親父と取り合ったプロベースボールカード
~前回のあらすじ~
コーマが花婿に選ばれた。
ジンバーラ国には、変わった風習ができた。
ゴルゴ・アー・ジンバーラ、略して爺さんは、数十人の愛人を持ち、百人を超える子供がいる。
なんとも途轍もない話だ。
当然といえば当然なのだが、それでも凄い事に、子供全員の誕生日や特徴、好きな食べ物から嫌いな男のタイプまで把握している子煩悩親父なのだ。
会えない時間も長いが、それでも手紙のやりとりなどはしているそうで、スーが勇者試験に合格したときも大層喜んだそうな。
そんな子煩悩なバカ親父だからこそ、娘の結婚相手は自分の目で確かめたい。
そのために作られたのが、この「婿殿試練の洞窟」なのだという。
落とし穴やびっくり箱、ハニートラップなどは全てそのための試練だったとか。
ふざけた話だ。
「どうだい? 私達の連れてきた男は。なかなかだろ、パパ」
「……いい人でしょ、パパ」
「うんうん、パパ……いい響きじゃ」
うわ、爺さん、パパと言われて顔がデレデレになってる。
「っておい、スー。なんだよ、それ。俺を騙したのか?」
「悪いね、コーマ。試練の洞窟のことは、前もって伝えたらいけない決まりなんだよ」
「……お約束」
はぁ、そうですか。
「俺は宿屋に戻ってるぞ……正直疲れた」
「待て! 一つだけ言わせてもらう」
爺さんは真剣なまなざしで俺を見つめ、
「娘を、よろしく頼む」
「……元とはいえ国王が簡単に頭を下げるものじゃないと思うが」
「元国王である前に、この子たちの父親じゃ。私は子供たちを全員世界一愛しているつもりじゃが、それでも十分な愛情を注いでやれなかった」
爺さんは口惜し気に呟き、
「その償いとして、この程度の謝罪は――隙ありっ!」
「真剣白羽取りっ!」
急に爺さんが斬りかかってきたので、俺はとっさに両手で挟んだ。
「やるのぉ! 流石は我が娘が見込んだ男だ」
「爺さん、いい加減にしろよっ……あぁ、よろしく頼まれてやるから安心しろ!」
俺はそう言うと、剣を横にそらせて、手を振って帰って行った。
父親……か。
『ふはははは、光磨。このレアカードが欲しければ、そのカードをよこすのだ』
『うるせぇ、クソ親父! このカードは俺も1枚しかないんだ、そっちはダブってるんだから素直によこしやがれ!』
……バカなやりとりばかりしていたものだ。
親父とはプロベースボールチップスのカードコレクターとしていつも喧嘩してたなぁ。
……やっぱり、俺のことを心配してるよな。琵琶湖で貸しボート屋に身分証明書を見せたから、家族のもとには連絡が行ってるはずだ。
もしかしたら、捜索隊なんか出動させたかもしれない、うわぁ、そう思うと税金かなり無駄遣いさせちまったなぁ。
母さんも……いや、あの人は心配してないか。
とにかく、親父とは、たぶん二度と会うことはないんだろうな。
アイテムバッグからスマホを取り出し、何もせずにしまった。
まぁ、未練があるんだよな、きっと。
電源が切れているので、例え着信圏内でも電話がかかってくることはないし、ましてやここは異世界なのにな。
あぁ、ダメだ、少なくとも俺にはやるべきことがあるじゃないか。
アイテムバッグから、今度はアイテム図鑑を取り出す。
まだ1割も埋まっていないアイテム図鑑。やるべきことはいっぱいある。
パーカ迷宮にもまだいっていないしな。
俺は宿に帰ると、硬いベッドに横になった。
「……あぁ、アイテムでも作るか」
さっき、帰りに雑貨屋で、モーモーの革……白黒模様の牛の革を20枚くらい購入した。メイベルに頼まれていたものだ。
そのついでに、適当にアイテムを購入したので、作れるものも増えているだろう。
そう思いアイテムを取り出したのだが……やっぱり明日にするか。
なんか今日は疲れた。
そして、暫くして扉をノックする音がした。
開いてるからどうぞと言うと、スーとシーが入ってきた。
「ありがとうね、コーマ。話を合わせてくれて」
「……ありがとうございます、コーマ様」
「……何か訳ありなんだろ?」
俺がそう尋ねたら、スーは少し悲し気な瞳で、
「もう、長くないそうなんだよね」
「……衰弱が激しいって」
あぁ、わかってる。
診察スキルによると、あの爺さん、「衰弱」の状態異常を持ってたからな。衰弱は、状態異常状態だと回復魔法や薬の効きが悪く、最大HPも通常の半分以下になる状態異常だ。
たぶん、それがデフォ状態であるんだろうな。回復しにくいと言うのは、なにも消費したHPだけじゃなく、例えば寝れば回復する疲労なども消えない。
「だから、パパが死ぬ前に、安心させてやろうと思ってね」
「……コーマ様ならパパも認めてくれると思ったから」
あぁ、テンプレ展開だな。
そういう理由で、可愛い女の子の花婿の代理をするのはよくある話だ。
でも、作中の主人公、全員こういう気持ちだったのかな。
なんだろうな、このやるせなさは。
「……俺、役に立てたのかね」
「ああ、立ったさ。パパが喜んでいたからそれで十分だ」
「……報酬は、帰ってから払うね」
そうか。
役に立ったか……その言葉が最高の報酬だよ。
※※※
揺れる馬車の中、ワシは自国へと向かっていた。
息子が派遣した兵に娘たちが引き渡したのだ。最初からそういう約束じゃったからな。
成長した娘たちと会い、その娘たちが連れてきたコーマという男にも会えた。
いい男だ、あの男は。
できることなら、娘の本当の婿になってくれたらと思うが、それを実現させるには娘たちももっと頑張らないといけないのぉ。
でも、それを見届けることはワシには無理だろう。
……正直、先ほどの無理がたたり、今は足腰がいうことを聞いてくれない。
あぁ、そうだ。
そういえば、あのコーマくんから、薬を貰ったんじゃった。
精力剤か。
20歳のころの自分に戻れる……はは、本当ならそれほど嬉しいことはないわ。
そういって、ワシはその精力剤を飲み……
「ぬおおぉぉぉぉっ! 力が漲ってくるわ! おい、予定変更じゃ! この先の町にワシの愛するレベッカちゃんがおる! そこに急ぐのじゃ!」
「え? どういうことですか、なんで筋肉が盛り上がって服が破れてるんですかっ!」
「いいから急がんかい! ははは、ワシの青春はこれからじゃ!」
後で、医者より、ワシの衰弱の病は完治しておるとの診断が下った。
あたりまえじゃ、あの後、医者の元に行くまでにワシは子供をさらに10人は作ったのじゃからな!
それにしても、あのコーマという男、彼奴は一体何者なのじゃ?
~裏でルシルはこんなスライムを作っていました~
ライム×酢
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酢ライム 【料理】レア:★★
酢とライムを組み合わせたギャグ料理。
とても酸っぱいです。
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ルシル「スライムってすごいわね……空き巣犯人30人は飲み込んでいるわ。
飲み込んだうえで自分の身体を飲ませているわ」
コーマ「そんなスライムはどこにもいねぇっ!」