夢の記憶はミスリルの指輪
~前回の普通のあらすじ~
クルトは普通に寝ずに働いていました。
従業員全員が揃い、毎朝の最終チェックも終わった。
開店は教会の10時の鐘が合図。コーマ様が用意してくださり、店の壁に掛けられた時計の秒針が12のところに行った2秒後に鐘の音が届く。
同じ時計を教会にも卸しているはずなのに、2秒の誤差がある。コーマ様が言うには、音の伝達速度による差らしいけれど、そもそも音に速度があるなんて知りませんでした。
何はともわれ、正確に鐘のなる時間がわかるため、開店時間残り10秒になったところで、リーさんが入口の鍵を開ける。
店の外には、今日もすでに行列ができていた。
そして――
「フリーマーケット、本日開店いたします。ようこそいらっしゃいました」
『いらっしゃいませ、フリーマーケットへ』
リーの合図を皮切りに、私、ファンシー、シュシュ、レモネの四人も挨拶とともにお客様をお迎えした。
冒険者ばかりのお客様は挨拶に見向きもせず求めるものの物色を始めた。
私はすぐに会計所へと向かう。
だいたいはポーションなどの薬。あと、短剣等の投擲アイテム。非常食や乾パン。
彼らは、勇者ではない冒険者で、おそらくこれから迷宮の1~9階層へと向かうのだろう。
商品を買うと、すぐに店を出て行った。
低級の魔物しかいない地下迷宮1~9階層だけれども、迷宮外の魔物と違い、倒すと魔石を落とす。
そのため、低級の魔物を倒して魔石を集めるだけでも十分に生活はできる。
通称、低級迷宮冒険者と呼ばれる彼らは、この店にとって約3割を占めるお客様だ。
なぜ、彼らが朝一に商品を買いに来るのか?
それは、冒険者以外はあまり知らないのだが、地下迷宮の1~9層には低級の魔物が約420種いる。
そして、それぞれ落とすアイテムが異なり、冒険者ギルドは一般の冒険者に対してそのアイテムの採取依頼を出す。
採取依頼が更新されるのは、朝の9時であり、その依頼を受けた冒険者が、その仕事のための装備を整えるために店に並ぶ。
そのため、朝の10時から30分は、冒険者タイムと呼ばれ、冒険者以外のお客様はあまり来ない上、私達従業員からしたらまさに毎日この時間は戦争状態である。
そして――10時30分になると、少し落ち着きを取り戻し、
「ねぇねぇ、本当だってファンシーちゃん。おいしいパン屋なんだって。今度一緒に行こうよ」
こういうお客様も出てくる。
「ジョーカーさん、またそんなこと言って。前に紹介してくれた雑貨屋さん、三日前に閉店したんですよ」
「いやいや今度は本当だって。今度持ってくるからさ、食べてみてよ」
ジョーカーさんはギルド職員で10階層の見張りをしている男の人です。
よくお店には来てくれるんですが……正直あまり買い物をしてくれない人です。むしろ、こうしていつもファンシーにちょっかいをかけています。
こういう時はだいたいレメリカさんが訪れて脳天に鉄拳を喰らわせるのですが……
「いい加減にしなよ。他の客だっているんだから、ナンパは営業時間終了後にしな」
そう言ったのは、今年勇者になられたスー様でした。よくお店にも買い物にいらっしゃるお客様です。
「……ん? おぉ、今期勇者三大美人のスーさんじゃないですか! 俺、大ファンなんですよ、握手してもらっても――」
「このグローブ越しにならいいよ」
そういって、スー様はオーナーコレクションの陳列棚の横にあるオーナー失敗コレクションの中から、
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両面トゲトゲグローブ【拳】 レア:★★
硬い棘がついたグローブ。殴られるとイタイ。
どういうわけか手のひらに当たる部分にも棘がついている。
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を取り出して手にはめた。
ジョーカーさんは顔を青くして、
「あ、用事思い出した。じゃ、じゃあね、ファンシーちゃん」
と言って出て行った。
「今度はちゃんと買い物していってくださいね」
ファンシーは笑顔でジョーカーさんを見送った。
そんなんだから、ジョーカーさんはまた店に来るのだろうけれど、これが彼女の持ち味だから仕方ない。
本当に彼女目当てで来る客も多く、またそういうお客様は「躾けられているため」、忙しい繁盛時間を避けて来店するらしい。
「悪いことしたかい?」
「いいえ、ありがとうございます。スー様、今日は何かお探しでしょうか?」
「一つ聞きたいことがあってね。翼竜の牙で作られたドラゴンスレイヤー、金貨1200枚で売れたんだって?」
「購入者については述べることはできませんが、金貨1200枚と金貨200枚相当のアレキサンドライト原石で販売いたしました」
私がそう言うと、スー様は頭をかこうとして……グローブをしたままだったことに気付いて、それを外し、再びぽりぽりと頭をかいた。
もしかしたら買いたかったのでしょうか?
そう思ったら、
「売るつもりじゃないんだけどさ、メイベルならこれをいくらで買い取る? 鎌の部分は翼竜の牙、鎖は翼竜の鱗、重しの部分は白金でできているんだが」
「……これは凄い一品ですね。本当にお売りいただけないのですか?」
「悪いね。これは誰にも売ることができないんだ」
鑑定スキルを使わなくても、彼女の言っていることが本当だとすぐにわかる。
鎌の刃の部分には曇り一つない。なのに狂気を纏ったそれは、ドラゴンスレイヤーを見たときの驚きを彷彿とさせる。
さらに鉛や金よりも重いその重しは確かに白金だ。
なにより、竜の鱗を鎖に加工する技術……錬金術と鍛冶職人、さらに細工師のそれぞれ神匠クラスの人でしか作れないでしょう。
「……使い手を選ぶ武器であることを差し置いても、当店なら金貨1500枚で買い取りをさせていただきます」
「……金貨1500枚か……そうだよね。いや、悪いね、変なことを聞いて」
スー様はそう言うと、ぶつぶつと「やっぱり身体で払うしか」と呟いていました。
嫌な予感しかしません。いえ、予感というか、それはもはや、予測、いえ、推測を通り越して確証ですね。
だからあえて聞きませんが……あの鎌を作ったのはコーマ様なんでしょう。
スー様の様子を見ると、「お金は適当でいいから」みたいなことを言われたのではないでしょうか?
いくら勇者といえども、金貨1500枚なんて簡単に払えるような金額じゃないですから。
「身体で払うしか」と言っていたスー様の顔……本当に恋する乙女です。
私は初めてコーマ様に会った時のことを思い出しました。
私を奴隷として買うことのメリットを聞かれ
『身体で払いましょうか?』
と私は言った。あの時は本気でこの店で働けるのなら、この身を差し出してもいいと思っていた。
『そういうのは間に合ってます』
これがコーマ様からの返答だった。この時の私は、女としての魅力が足りないのかとも思ったり、店で雇ってもらえないかもしれないという不安を持ったりもしたが、それ以上に安堵があった。
やっぱり怖かったのだ。
誰かの奴隷になるのが、誰かの言いなりになるのが、誰かに身体を全て捧げるのが。
でも、今はどうなんだろう?
私は……私はコーマ様の奴隷を辞めたいのだろうか?
辞めて、どうしたいんだろう?
きっと、コーマ様の奴隷でなくなったとしても、コーマ様は今まで通り私に接してくれるだろう。
今まで通り、奴隷としてでなく一人の人間として接してくれるだろう。
そして、私は何をしたい?
この時、脳裏をよぎったのは、エルフの女王とエルフの騎士団長との結婚式の光景だった。
幼い時、父に連れられてエルフの森に向かった時、エルフの女王が、エルフの騎士団長からミスリルの指輪をつけてもらう光景が。
エルフの秘宝――ミスリルの指輪。その指輪を自分の指へと、愛する人から嵌めてもらうことが、エルフの女性にとって永遠の夢である。
でも……なんであの思い出が今頃?
もしかして……私、コーマ様と……したいの?
頭の中で結論が出そうになったとき、スーが申し訳なさそうに言った。
「あぁ、そうだ、メイベル。ちょっと悪いんだけどさ、厄介な客が来るんだけど、そっちの相手してもらっていいかなぁ」
「はい、お客様でしたら歓迎いたします」
そう言った直後、店の入り口から、スー様の妹、シー様とともに老紳士と思われる立ち振る舞いの人が現れた。
「ワシがジンバーラ国元国王、ゴルゴ・アー・ジンバーラである!」
……え?
~コーマは裏でこんなスライムを作っていました~
歯車(小)×歯車(中)×鉄のインゴット×スライムの核。
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ロボスライムβ【機械生命】 レア:★★★★
機械仕掛けのスライム。とても固いボディーを持つ。
α、β、γが揃うと超絶ロボスライムに変形合体する。
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コーマ「ちなみに、βは水中活動をγは空での活動が得意だ」
コメット「αちゃんが得意なのは何なんですか?」
コーマ「地上での活動だな」
ルシル「それって、普通じゃないの?」
コーマ「……それを言うな」
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昨日と今日で島根に旅行に行ってきました。
石見銀山とかのネタ、異世界でアイテムコレクターの中で使えそうです。
総合的にいい旅でした。




