切り離された蜥蜴の尻尾
~前回のあらすじ~
大儲け間違いなし!
勇者試験の会場に多くの勇者候補とその従者が集められた。総勢1500名を超えた。
冒険者ギルド内ではおさまらないため、近くの多目的ホールに集められた。
広い会場とはいえ、1500名以上の、しかも大半が男となれば熱気が凄い。蒸し暑い。
これだとサウナのほうがまだましじゃないだろうか?
横からカタカタと音が聞こえる。
「クリス、緊張しているのか?」
クリスが震えており、剣の柄が鎧に当たっているのか。
「コーマさんはわからないかもしれませんが、あちらにいるのはサイルマル国の風の騎士団です。風のように迅速に魔物を倒すということから、サイルマル国の王よりその称号を賜ったことで有名です。あそこの女性二人は、スー・シー姉妹。凶悪犯ばかりを追う賞金稼ぎです。あそこで一人、壁にもたれている、獣の骨をかぶっている男の人は、ゴーリキ。一人で魔竜を打倒した傭兵です」
クリスはその後も、あんな英雄だとか、こんな冒険者だとかを説明していった。剣マニアの次は勇者候補マニアか。
それにしても顔をみただけでわかるってすごいな。テレビとか写真とかない世界なのに、なんでそこまでわかるんだ? こいつは。
まぁ、そんな風に周りの噂をしているのはクリスだけじゃないようだ。あちこちからささやく声が聞こえてくる。
一番話題に上がっているのは風の騎士団か。勇者候補の男を含め、六人全員が上級騎士とか、確かに反則だ。
(おい、あそこにいるのははっこうのクリスティーナじゃないか?)
(本当だ、はっこうのクリスティーナだ。なんでこんなところに)
おぉ、クリスの話題もあがってる。こいつ、有名人なのか?
プラチナの剣を持っているから白光のクリスティーナ? いや、プラチナソードを渡したのは昨日で、あれから剣を抜いていないだろうから白光などという二つ名がつくとは思えない。
おそらくは薄幸のクリスティーナ、という意味だろうな。うん、確かに幸薄そうだし。
暫く待っていると、壇上に一組の男女が上がった。
一人は30歳くらいの黒い長髪の剣士風の男。そして、もう一人は7歳くらいの赤いショートヘアの無表情の女の子だ。
「あのお方は、ギルドマスターにして勇者のユーリ様です」
「へぇ、ギルドマスターってあんな小さな女の子なんだ」
「そんなわけないでしょ、男の人のほうですよ」
「え? そうなのか?」
てっきりロリ少女ギルドマスターだと思ったんだがな。
そうか、男のほうなのか。
じゃあ、女の子は影のギルドマスターだな、きっと。
俺が影の店長をやっているみたいに。
「よくぞ集まってくれた、未来の勇者諸君!」
ギルドマスターユーリの大きな声が会場に響き渡った。と同時に、クリスの震えがおさまる。
緊張が解けたのか? と思ったら、もちろんその逆で、緊張しすぎてカッチンカチンになった感じだ。
でも、未来の勇者って、ここにいる人間の過半数は従者なんだけどな。
「私が冒険者ギルドのギルドマスターにして、君たちの先輩にあたる、勇者ユーリだ!」
その後、ユーリは威圧感のある声で、正々堂々とか、勇気を持ってとか、まぁありきたりな言葉をならびたてた。
正直、欠伸しか出てこないが、その声に感動しているクリスを見ていると、そんなにいいものかなぁと思い、耳を傾けてみる。
やはり内容があるようで内容のない話だ。まるで校長先生の長話だが、貧血で倒れるような人間は誰もいなかった。
「感激です! ユーリ様の声を生で聞けるなんて」
「そんなにすごいのか? ユーリってのは」
「あたりまえです! 7人の英雄の一人ですよ!」
「…………そうなのか?」
「あ、流石にコーマさんも7人の英雄は知っているようですね」
7人の英雄についてはルシルから聞かされた。
三年前、ルシルの父、大魔王ルシファーを殺した7人の勇者。それが7人の英雄だ。
そうか、ユーリもその一人だったのか。
ちなみに、人間の間では、ルシファーは、巨大な闇竜として伝わっているらしい。
魔王は未知の存在なのだ。
ユーリが檀上から降りたあと、代わりに上がってきたのは、俺にとっての大魔王、レメリアさんだった。
彼女は淡々と勇者試験について説明を行った。
そして、参加者全員にゼッケンが渡される。
まるでマラソン大会みたいだ。
「……なんで俺達が1番なんだ?」
自分の胸元に輝く1番の文字を見てげんなりした口調でつぶやく。
これだと悪目立ちしすぎるだろ。
「去年、勇者試験当日に8秒差で遅刻して、一年待ったんですよ」
うわ、俺がいる! ここに今年の俺がいる!
認めたくないが、俺とクリスは出会うべきして出会ったんじゃないだろうか?
一年前から申し込みをしていたらそりゃ1番だよな?
「でも、おかげで一年間修行できました」
「そりゃな……」
その後、俺達は1時間かけて全員迷宮の10階層へと移動した。
10階層に来るのは二度目。といっても、一度目は素通りしたようなものだからな。
クリスは迷宮についても知識はあるらしい。10階層の広さは通常の迷宮の20倍、なんと地上の町が10個分すっぽり入る広さがあるそうだ。
そして、11階層に続く階段や穴、転送陣が多くあるという。そのどれもが亜空間に繋がっており、その迷宮において魔物の種類も大きく変わるのだとか。
あと、階層が下に行けば行くほど魔物が強くなる。
(まぁ、住んでる魔王が違うから生み出す魔物も違うんだろうな)
当然だが、コボルト2匹しかいないのに200階層まである謎の迷宮についての話題は上がらなかった。
そして、冒険者ギルドが管理しているのが、その名の通りギルド迷宮。
ここの11階層~100階層が試験会場として解放される。それより下には立ち入り禁止、ルールを破ったら問答無用で失格。
転送陣は20階層、30階層、40階層と10階層ごとに設置されているそうだ。
「では、1番の勇者候補、クリスさんからどうぞ。何階層に行きますか?」
ギルドの男職員が案内を始めた。同時に2~4番の勇者候補と従者も案内されている。
一気の5組が移動するのか。
「そうですね、70階そ――」
「20階層だ! 行くぞ、クリス!」
「え、えぇぇぇっ!」
俺はクリスを引きずり、20階層行きの転送陣へと入って行った。
さて、これから忙しくなるぞ!
そう思った直後――
「お、さっそく……トカゲ人間だ!」
現れたのは二足歩行する、俺とおなじくらいの大きさのトカゲ人間。
銅の剣を持っている。
「リザードマンです!」
「あれがリザードマンか! よし、クリス、ゴー!」
「はい、クリス、行きます!」
直後、クリスが残像を残して消えた。
まるで光のような速さでリザードマンをスクラップにする。
そして、魔石とリザードマンの尻尾のみが残った。
俺はこの時、ようやく彼女の二つ名の意味を知った。
はっこうのクリスティーナの「はっこう」。きっと「白光」なんだろう。
それは合っていた。だが、その意味はプラチナソードの輝きを示唆するものではない、彼女の剣の速さがまるで光が走ったみたいに見える。
「ウソだろ……クリスが強いだなんて、何かの間違いだろ」
「素直に褒めてほしいところですが――」
クリスは困ったようにそう呟いた。
そして、もう一つうれしい誤算が。
それはドロップアイテムにあった。
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蜥蜴の尻尾【素材】 レア:★
リザードマン系の魔物素材。焼いて食べれます。
尻尾は切り離してもまた生えてきます。
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これが魔物素材。つまり、これを持っていけば討伐ポイントが手に入る。
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魔石(低)【素材】 レア:★★
魔力の塊。低レベルの魔物が落とす。様々な用途に使われる。
投げて使えば少しはダメージを与えられるが、それならただの石で十分だろう。
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魔石を拾ったことで、俺の脳内レシピが……一気に200種類ほど増えました。
しかも、かなり便利そうなアイテムばかり。
~魔物素材~
魔物素材は多種多様です。
そもそも、この魔物からどうやって有効なものを作り出すか? という考えから生み出されますからね。食用、素材、武器そのものなど。たとえば亜人種族なら、木の棒を持ち歩いていて、それがそのまま討伐アイテムになることになります。あと、物質系アイテムなら鉱石などを落としそうですね。
有名なアイテムでいえば、ユニコーンの角や人魚の血肉などがあげられます。
そして、こういう伝説に残りそうなアイテムを落とす魔物は、いつの時代でも乱獲されて絶滅への道をたどります。
それは、ファンタジーの世界だけの話ではありません。
有名な動物、サイ。その角は工芸品や漢方の材料として使われたりするため、密猟が行われています。2011年にはインドサイが密猟により絶滅しました。
レアなアイテムを持っているというだけで乱獲される魔物の気持ちも、少しは理解してあげましょう。