鍛冶屋のガッタン
キャンディーさんと珈琲を飲みながら話している。
「何でそんなに装備が少ないんですか⁉︎」
キャンディーは両手でカウンターを叩きつける。
「えっと… だって始まりの街にいた時はお金が少なくて装備を買えなかったのです。 これまでいろんな戦いがあって装備が壊れたりしたんですよ」
困惑しながらも壊れた事を話すと、 キャンディーさんは顔に手を当て溜息を吐いた。
「あー、 もぉッ‼︎ 何でそんな状態になるまで戦うかなぁ。 ラビホの町でも装備整えれたでしょ?」
「整えようと思えば整えれましたけど、 すぐにこの街に来るので此処で揃えた方が品揃えとか良さそうでしょ? それに装備を揃えるのに幾ら掛かるかも分からないので節約していました」
「でも装備不足で死んだら元も子もないでしょ?」
キャンディーさんは呆れたように言うけど、 ここら辺のモンスターなら倒せると思っていた。けど、 盗賊のリーダー見たいな強い人が襲ってきたら次は死ぬかもしれないよなぁ。 装備は最低限は揃えよう。
「そうですねぇ… これからはそんな事がないようにしますので案内頼みます。
先ずはそうですねぇ… 愛刀が直せるか調べたいので、 鍛冶屋の場所を案内してください」
「いいわよ。 マスター、 勘定お願い」
「珈琲2つで500リラだよ」
500リラと聞き、 すぐにマスターに出そうとした時、 キャンディーさんが手で制止をしてくる。
「ラカ君は今から装備を揃えるのでしょ? ここは私が払っておくから、 お金は装備に注ぎ込むんだよ。 今度でいいから何か奢ってね」
今度何か奢らなくてはいけなくなった。
500リラが何倍になるのやら… とほほ
「ありがとうございました。 珈琲とても美味しかったので又このお店に来ますね」
勘定を済ませ、 お店を後にし、 キャンディーさんの後ろを歩いて行く。
随分人通りが少ない場所まで案内されたけど、 今1人っきりになれば迷子確定だね…うん。
「ここがオススメの鍛冶屋だよ。 掲示板がある時に調べたから間違いよ。 でもね… ここの亭主が頑固で有名なのよ… 気に入った客にしか鍛冶仕事をしてくれないしね… ドワーフだから仕方ないけど」
やはり鍛冶屋の亭主ってドワーフなんですね… なんか始まりの街のあのドワーフを思い出すな… いい人だったよ。 あっ… 名前聞いていなかったよ。
「ドワーフですか… 始まりの街でドワーフにちょっとお世話になりましたので、 だいたいは予想がつきます。 まぁ入ったら何とかなるでしょう」
鍛冶屋の扉を開けると、 室内の気温が高い。 暑すぎやしませんか?
辺りを見渡すと椅子が何個かあり、 後はカウンターがあるだけ。 カウンターの奥から″カーンカーン″っと言う音が聞こえる。
奥には工房か何かあるのだろう。
「すみませーん。 見てもらいたい物があるんですが」
″カーンカーン、カーンカーン″
聞こえていないのだろうか?
「すみませーん、 すーみーまーせーん」
「煩い! 聞こえているわ! 打ち終わるまで待っておれ!」
やはり聞こえていたらしい。
「ラカ君。 ドワーフって皆あんな口調なの?」
「えっと僕もこれで2人目なので、 皆って訳じゃないと思いたいですね」
キャンディーさんはドワーフと話した事がないのだろうか?
しばらく待つとカウンターにドワーフがやって来た。
「なんじゃお主ら。 初めて見る顔だが何しに来た?」
「頼みたい事がありまして… この刀直せるでしょうか?」
カウンターに白雨を置くとドワーフが鞘から抜き、 白雨が真っ二つに折れているのを確認する。
「これを直すのは出来るが、 残念ながら、 又直ぐに折れてしまうぞ?
しかしこの小太刀… 誰に打って貰った?
よく出来た小太刀だと思うが、 もう刀身はダメだな。新しいのを買うのをオススメするぞ」
やはり一度折れたらダメになってしまうのか… どうする? もぅ新しいのを買った方がいいのかな。
目の前の白雨を見つめ、 考えていると
「お主がこの刀に愛着があるのは分かるが、 こっちの出来る事と言えば刀身を直してやりたいがすぐに折れてしまうのが分かっていて打つ事などできない。 出来る事と言えば、 刀身を交換するぐらいしか出来ない。 どうする? 交換するか、 新しいのを買うか決めてくれ」
刀身だけを交換出来るなんて知らなかった。
それならばやっぱりここは…
「両方お願いします」
「ん? おい、 今なんて言った?」
「だから両方です。 この刀の刀身の交換と、 もう一振り刀を購入したいです。 滅多に刀なんて折れないと思ってたのですが、 いざ折れた時、 戦いようがないので予備を持っていても悪くないと思いまして」
「ガッハッハ。 確かにそうだわなぁ。 戦闘中に折れたら役立たずになっちまうわなぁ。 よし、 刀の購入は此処でしていけ。 お主の事を気に入っちまった。 名前は何と言うんじゃ? 」
「ラカと申します。 亭主さんのお名前も教えて欲しいです。 この刀を直して貰うのに名前も知らないとは何か嫌なので。 此方で刀を購入していいんですか? 」
「ワシわなぁ、 ガッタンだ。
ラカはどんな武器を求めているんだ? 普通の刀か、 特殊武器とかあるがどうする?」
「特殊武器とは何なんでしょう? 初めて聞きました」
「特殊武器を知らなんのかい。 特殊武器はなぁ、 一癖も二癖もある武器の事を言うんだよ。 一例を挙げてみれば、 見た目は普通の武器だが、 重さが異常に重い武器だな。 他にも様々あるのだがワシが打てる種類は、
重さ重視の武器、 軽さ重視の武器、 刃が細かなギザギザの武器、 2本の刀の柄を引っ付けて1つにする武器。
それぞれメリットがあるが勿論その分デメリットもある。
特殊武器を使おうとするのならば先ずは鍛錬も必要となる。 どれか気になったのはあったのか?」
特殊武器にも色んなのがあるのだなぁ。
しかしデメリットもあるとすれば扱いづらいのもあるから使い手を選ぶ武器なのだろう。
「んーっと、 そのギザギザの武器と言うのに興味を持ったのですがメリットとデメリットを教えて貰いたいです。 後実物があれば見てみたいのですが…」
ガッタンは奥の部屋に向かった。
暫くすると刀を握りしめて戻ってくる。
「これが特殊武器の紅蓮刀だ」
柄も鍔も鞘も赤色だ。
「抜いてみても良いですか?」
「あぁ」
許可を貰い鞘から抜いて目を見開く。
刃の部分が細かいギザギザになっている。
まるでノコギリの刃を細かくした感じの刃を見ていかにガッタンさんの魂の込もった一振りだと分かる。
マジマジと紅蓮刀を見ていたらガッタンさんが口を開く。
「この刀は確かに凄い出来だと感じているが、 何分特殊武器と言うのはあまり使い手がいなくてな。
理由は特殊武器で様々だが、 この武器は特に不人気なんだ。
先ずは手入れが妙に面倒くさい。 この武器は普通の砥石で刃を研げない。 専用の砥石が必要で、 鍛冶屋にメンテナンスをして貰うしかない点と、 このきめ細やかな刃先だ。 硬い物も切れない。 もし、 硬い物を斬ろうとすれば、 刃先が欠けてしまい、 只の硬い棒と変化してしまう。これがこの特殊武器のデメリットだろう。
この武器のメリットは硬くない物を切った時にめっぽうに強い。
切り口が熱くなり、火傷みたいな感覚を味わうだろう」
説明を聞いて思ったのだがサブ武器としては悪くない気がする。
対人戦でも使えそうだし、 何よりもうこの刀に釘づけになっている。
「この刀を買います」
「分かった。 メンテナンスは任せておけ。 あとはこの刀はどうする?
刀身を変えるにしても何か要望はあるのか?」
白雨を見つめ、 今までの事を思い出す。
この世界に来てからどれくらい助けてもらっただろう。
最初は一目惚れだったなぁ…
よし決まった。
「なるべく折れにくく、 美しい刀身に出来たらお願いします」
ガッタンは顎に手を当て
「切れ味とかは後回しでも構わないのか?」
「切れ味とかも欲しいのですけど、 愛刀なので美しい刀にしたいのです。 強い武器が手に入ったからといって手放したくない。 納得の出来る武器なら違う武器にも浮気しないでしょう」
自信満々に答えてしまったが言った側から恥ずかしさがこみ上げてくる。
「お主の期待に答えて見せよう。 明日取りに来い。 お代はそうだなぁ… 10万リラだ」
金額が全然足らない。
どうしようとキャンディーさんを見るとキャンディーさんは額に手を当て溜息を吐いていた。




