瓦礫撤去の依頼だしてくれないか? 報酬は全員分で金貨10枚あったら足りるよな?」

「え、ええ!? 多すぎます、金貨3枚で十分ですよ」


 そうか? なら金貨3枚でいいか。


「でも、ここからリーリウム王城まで距離にして80キロはありますよ! 走っていくなんて」

「ああ、それは心配ない」


 だって、力1.5倍だぜ?

 クリスは健康ジュースだと騙されて、力の神薬20本は飲んでいる。

 力の妙薬を飲めば、力が10倍になる。

 クリスも俺も力の妙薬を飲んだ。


「コーマさん、どうせなら競争しませんか?」

「待てよ、俺、さっき吐いたばかりでふらふらで」

「よーい、どん!」

「だから、待てって!」


 そう言って走って行った。


   ※※※


「うそ……」


 2メートルはある瓦礫の山を、二人はまるで小さな段差のように軽々と乗り越えて走り去った。

 そのありえない光景に目を疑った。私が瓦礫の山をよじ登った時には、砂埃は見えるが、二人の姿は見えなかった。


 ……勇者とその従者って、パねぇな。


 特権階級がある理由がよくわかった。



   ※※※



 時間にしてちょうど30分が経過したころ、俺達はようやくリーリウム国に到着した。

 で、勝負の結果は、


「まだまだ甘いですね、コーマさん」

「うるさい、体力バカと一緒にするな」


 俺の負けだった。最初は余裕だったのだが、俺の弱点が露わになったな。

 つまり、俺は脚力はクリスよりもはるかに高いのだが、いかんせんスタミナがないようだ。

 見事なまでの短距離型だった。


 体力の神薬ってどうやって作れるんだろ。きっと作れるよな?


 とりあえず、アルティメットポーションを水代わりに半分補給。

 疲れが一気に吹き飛んだ。


「あ、コーマさん、私にも水下さい」

「いいけど、これ、不味いぞ」

「いいです……って、本当に不味いですね。あ、でも疲れが一気になくなりました……あ、間接キスですね」

「だな。まぁ、今更だって気がするが」


 同じ部屋で寝た仲だし、ここに来るまでも野宿をしてるからな。


「むぅ、コーマさん、もうちょっとどぎまぎしてくれるかと思ったんですが」

「なんていうか、俺とお前の関係って、そんな関係じゃないだろ?」


 俺がそう言うと、クリスは難しそうな顔で、「じゃあどんな関係ですか?」と尋ねた。

 そんなの決まってる。


「飼い主と飼い犬だな」

「そんな、コーマさん、自分のことを飼い犬だなんて卑下しなくても」

「お前のそういうポジティブなところが好きだな」


 どう考えてもお前が飼い犬だろ。ついでにバカ犬だ。クリスが勇者で、俺がその従者という関係性を含めてもその関係性は崩せない。


「それより、宿に行こうぜ」

「え? 王城に行かないんですか?」

「こんな汗臭い格好で行けないだろ。女王陛下に会うのに」


 本当はシャワーを浴びてすっきりしたい気分だ。

 そっと魔王城に戻ってシャワーを浴びてくるか。


 ……いや、ここはお湯を買って、タオルで身体を拭くだけで我慢するか。


 俺が葛藤をしていると、クリスは口を開いて、閉じて、また開いて、を繰り返した。

 ……エサを求めてる鯉の真似、というわけではなさそうだ。

  

「どうした?」


 俺が訊ねると、クリスは恐る恐る尋ねた。


「あの……コーマさん。聞かないんですか? 私が山賊をしていた理由とか」

「あぁ? 気になるのは気になるが、悪いことじゃないんだろ? 少なくとも、女王陛下を誘拐したのも、女王陛下自身のためだった、とか」

「……どうしてそう思うんです?」

「だって、クリスだし」


 そもそも、本当にクリスと女王陛下が加害者被害者のみの関係だったとしたら、こんな依頼、クリスにまわってこないだろ。


「それ、理由になってないですよ。可能性あるじゃないですか! 私は実は魔王だった、とか」

「それこそないわ。お前が魔王なら部下が憐れすぎる。憐れな部下は俺だけで十分だ」

「コーマさん、部下部下言いますけど、絶対私の従者って自覚ないでしょ」

「クリスが借金を払い終えたら少しだけ思ってやるよ」

「うぅ……借金残りいくらでしたっけ?」

「金貨87枚と銀貨50枚、銅貨3枚」

「……その銅貨3枚っていうのは?」

「前の町で貸してやっただろ、串焼き代」

「……そうでした」


 クリス、撃沈。

 本当に、ご利用は計画的にしてもらわないとな。


「このままだと、一生かかっても借金返せないぞ」

「こうなったら、借金を帳消しにするためにコーマさんと結婚を」

「ヤダ」

「えぇ、少しくらい考えてくれてもいいじゃないですか」

「お前と結婚したら、俺のストレスが半端ないことになりそうだから絶対にヤダ」

「もう、コーマさんの意地悪! 冗談ですよ!」


 わかってる、コーリーの、つまり、俺の真似をしたんだろ。

 クリスが文句を言い、俺が笑う。


 ま、これが俺とクリスの関係って奴だな。

 きっと、ウォーターボムの力でも水に流せない、そんな関係だ。


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