AIのピエロ
今、 道を必死に走っている。
今日中に、何としてもナルティアの都に着かねばならない事情が起きてしまった。
時は遡り、 盗賊を倒して、 ナルティアの都に向けて歩いていた。
その時、 視野の下の方でいきなりテロップが流れ出した。
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プレイヤーの死が500人に突破しました。それに伴い、 プレイヤー諸君には、 ペナルティーが掛かります。 日付が変わっての午前2時に、 夢の中で強制召集を掛けます。 もし睡眠されていない方が入れば、 午前2時になり次第、 強制睡眠が掛けられ、 夢の中に案内されます。 敵などと戦っている場合、 殺される危険性がある為、 必ず宿屋なり安全な場所に居られる事をお勧めします。ペナルティー内容はまた後ほど。 繰り返しご案内します。………………ペナルティー内容はまた後ほど伝えます。
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いきなりこんなテロップが流れ出した。
何故こんな時に… 予定では歩いていけば、 ナルティアの都まで後2日ほどかかる。
外で強制睡眠など掛けられてしまえば、 いつ盗賊やモンスターに襲われても可笑しくない。 何があろうが本日中にナルティアの都まで辿り着かねば…。
そして現在ナルティアの都を目指して走っている。
走っても走っても道はまだまだ続いている。
何時まで走り続ければいいのだろうか?
陽は沈みかけ、テロップが流れ出してからずっと走っていたから、もぅ足が限界に近い。
ガクガク、 ブルブルと膝が笑い、 歩くのも困難になっている。
少し休憩しようと座込み、 中身の無い弁当箱を取り出し、 水を出し一息つく。
陽が完全に落ちて辺りは暗くなる。
月の灯りで多少は見えるが、 遠くまでは見えず、 見えても数メートル先までしか見えない。
今日中に街まで着けるのだろうか?
着けたとしても門が開いてるとは限らない。
不安が頭に過るが、 このまま道で寝る訳にもいかず、 必死に走り続ける。
あれから何時間たっただろうか… 遠くの方に火の灯りが見える。
門の灯りと信じて、重たくなった足を必死で動かす。
近くまで来たのか、 火の灯りだけではなく、 煉瓦で出来た門が姿を現しはじめた。
よし、 後ちょっと。 笑いに満ちた足よ… 疲れに負けず持ってくれ!
身体からは全身の汗が吹き出しており、 もぅ歩く元気もない体に、 気合いの鞭を叩きつけた。
門に辿り着くと途端に身体が鉛のように重たくなり、 今にも座りだしたくなる。
門番をしていたであろう人は、 今にも倒れそうな人物が走って来ているのを見て、 慌てて駆け寄ってくる。
「どうしたんだ‼︎」
「ハァッハァッ… スミマセン… ハァッハァッ…陽が落ち、 必死で街まで走って来ました。 ハァッハァッ…」
息を整えようと必死になるが、 膝と手が地面に付いてしまう。
「気持ちは分からないでもないが、 こんな状態まで走り続けて、 もし途中でモンスターと遭遇したらっとか考えなかったのか?」
門番は心配はしてくれてはいるが、 無防だろっと言いたいのだろう。
突然、 視界がグニャリと曲がり意識が遠のいていく。
「おい! 大丈夫…し……り…ろ」
意識が遠のいたと思ったら景色がガラリと変わり、 真っ白い部屋に変わった。 前には多勢の人、 人、 人。
横を見ようと身体を動かそうとするが、身体が全く言うことを聞かない。
周りの人も微動だにしていないって事は、 皆身体が動かないのだろう。
少し時間が経つと、 上から何かが降りてくる。
目を凝らして見てみると、 髪が赤色でアフロ、 顔は真っ白、 鼻のある場所には赤色の丸い物が付いており、大きな赤色の唇があり、 目には星型の眼鏡らしき物を掛けている。
服装は、 赤色と白色のストライプ。
見た目から見れば、 まさしくピエロそのもの。
ピエロは空中で停止し、 皆に聞こえる声を出す。
「ようこそプレイヤー諸君。 私はAIのピエトロと申します。 皆さんに説明させて頂く為に作られたプログラムです。 この空間は私が完全制圧できる場所ともなっています。
動く事などは一切出来ないと改めて認識してください」
やはり皆、 身体が動かなく、 声も出せないっていった所だろう。
「先ず、 貴方達プレイヤーを集めたのは、 貴方達に制限をかける為のイベントです。
イベントに関しましては、 此方から一方的にするのも、 危機感を感じられないと思いまして、 プレイヤーの死を条件に行う事を開発チームで決めあった結果です。
プレイヤーにはいくつかの恩恵がありパーソナルリバティーの住民との違いです。
その恩恵を今後プレイヤーの死亡人数に合わせて強制的に無くして行きます。
パーソナルリバティーの住民とプレイヤーでは何が違うか、 大まかに教えましょう。
1つ、 プレイヤーのみが自分のHP、MPゲージが見えるようにしている事。
1つ、 プレイヤーのみがステータスの中に掲示板がある事。
1つ、 レベルが上がる時にステータスポイントがあり、 自由に振り分け、ステータス上昇出来る事。
以上です。
最初から実装等せず住民と同じ設定でいいんじゃないか? と思った方も居るかも知れません。
しかし最初から恩恵が無いのと後から消えるのとは、 違いがあるのです。
最初から恩恵が無いのでは、 パーソナルリバティーでの強さが住民と余り変わりなく、 始めた時に冒険もせずに街で引きこもられても困ります。
ある一定の強さと情報があれば皆さんは行動し易いでしょう?
始めから何もわからず、 仲間も居ない方は如何したらいいでしょう?
街へ出るっといった行動も出来ない者は少なからず多いと思います。
そう言った事が無いように、 此方からは1人1人のアシストは出来なくても、 全体にアシストが出来るシステムを作ったのです。
それがいわゆる掲示板と言う、 非常に便利なシステム。
それでは何故にパーソナルリバティーの住民には無いのか…
掲示板等があれば、 国独自の発展は遅れも有りますし、 国の情報が筒抜けになると言った危険性も出てきます。
そう言った理由から僕達は住民には掲示板といった機能を作らなかった。
HP、MPゲージにつきましては、 プレイヤーが慣れない戦闘で、 どの位の戦闘は大丈夫なのかといった危機感を持って頂く為に。
そしてプレイヤーが住民より強くなる為にはステータスポイントの追加で住民達より自分好みに強くなれるといった事で、 皆さんを煽る為です。
結論から言いますと、 プレイヤー諸君はパーソナルリバティーの住民となる訳ですから住民と同じ様に扱わなければならない。そういった事から3つの機能を順番に使えなくすると言うイベントです。
それでもある条件を満たせば、 ステータスポイントを使う事が出来るシステムを導入しました。
それはダンジョンのボスを攻略出来た者たちです。
何人連れていてもダンジョンボスを倒しましたら全員に恩恵が与えられます。
しかし、 人数が増えれば増える程、 ボスも強くなりますので注意が必要となります。
そしてボスは相当強く、 倒すのが困難なので無理に挑まない事をお勧めします。
ですが、 この条件は期限があります。
恩恵が廃止になってからダンジョンを攻略されましても無効となりますのでご注意を」
パーソナルリバティーの住民が使えない機能は何れ無くなるとしても、 ステータスポイントはダンジョンボスを倒せば使えるようになるのか… ダンジョン攻略は必須って事だね。
「ここまでが説明ですね。 分からない人や聞いてない人は考えたり、 戻った時に誰かに聞いてください。
そして本日から消える恩恵は、 掲示板になります。 次のペナルティーはHP、MPゲージの表示が無くなりますので覚えといて下さい。 そして最後がポイントの使用不可になりますので、 使用不可になる前になるべくレベルを上げてステータスポイントを使う事をお勧めします。 それでは私の今日の役目は終わりましたので失礼させて頂きます」
ピエロのピエトロは執事がするような綺麗なお辞儀をすると姿が消えた。
最後のレベル上げを勧めるのはわかるが、 余計に早いペースで死人が出そうな勢いだな。
そんな事を考えていたら、 視界が朦朧として意識を手放してしまう。




